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その十 忠臣

 

「さて、単刀直入に聞、く、がっ!……何で貴様がここにいるんだ?」


 ワタシは別の車両に移り一番後ろの空いている席にタリムを放り投げた。

 席はほぼ満員だが、声は周りの話し声に紛れるので話している内容が聞かれることはそうそうないだろう。


「いや違うな。何でお前が生きているんだ、それが今一番聞きたい」


「は、はい!それはもちろん!魔王様に仕えたいという想いで死すらも超越したということです!」


「あー……まず、その魔王様ってのをやめろ。次言ったらもう一度、塵に帰す」


「えーと、貴方様に仕えたいという一心で」


「それとふざけるな。真面目に答えろ。あと今の私にはマリという名前がある。名前で呼べわかったかなぁ?タリムちゃぁん!?」


「注文が多いくんしゅあたたたたたたた」


 ムカついたのでタリムの頭をこれでもかというくらい握り込んだ。

 封印の間でのやり取りもあってか、コイツの顔は妙にワタシを苛立たせる。


「で、何で生きているかを聞いているのだが。真面目に答えろ」


「ふぅ、ふぅ、はい。私の家は魔族の中でも古くから続いている家系でして、その再生力は魔族一と称されています」


「跡形も無くなるほどに消し飛ばしたはずだったが、そこから復活したということか?」


「はい。マリ様の魔術は確実に、私を目視できないレベルまですり潰しましたが、その状態からでも私は蘇生できるわけでして」


「じゃあムカつくからもう一回()っても大丈夫か?」


「いや、その、あの状態からの再生には半日かかりまして。復活した分魔力も消費するので、勘弁していただけると……」


「ああ、そう……じゃあなんでわざわざ私の前に出てきたんだ。1回貴様を殺したのだぞ?」


「それはもちろん、貴方こそがあの魔王様であると確信したからであります。貴方様に仕えるために、こうして舞い戻って来ました!」


「……信用できない。何か誠意を見せられるか?」


「誠意……ああ、では、下着を見せます」


「……ん?」


「人間は、女が身につけている下着を見ると、大変喜ぶと聞きます。そして女にとってこの行為は、かなりの(はずかし)めであると……」


「私は魔王だし、そもそもお前も魔族なワケだが……お前大丈夫か?」


「?はい大丈夫です……では」


 そう言うとタリムは自信ありげな様子で、スカートをたくし上げた。

 目に映ったのは純白の三角形。装飾としてレースがあしらわれている。

 意味がわからない。


「どうです?」


「お前……あぁ、もういい。勝手にしろ」


 ありがとうございます、と表情を明るくするタリムを見て、思わず反吐が出そうになった。

 それは下着云々ではなく、封印の間での態度と比べるとかなりへりくだった物言いだからなのだ。

 気持ち悪い。


 おそらく彼女は昨日の一件でワタシの中身が魔王なのだと確信している。

 不覚だ。今思えば全力を出すほどの相手ではなかったし、穏便に済ませることもできたというのに。


「ちっ……いいか、学校での私は魔王としてではなくマリ・イルギナエとして振舞う。周りにはその旨を悟らせないようにしろ」


「御意」


「そして、周りの人間にはなるべく危害を加えるな。間違っても殺しはやるなよ、いいな」


「……それは故あっての行動で?」


 タリムが鋭い視線を向ける。


「そうだな。これはマリが望んでいたことだからだ」


「マリ、というとその身体の人間のことですね?つまり人間の言っていたことに従えと」


「何か問題があるか」


「……人間共は魔王様が討伐されて以来、私たち魔族を虐殺し続けている種族です。そんな奴らに私が抱いている感情、魔王様は分からない訳ではないですよね?」


「貴様ら弱小魔族の意を汲み取れと?いつから貴様らはそこまで偉くなったのだ。いいか、私と友好な関係を築きたいならこれだけは頭に入れておけ」


 軽く魔力を込め、タリムの頭に手をかざす。


「私にとっての最優先事項はマリだ。この身体も、過去に言った言葉も、その何もかもが私の行動理念となる」


「っ……それでは今、魔王様がここにいるのは、人間を滅ぼすためではなく、そのマリという人間のためだと?」


「それもあるし、今の私がそうしたいからでもある」


 ハッキリとは答えられない。

 ワタシを討伐したのは他でもない人間。恨んでいないと言えばウソになる。

 だが、視界に入る人たちくらいは幸福になってほしい、というマリの望みを妨げるまでは、人間を憎んではいない。

 今のところワタシは人間にとっても、魔族にとっても中立の存在なのだ。


「……わかりました。その命令に従います」


「いいぞ、それでこそ我が忠臣だ。だが」


 向けた指先から小さな紫電が走った。

 それはタリムまで達することなく、空気中で霧散していく。


「魔王様……これは?」


「何度か間違ったよな?マリ、と呼べと言ったよなぁ?!今回は許すが、次に口にしたときはこれの数億倍の威力でやるから肝に銘じろ」


「……御意」


 苦い顔をしたタリムを横目にワタシは車両を移った。

 経緯はなんにせよ、2日目にして協力者もとい部下の獲得である。


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