その八十二 覚醒
ド ゴ ォ ン !
放たれた閃光が一帯を破壊した。
飛び散った壁の破片が辺りに散らばる。
セイヴハート邸には関係の無い使用人もいるかもしれない。
だが、ワタシの頭にそんなことを考慮する余裕は無かった。
「死に、爆ぜろぉ!!」
出現した爆発が目の前の影諸共に呑み込んだ。
だが、捉えたと思った姿はすぐにどこかへと消えいつの間にか別の場所へと移っている。
「何を……逃げている!私と戦え!」
黒騎士はワタシの攻撃を避けるだけ。反撃する素振りすら見せない。
許されない。ローナの命を奪っておきながら、今更戦いをやめようなど。
「許されるはずがない!」
ワタシは手を緩めることなく、攻撃を続けた。
人間大の爆発が連続し、建物の一部一部を粉々にしていく。
「剣を出せ!ローナにしたように、あの剣で私を裂いて見せろ!!」
「ァァ……ァァ……」
足を跳ねさせ、頭を抱え、逃げ続ける黒騎士。
対してワタシは感情に任せて攻撃を続けた。
高まっていく怒りに不愉快さを感じていたが、不思議と身体は満たされていくようだった。
負に満ちた感情を解放させる度に、己の内にある魔力が増している。
「戦え!私との死合から逃げるな!!」
勢い任せに魔術を飛ばした。生じる予想外の威力。
そこでやっと、高まり続けている魔力を制御出来ていないことに気づいた。
「っ!はぁ、はぁ、なんだ、これは」
体が熱い。
身体中を巡っている魔力の流れが速くなっていく。
焼け切れるような感覚がワタシの体を満たしていった。
「あっ……は、はぁっ!はぁ、!」
「ご機嫌よう。古き王よ」
コツコツと足音を立てて近づいてきた人影。
うつむいた視線ではその姿は見えない。
だが、その声は覚えていた。
「貴様!ザヲとかいうやつ!!」
「また会った。ふふふ、苦しそうですねぇ」
「どけぇ!貴様から、殺してやっても……っぁ!」
魔力の流れが一層強まる。
熱に耐えきれなくなったワタシは思わず地に伏せてしまった。
「素晴らしい。古き王よ。貴方は今、覚醒しようとしている」
「何?覚醒、だと」
「貴方の身に秘められているある内包式が目覚めようとしているのですよ」
「内包式、マリの?」
回らない意識で考えた。
マリはセイヴハートの人間なのだ。
この身に刻まれた、内包式は聖別なのだと勝手に思い込んでいた。
が、もしかして違うのか?
違うとして、何故ザヲが知っている?
「何を、知っている……!」
「その内包式はそれほど珍しいものではありません。5人に1人がその内包式をその身に刻み、生きています」
「本来持っている内包式とは別に、ですがね。つまり、5人に1人の人間が2つの内包式を持っているのです」
「ですが、ほとんどの人がその力を目覚めさせることなくその生涯を終えます……何故なら、その目覚めには強い負の感情が必要だからです」
「負の、感情……っ、うぐぁ!!」
苦しみに悶えた。
心臓が張り裂けそうなくらい動いている。
「さらに目覚めると、その身の魔力は増幅を始めます。増え続ける魔力に耐えるには……魔力を受け入れる器と生まれながらに持つ魔力を制御する能力が必要」
「はあ、あ、ぁ……」
「どうです?そろそろ治まって来たでしょう?魔王の貴方なら出来るはずですよ」
気持ちの落ち着きと共に魔力の律動は冷めるように弱まっていった。
そして、弱まった魔力は全身に流れ、溶けるように浸透していった。
「魔力の暴走を耐えた先で、その体は生まれ変わるのです」
気づくと髪が青白く光っていた。
全身からもわずかながら青白い光を放っている。
「人間でも、魔族でもない。まさしく人知を超えた存在。その姿こそ私たちの進化の先、新人類たる者の姿なのです」
「……これは、マリの身体だ。何故貴様がそんなことを知っている?」
「当たり前でしょう」
ザヲは満面の笑みを浮かべて言った。
「あの日から、たった今まで……全てはある者の企てによるものなのですから」
「あの日から……?」
「貴方とマリ・セイヴハートの出会いから、この覚醒まで」
「っ!ふざけるな!」
至近距離で最大威力をぶつけた。
ザヲは避けることすらせずその身に受け、当然の如く消滅。
だが、どこからともなく響く声がワタシの脳を揺らした。
『全ては貴方を新人類へと覚醒させるためだったのです』
「マリの死も、リリナの死も貴様達が仕組んだと、言うのか……」
上がった土煙が晴れると、そこには黒騎士の姿すらなかった。
代わりにあったのは暗殺者の位である彼女の死体。
『本当はこの女じゃなくても良かったんです。ただ貴方の感情を大きく揺さぶる死であれば、誰でも良かった』
「誰でも。仕組まれていたなどと、そんな、馬鹿な話……」
消え入る声をかき消すように、バタバタと走る音が邸内を響いた。
音の方を見ると十数人の武装した兵士がこちらに向かって来ていた。
「人影を確認!……な、なんだ、これは」
「おいおい見えねえだろーが。どけどけ」
兵士たちを掻き分けて1人の男が、ワタシの前へと出てきた。
「随分賑やかにやってるじゃねーか、魔王さ_______________あ?」
ミヅキはワタシと彼女を見るなり、固まった。
その様子にワタシは何も言えないでいた。
状況を説明する気力すら、もうワタシには無かった。
「え……ローナ、だよな。なぁおい。寝てるん、だよな。でなきゃ、そんな」
「ミヅキ様!お気を確かに!」
「アイツだ!あの制服姿の魔族が、ローナ様をやったんだ!」
「人型!上級魔族だ!相当高位に違いない!本部に報告しろ!」
「目の前に、銀髪の魔族を発見!五聖の1人がかの魔族倒れています!生死は定かではありません!」
「……嘘、だろ」
忙しなく動き回りワタシへと武器を向ける警備兵達。
群衆の中でワタシは、そこに居ることしか出来なかった。




