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その八十四 野心

 

 黒騎士との戦いを終えたあの夜。

 ワタシは邸内にいたザインを連れ去り、その場から離脱した。

 ()()姿()は完全に上級魔族として認識されていたので、ミヅキが上手く誤魔化していることを願う。

 その後、レガートまで戻り、こうしてザインを拘束した後、床についた。

 目が覚める頃にはワタシは、元の姿に戻っていた。


 そして現在、後日の昼。


「はぁ……はぁ……」


「ごきげんようザイン・セイヴハート。気分はどうだ?」


「マリ……何故だ。何故生きている」


「聞く必要があるか……貴様はリンクから聞いているのではないのか」


「リンクから?な、なんのことだ」


「私はマリではない。魔王だ」


「……?どういう事だ」


 ザインは初めて聞いたかのように反応した。

 しらばっくれている訳では無い。

 どういう訳か、リンクはコイツの差し金で動いてたのではないらしい。


「本当に何も知らないのか?」


「ああ、知らんな……待てよ。まさか貴様、アイツの手先か!?」


「……アイツとは誰だ?」


「!!」


 ザインはしまった、と言わんばかりの露骨な表情を見せた。

 何かしくじったようだ。

 ワタシは不敵な笑みでザインを見下ろした。


「どうした?何を黙っているのだ」


「っ、言わん。これは、これだけは言えんのだ!」


「それは何か隠してるぞと自分から言っているようなものだが」


「だ、黙れ!貴様に喋ることなど何一つない!」


「まさかこの状況で隠し通せると思っているのか?だとしたらお笑いだぞ」


 ワタシは嘲笑しつつ、懐から小さな手帳を出した。ザインの手記が記された例の手帳である。


「それ……は」


「私はこれでも読書家でな。このエッセイは素晴らしい。筆者に1つお礼を言いたいんだが。知らないか?」


「何で、貴様が持っているんだ」


「おや、ここに筆者の名前が書いてあるなぁ。んん?この名は……」


 ワタシはわざとらしい演技で記された名前を見せた。

 ザインには明らかな動揺が顔に出ていた。


「ザイン・セイヴハート。ワタシは今日から君のファンだ!1つ、このペンでサインでも貰えないかっ!」


「っ、ぐぁぃ!」


 ザインの内腿にペンを突き刺した。

 野太い悲鳴を聞いても胸のモヤつきは少しも晴れやしない。

 リリナ、マイン、ローナ、昨日の夜で失ったものがこの程度で報いれるわけがない。

 間髪入れず、もう一度ペンを振りかぶった。


「うがあぁっ!!」


「貴様がマリにした仕打ちは許さない。今こうして生かしているのは、貴様の持つ情報が必要だからだ」


 報いるためにも、ワタシはここで何かを手に入れなければならない。


「私は、何も……いぃ!!」


「ここからは慎重に喋れ……私とて己の全てを制御できるわけではない」


 突き刺したペンを引き抜き、怯えた眼球に向けた。

 コイツと同じ血がこの身体には流れている。

 そう考えただけで虫唾が走った。


「この手記にある「器」、「ヤツ」と貴様が呼んでいる協力者。私が知りたいのはそれだ」


「私は、くっ……器、というのはセイヴハート家が何年にも渡って探し続けていた才能だ」


「才能。さてそれはどんな才能かな」


「ま、魔王に匹敵する魔力を保有できる才能だ。本来、人間は生まれつき決められた量の魔力しか持ち続けられない」


「身体の成長と共に容量は大きくはなるが、魔王ほどとなればもはや人間ではない。そ、それを我らは追い求めた」


「なるほどな……貴様らが言う、器が希少なのは分かるが何故それを欲しがった?理由を言え」


「……我々は力が欲しかった。三国も王都も支配出来るような力が」


「……は?」


 ザインは畏怖した様子でありながら、本気で語っていた。

 力が持てば何をしでかすか分からない。

 そういうミヅキの危惧も間違っていなかったらしい。


 呆れるほど強い野心。

 こんな弱い人間がどうしてここまで(おご)れる?


「誰だって考えるだろう?形白(マリオネット)もその目的の中で生まれたものだ。実際にマインは他の追随を許さないほどに育っていた」


「……そうか。あぁ、そうかもな」


 震える声、出そうになった手を必死に抑えた。

 くだらない野望だ。マインのことを思うと、この男に対する怒りが無尽蔵に湧いてくる。

 だがまだ聞くべきことがあるのだ。


「では「ヤツ」とは?貴様はその者との繋がりを隠すためにマリを殺そうとしていたが、一体誰なんだ?」


「そ、それは……」


「さっき口を滑らしたときの「アイツ」。それと同じ人物、なのではないか?」


「……はて、何のこ」


 トッ


 投擲したペンがザインの目を貫いた。


「あ_______________あがあぁ!」


「言った、言ったぞ!私は、自分を止められんと!」


 犠牲?情報?今のワタシには関係ない。


「分かっていなかったようだなぁ!!」


 魔力の集束がザインへと向ける。


 我慢の限界だった。

 コイツを得るためにマインは消え、果てにはリリナが死んだ。

 一刻も早く弔わねばならない。

 だと言うのに、この男は_______________。


「死ね、ゴミクズがぁ!!」


「ひ、ひぃええええぇぇぇ!!」


 目の前の老害が消されようとしたその瞬間。


 コン コン コン


 家の戸が叩かれた。

 玄関は下の階にあるため、耳が拾うのは小さな音。

 だが、今のワタシを現実に引き戻すには十分な雑音だった。


「_______________っ、はぁっ、は、はぁ」


「ひぃっ、ひ、ひっ、ひっ」


 2人の呼吸音だけが部屋を渡る。

 戸を叩く音は断続的にだが、続いていた。


「おい!降りてきてくれないか!」


 セリルの声が下の階から聞こえる。


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