その九十 優柔不断
「_______________と、そんなこんなで今に至る」
爆走を続ける機車の中、ワタシは己の境遇について語りきった。
物心が着いた頃から「魔王」であったこと。
そして、今こうして王都の追っ手から逃げていることまで。
話し終わった後の車内は静まりかえっていた。
「はぁ……」
「ふぅ……」
隣にいたケイナとクルは陰鬱とした雰囲気で頭を抱えていた。
「先輩方、随分静かですね。どうかしましたか」
「いやぁ……ボクが思っていたよりも、長く重い話というか」
「内容が突飛過ぎてついていけないわよ……」
「もう一度話しましょうか?」
「「いやいい」」
2人は同時に手を振った。
確かに短時間で受け止めきるには多すぎる情報量ではあった気がする。
もう少し順を追って話した方が良かったか?
「マインは大丈夫か?」
「はい。姉さんが色々と苦労なさっているのだなと……」
「う、うう」
酔いが抜けず呻いているレイミを膝に、マインは穏やかに言った。
生まれたばかりのマインは周りの状勢や歴史等には疎いからか、そこまで難しく捉えていない様子だ。
「ねぇ、ナチュラルに姉さんなんて呼んでるけど。つまりは、今のマイン様はあのマイン様じゃないのよね」
「そうですね……ショックですか?」
「そりゃショックよ。しかも、そこで縛られてるオッサンがセイヴハートの当主とか……王都側から見れば私たち、ただの危ない犯罪者じゃない」
「……聞いて後悔しました?」
ケイナはその問いに数秒黙った後、ゆっくりと立ち上がった。
「……ふん。そんなの今更しないわよーだ」
口を尖らせて呟いた。
それが十割の本心とは限らないが、ワタシは内心ホッとしていた。
真に魔王である、という事実を突きつけてもケイナやクルは恐れることなく接しているのだ。
すると突然、ケイナは揺れる車内をすり足気味に動きながら、マインの隣に座った。
「マイン様。改めてよろしくお願いします。アタシ、ケイナ・ビリッツァって言います」
「は、はい。マインです。ケイナさんよろしく、です」
「ふへ……あ、アタシのことはケイナお姉ちゃん、って呼んでもらってもいいですか?」
「ぇ……ケ、ケイナ、お姉、ちゃん?」
「きゃおあッ!!そう!も、もう1回言ってみて!」
「先輩、何してるんですか」
打って変わって、ニヤニヤとした笑みで歩み寄るケイナを呼び止めた。
マインは目隠ししているからいいが、あの表情を間近で見れば普通なら殴り飛ばしているだろう。
「今のうちに手懐けておこうかなって」
「いや、手懐けてどうするんですか」
「しおらしいマイン様も可愛いじゃない?懐いてくれたら、毎日愛でられそうだし……」
「……」
「ケイニィ気持ち悪いです」
もしかしたら本人は気を紛らわしているのかも。
息を荒らげながらすり寄るケイナを、クルはげんなりした顔で眺めていた。
ちなみにケイニィというのはケイナのあだ名らしい。
「そういえばクルちゃん先輩はマインと面識あったんですか?」
「ボクは基本引きこもり気質ですからね……多分1度しか顔合わせてません」
「それは、ミヅキやローナとも?」
「事務的な連絡するだけなら何度かあったんですけど……2人共まあまあ歳上なので、話しかけずらかったというか」
「歳上?クルちゃん先輩って確か2年生じゃ……」
「ボクは天才なので飛び級で2年生です。本来は13歳なので中等部なんですけどね」
「へぇ……え、13歳?!」
年齢を聞いて即座に全身を見た。
確かに背が低いな、童顔だな、とは思っていたが。
まだ年端もいかない年齢ではないか?!
「な、なんですか。ボク何かおかしいこと言いました?」
「おかし、くは無いですけど……」
「む。なんなら今日のマリーの方が色々とおかしなこと言ってましたからね」
「……すいません。巻き込んでしまって」
唐突な罪悪感に思わず顔を伏せた。
13歳。マリが死んだときとほとんど変わらない年齢だ。
つまり、まだ魔族を相手にするほどクルは成熟していない。精神的には今のマインと遜色ないはずだ。
「謝らないでください……もう、魔王のクセに変なところで優しいんですから」
「そんなこと、ないです」
「マリー……貴女はこれから、どうするつもりですか?」
「どうするって……?」
「暗殺者の位の仇を討つのなら、それなりの覚悟が必要ですよ」
「_______________そ、れは」
「ザイン・セイヴハートが居場所を知っているんですよね?」
クルの言葉に、あらゆる人物の顔が浮かんだ。
目の前にいる者達。ワタシの前から去っていった者達。今、行方も分からぬ者達。
もしリリナの復讐をするなら。
次は誰を失うことになる?
彼らを連れていく気がないにせよ、また何かの拍子に失うかもしれない。
ワタシの答えは、情という障害に淀んだ。
「……ふふ。やっぱり、マリーは優しすぎますね」
「私は魔王です。今まで何人も人間を殺してきた私が、優しさなんて」
「これはボクの勝手な解釈なんですけどね。マリーの精神はもしかしたら、人間のそれに近づいてるんじゃないんですか?」
「人間の、精神に?」
「ボクが本で見た話では、魔王は血も涙もない奴だって書いてありました。でも、今のマリーは明らかに違いますよね」
確かに、クルの言う精神の変化には思い当たる節があった。
マリだけを優先していた思考が、いつの間にか周りの人間や魔族にまで及んでいる。
これがマリの身体からくる影響なのか、単なる心情の変化なのか。
「ワタシが……人間に。」
「でも、それが必ずしも悪い傾向であるとは限りません。確かに戦いの中での情は、時に判断を鈍らせます。でも、その情があるからこそ活きるものだってあるんです」
「活きるもの……」
「だってほら。今こうして周りにいる人も、もしかしたらその情が招いたものかもしれませんよ?」
「クルちゃん先輩……!」
「ね?だからもう少し元気な顔でいてくださいよ」
「……ぼっちがカウンセラー気取りですか?」
「ぅっ……」
励まそうと、理解しようとするクルの姿勢が少し嬉しかった。
まだ、出すべき答えは見いだせないが、重苦しかった肩の荷が少しだけ軽くなった気がした。
「ぅぁ、ボク……良いこと言ってましたよね」
「はは……ヘコみすぎですよ。ちょっとした冗談ですって」
「自覚はあったけど、そんな、ぼっちって……軽い冗談の割りにはボディーブローのように重かったですよ……」




