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その八十八 急速

 

「爆発、確認しました」


 ほの暗い森の中、鎧を着込んだ兵士が告げた。

 1人ではない。とある民家が爆発したのは1つの部隊によるものであった。


「_______________突入」


 先頭の合図と共に10の兵士が民家へとなだれ込む。

 兵士たちは統率の取れた動きで次々と民家中を隈無く見ていった。


「いません!」

「こっちにも見当たりません!」

「2階には誰も!」


 だが、発見の報告は上がらない。

 爆破する数秒前まで家の中には人の気配がしていた。

 いないわけが無い、と兵士の誰もが思っていた。


 数分後、諦めて外に出る兵士。

 ワタシはそんな無様な奴らを高くから見下ろしていた。


「おい、まだ探してない所があるだろう」


「……!屋根だ!屋根の上だ」


 驚く雑兵共を嘲笑い、ワタシは飛び降りた。

 目の前に並んでいるのは王都兵。

 魔力を感知したところあと2人、近くに隠れている。


「見たところ王都の兵のようだが、誰の差し金だ?これでも善良な市民なんだが」


「誰が言うか。その姿で騙せると思うなよ、魔王が!」


「……ミゼンガか?」


 王都の王で間違いなかった。

 ワタシが魔王であると知っている者は限られている。その中、雑兵をこき使える者を考えればほとんど確定だ。


形白(マリオネット)はどこにいった!この辺りにいるんだろ!」


「それこそ誰が言うか。10人程度で私たちをどうにか出来ると思うなよ」


「馬鹿が。ここにいるのはほんの一握りの部隊だ。今に貴様らを包囲できる量の兵が駆けつける」


「……ああ、そうか。それで何とかなると思ってるんだな」

 

 余裕ぶるが、大量の兵となると少し面倒だ。

 戦えないマインやレイミ達は裏口から逃げ、今は近くにいない。

 兵士と接触されればカバーはし切れないだろう。


「魔王め、人間を舐めるなよお!!」


「はぁ_______________舐めるなって方が無理だよ」


 軽く放った風の弾丸が兵士全員の腿を撃ち抜いた。

 強化した金属など、貫くのは造作もない。

 走り出す姿勢だった兵士たちは盛大にすっ転んだ。


「うがっ!……くぅっ、お、のれぇ!!」


「安心しろ殺しはしない。だから目的とか諸々言え。でなければ今の発言を撤回しなければならない」


「ちぃ……我々は、ミゼンガ様の命令でここに来た」


「知ってる。他に無いのか」


「マリ・イルギエナの殺害と形白(マリオネット)2体の捕獲が我々の目的だ。それ以外にはない」


「アイツ……形白(マリオネット)も魔王もそう簡単にバラすような情報ではないだろ。ペラペラと喋りおって」


 ミゼンガ・キンケーブル。

 何をしたいのかは分からないが、昨日の騒ぎでワタシは見限られたらしい。

 迷惑をかけている自覚はあるが、直接害は与えてないだろ……。


「ふ、ふふ……貴様は終わりだ。何を相手にしているのか分かってないのだろう。今貴様が相手にしているのは王都だけではない」


「……というと?」


「王都と3つの大国が手を組もうとしているのだ。新魔王軍の出現、王都に潜む旧魔王……この状況を前に人間は立ち上がったのだ!」


「誰が旧魔王だ」


「我らは1つになろうとしている。この世に魔族は邪魔なのだ!今に見ていろ!完全なる平和はすぐそこに来ているぞ!」


「人間と敵対しているつもりはないんだが。第一こうして取っている手が平和からかけ離れているだろうが」


「人間の皮を被っただけで、人権を得たつもりかクソ魔族……!!」


「……タリムの気持ちがちょっと分かったよ」


 嬉々として語る兵士に踵を落とした。

 恐らく形白(マリオネット)のことも人として扱ってない。

 タリムはこういうヤツらを人間、と呼んでいたのだろう。


「さて……隠れている2名も出てこい。今なら痛くないように気絶させてやる」


 倒れた兵士の山を片付けてから、周囲に声を張った。

 残りの者が近くに隠れているのは分かっていた。


「……はい」


 数秒もすると、その影は草むらから出てきた。


「……え、先輩?」


「何よ」


 ケイナ・ビリッツァがそこに立っていた。


「先輩が、追っ手なんですか?」


「違うわよ……てかさっきの態度はどうしたの。アタシを前にした途端に畏まるじゃない」


「それはそういう演技っていうか……てかケイナ先輩が何でここに?」


「アンタを追ってたそこの人達について行ったの」


「……え、何でですか?」


「それは……その……」


 何やらモジモジしだすケイナ。

 彼女の意図が分からない。敵に回られたら、どう手を出すべきか分からないので困るんだが。


「し……い、だったから」


「え?なんて言いました?」


「ア、アンタが心配だったからって言ってんのよ!!」


 ケイナは赤面しながら叫んだ。

 ワタシは予想外の答えに思わず面食らってしまった。


「だって、王都にはアンタの写真が出回ってるし!なんか、周りは皆アンタのこと悪い魔族とか言ってるし!」


「え、私がですか?」


「そうよ。だ、だから、ホントに……心配だったんだから……」


 ケイナの声は徐々に小さくなっていき、果てには顔を覆って座り込んでしまった。

 どうやら王都でのワタシは要注意人物として扱われているようだ。


「嘘、なのよね?アンタが、魔王なんて」


「すいません、それは本当です」


「セイヴハートの家を壊したのも?」


「私です。でも、人間を滅ぼすとかはする気はないです」


「……じゃあマイン様は何なの?アンタの妹なんでしょ?」


「……言えません」


「何よそれ。意味、分かんないわよ」


 俯いた顔からすすり泣くような声が聞こえてきた。

 これは、どんなに強い兵よりも厄介だ。

 まさかミゼンガの手先なのではと、思うほどだ。


「なによぉ……」


 見ると、ケイナの赤く腫らした瞳が向いた。分かっていたが演技ではない。

 敵ではなく安心したが、どうしたものか。

 このままだと仲間を疑われるので離れさせた方が良いが、そう簡単に離れてくれるだろうか。


「いやあ先輩、どうしましょ_______________!!」


 大量の魔力を検知。

 森全体を取り囲むように陣取っている。

 言っていた通り、奴らの援軍が来たようだ。


「……どうしたの?」


 ケイナはキョトンとしている。

 この状況に巻き込むにはいかないし、逃げようにも魔力反応に紛れてマイン達がどこか分からない。

 マズイ。万事休すだ。


 ブォン ブォン ブォン


 獣の威嚇音が森を響いた。

 後ろから超速度で近づいて来ている反応が複数ある。

 それも複数が全く同じ速度で近づいていた。

 異常な反応にワタシは思わず振り向いた。


「_______________な、鉄の箱?!」


「あ、あれ、魔導機車じゃない!!」


 車輪を付けた鉄箱がコチラに近づいてきていた。


「敵……?!くっ、迎え撃つか!!」


「おい、魔王!私だ私ぃ!!」


 鉄箱からセリルの顔が飛び出した。

 大声を上げながら手を振っている。


「掴まれぇ!これで包囲を突っ切る!!」


「はぁ?!それにしがみつけと?!無茶を言うな!!」


「急に止まったら再発進まで時間がかかるんだよ!このままの速度で行くからな!」


「余計に無茶だろ!私をなんだと思っているんだ!」


「魔王だろ諦めるな!為せば成るものだ!!」


「待、くそ_______________ふざけるなぁっ!!」


 悪態をつきながらも通り過ぎるタイミングで鉄箱に向かって跳んだ。

 過ぎる瞬間、都合よく付いていた手すりに掴まると、振り落とさんとする衝撃がワタシを走った。


「うぐおおおお!!止まれ!一旦止まれええ!!」


 必死の訴えはセリルには聞こえていない。

 無限にかかる重圧に腕部が悲鳴を上げている。

 それにしてもキツい、重みが人一人分ではないような……。


 ひたすらに耐える中、腰や足の違和感に気づいた。


「……?」


 恐る恐る目を向けた先には。


「うぶぶぶぶ!!ま、待ちなさいよおおおお!!」


「マアアァァリイイィィ!ボクもいますからねぇぇぉぉぉぉぁ!!」


 ワタシにしがみつくケイナとクルの姿があった。


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