その八十五 居候
聞こえてくるノック音を聞きつけ、ワタシは下の階に降りた。
階段を降りきると玄関前で腕を組むセリルが見えた。
「来客か……誰だ?」
「私は知らん。お前の知り合いかもしれんが、ザインのこともある。お前が見て判断してくれ」
セリルの言う通り上でザインを監禁しているのだ、今の自宅に他人を上げるわけにはいかない。
セイヴハートからの追っ手という可能性もある。
ワタシは玄関に近づき、戸に空いた穴を覗き込んだ。
「……マリ様?見えていらっしゃいますね?」
聞こえたのは丁寧な口調。
穴から見えたのは形白の1人である女。
3番目の形白であるレイミであった。
「何しに来た。ご主人様の奪還にでも来たか?」
扉越しに声を投げた。
「違います。私たちは貴女に頼み事をしに来たのです」
「私、たち?」
「とりあえず入れて頂けませんか?」
目を凝らすと、後ろに小さな影があるのが見えた。
察するにレイミはザインの監禁に気づいている様子。
だが見たところ武器を持っていないし、警戒して来ているわけではない。
「……いいだろう」
「ありがとうございます。ほら入りますよ……大丈夫ですって」
ドアを開けてレイミを迎え入れる。
レイミは後ろの小さな影を連れていこうとしているが、どうやら抵抗しているようだった。
「おい、何をモタモタしている。さっさと_______________」
「……あ」
その小さな影と目が合った。
「ひぃっ!」
それはマイン・セイヴハート、だった形白である。
ワタシの顔を見るなり遠くの木陰に走っていってしまった。
〜〜〜〜〜〜
レイミの必死の説得の末、01は家へと足を踏み入れた。
今、机を挟んで2人と向かい合っている状態である。
「レ、レイミぃ……私、この人に」
「この人って、貴女の姉でしょ。何をそこまで怖がってるんですか」
「い、いいんだ。私はマインに……いや、そいつはマインではないのか」
「マインでいいですよ。毎回、記憶が無くなったときもそう呼んでましたから」
「……記憶が消えることは知ってるんだな」
マインはワタシと目を合わそうとしない。
怯えた様子でずっとレイミの服の袖を握っている。
無理もない。彼女にとってワタシは目覚めた直後に殺そうとして来た人物なのだから。
理解してるからこそ心が痛んだ。
「何したんですか?えらく怖がられてますけど」
「あぁ……その、彼女を殺しかけたんだ。首、絞めて……な」
「なるほどそれはしょうがない」
レイミは抑揚の無い声で言った。
マインはワタシの一言で顔を青くし、首を覆い隠した。
さらなる罪悪感がワタシを刺す。
あのときは頭に血が上っていたのだ……仕方ないのだ……。
「レ、レイミ、やっぱりやめようよ。私野宿でいいから」
「何言ってるんですか。私たちには選択の余地なんて無いんですよ」
「じ、じゃあレイミだけが泊まって。私は近くで野宿するから……ひっ、み、見てる。私のこと見てるよお……」
ただ無言で眺めていただけなのに、マインはワタシの視線から逃げるように避難していった。
「う……レ、レイミ。お前らは何しにここに来たんだ?マインを考慮してやれば訪れるべき場所ではないと思うのだが」
「形白共々、ここに匿ってもらいに来たんです。私たち住む場所が無くなってしまいまして」
「え……あの豪邸はどうした?住めないほど破壊してはないはずだが」
「セイヴハート邸は王都の調査員で溢れかえってます……当主も、リンク様も、なぜだかセイヴハートの人間は一人もいませんので好き勝手されてますよ」
「調査員って、何でそんなことに」
「セイヴハート邸は半壊。関係者の影も声もなしとなれば多分、事件を疑って調べますよ」
「それに私たちは存在自体が非合法ですから……見つかれば何されるか分からないってことで、匿ってもらいに来ました」
レイミは淡々と喋った。
爆弾を抱えるようなマネはしたくないが、彼女らがセイヴハート邸に居られないのはザインをさらったワタシの責任でもあった。
「……私は今、ザインを監禁している。貴様らの忠義としては、許せるものなのか?」
「元々忠義なんてありませんよ。処分という言葉をチラつかせて、こき使われてただけです。言うこと聞いたオージもゼスも死んで……マインも今こんなですから」
「難儀なものだな」
「……まあ、生み出した命でも逆らう意思はあるってことです」
レイミはマインの頭を撫でながら言った。
今思えば形白の誰もがセイヴハートの手先ではあったが、忠を尽くしてはいなかった。
オージはやりたい放題していたし、マインは逆らおうと必死だった。
「そうか……分かった。匿ってやる」
「!!ありがとうございます。今日は無事ぐっすり眠れますね、マイン」
「……うん」
レイミは常にマインを気遣っている様子だった。
形白同士で仲間意識があるのだろうか。
その光景は母と娘のように、どこか微笑ましく映った。
「いいですか?泊めてもらえるのですからそれなりの恩を……そうだ。手始めにマリ様を姉として認識なさい」
「いい。マインにそんな無理させるな」
「え……この人が、私のお姉ちゃん?」
一瞬マインの目に輝きが戻った。
まるで記憶を失う前のマインのようだった。
だが、その輝きはひと時のもの。マインの顔はみるみるうちに青くなっていった。
「_______________ぅ、うぼおええええ!」
「ちょ、マイン?!」
「お、おーい!セリル!なんか拭くもの持ってこい!」
マインの吐瀉物が机へと撒かれた。
関係修復(?)にはまだ程遠いようだ。




