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その七十九 気づき

 

 夜の王都を走る1つの影が、セイヴハート邸へと向かっていた。


「ああ、もう!なんでこんな時に限って私が当番なの!」


 「暗殺者の位(アサシン)」ローナ・シャリテナ

 魔術と大きな物音の報告を受けて向かっているところだった。

 王都内で、それもセイヴハートの家での騒ぎ。

 この頃多い物騒な事件もあってローナは嫌な予感がしていた。


「これでまた魔族の仕業だったら、ウチの警備がザルみたいに思われるじゃん!」


『だーっ!うっせぇ!わざわざ通信かけながら文句垂れてんじゃねぇよ!』


「あっ、あれー?ヅキくん起きちゃったー?ごめんねー!今忙しくて誰かの手も借りたいくらいでねー!」


『しらばっくれんな。元から起こすつもりだっただろうが』


「ホントごめーん。今度スイーツ奢るから許してね☆」


「はぁ……了解。セイヴハートんとこだな?」


「あはっ!ヅキくん大好き!」


 通信器からのウンザリした声に、ローナは頬をゆるめた。

 どんな最悪な事態でもミヅキがいるならとりあえずは安心だ。

 何の不安も抱かず、全速力で駆けて行った。


「よし、もうすぐ!」


 セイヴハート邸が見えてきた頃、ローナが顔を上げたその時であった。


「ヒョッ、ヒョッ、ヒョッ」


 耳に残る笑い声と共に、上空からそれは降ってきた。


 ド ゴ ォ ン


「ふぅ……着いた」


 タイルを割りながら落ちてきたのは上級魔族ザヲ。

 ほぼ人間と変わらないシルクハットを被った姿の魔族だ。

 襲撃時、こいつが学校にいたことをローナは知らない。


「……魔族。どこから入ったのかな」


「無論空から。王都の結界は抜けてきました」


「そ、随分流暢に喋るのね。見たことない上級魔族だけど」


「ザヲと申します」


「ご丁寧にどうも。私は有名人だから、自己紹介はいらないよね?」


「もちろん。何を隠しましょう、今日は貴方の命をいただきに来たのですから」


「へぇ……」


 ザヲはにこやかな表情で腕を広げた。

 隙だらけだ。魔術を使う素振りも見せない。

 ローナはその姿に警戒しながらも、腰からナイフを取り出した。


「知ってる割に、隙だらけね」


 鞭のようにしなる腕がザヲを襲った。


 〜〜〜〜〜〜


「ウァ……マオ……ォォ」


 対峙するは、新魔王を名乗る謎の魔族。

 端から端まで覆った黒い鎧で見えてはいないがワタシの遺体を自身とした魔族だ。

 だが、何故コイツがここに。


「……どいつもこいつも。私の邪魔ばかりするな」


 考えたって仕方がなかった。

 いつだってコイツらは神出鬼没。

 重要なのは今この魔族がワタシに立ちはだかっていることだ。


「……マオォ」


「今の私はすこぶる機嫌が悪い。覚悟はいいんだろうな!」


「オオオオォォ!!」


「なっ!ちょっと待て、僕を挟んでやり合うな!」


 制止は虚しく、ワタシはリンクを跳ね飛ばし黒騎士へと跳んだ。

 黒騎士も同じようにワタシに接近する。

 両者は超速度で距離を縮め、やがて接触した。


「あぁ?!まずは力比べといくかぁ!!」


「アオォ!!」


 激突と同時にガッシリと手を組み合った。

 手に重い力がのしかかってくる。

 自前の筋力と強化魔術による競り合いだ。

 手加減は必要ない。今できる全力をそこに込めてやった。


 ガ ゴ ン !!


 堪らず突かれた膝が床を砕いた。


「ァ、アアオオオオ!!」


「はは!馬力はこちらの勝ちみたいだなぁ!私の体を使っておいてその程度とは情けない!!」


 手を離し、跪いた黒騎士目掛けて足先を大きく上げた。


「まずは一勝!その身でペナルティを受けるがいい!」


 ゴ ガ ン !!


 ちょうどの位置にあった頭を思い切り蹴り上げた。

 黒騎士は金属を叩く音と共に大きく吹き飛んでいく。


 ワタシの体と言えど、やはりそれは他人のもの。

 普通の力比べなら負けるはずだが、宿している膨大な魔力をまだ使いこなせていないようだ。

 コイツが生まれてそう長くないのが分かった。


「ふはは!ふはははは!!」


 確かな充足感、晴れやかな気分だった。

 リンクほど不快な相手でなければ、マインほど気が引ける相手でもない。

 なんの気兼ねもなかった。


「ァ、アオォ……ォォ」


「どうした、まだ()るのだろう?魔王の称号を冠しているのだ。これで終わりとは言うまいな?」


「ダ、メ……ァ、アオォ!!」


 黒騎士は立ち上がり、兜の辺りに魔力を集め始めた。

 可視出来るほどの高密度の魔力が圧縮されていく。

 技術も無ければ魔術でもない。魔力の塊だ。

 拙いながらも魔力は集結していく。


「次は魔力比べか……いいだろう」


 指先を向け、同じように魔力を集合させた。

 青白い粒子が一点になっていくのを眺めていると、ふと小さな考えが頭を過ぎった。

 ワタシがこうして魔王の身を相手に戦えている理由。

 魔王時代のときと全く同じ戦法で戦えている理由。


 マリの身体だからだ。

 この身に魔王に匹敵する魔力が内在しているからだったのだ。


「マリ……そうか、お前とはもう」


 友達とは、対等な者同士の関係を言う。

 情など無くとも、地位など無くとも、マリの秘めた力は(ワタシ)と対等だったのだ。


「_______________とっくに友達だったのだな」


 本当は、こうやって後悔する前に伝えるべきだったのだ。

 無意識に微笑みかけながら、魔弾を放った。


 高密度の魔力の接触は、乾いた音を立てて相殺された。


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