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その七十八 鬱屈

 

「おい起きろ。死んではいないのだろう」


 瓦礫に埋め尽くされた邸内。

 01との戦闘を終えたワタシは、そこらに転がっていたリンクを叩き起こしていた。


「……あ?何。なんだ。どう、なった?」


「頭を強く打ったのか?よおく思い出してみろ。貴様は今、どんな状況だ?」


「お前は、魔王か!確かレーゲンが……そうだ!01、あいつは、どうなった?!」


「終わったよ」


 鼻で笑いながらも、後ろで倒れている01を指さした。


「そんな、馬鹿な。レーゲンなんか比じゃない!今回ので間違いなく五聖(グローリー)は超えたはずだ!」


五聖(グローリー)?その程度で私に届くと思ったのか?」


 突っ伏した男を冷たく見下ろした。

 ザイル・セイヴハートの息子なだけある。

 自分以外の何かを犠牲にし、何かを得ようとしていた。

 何かを得るには何かを捨てなければならないから。

 だが、コイツらはその選択を誤り、ただ無駄に失ったのだ。


「マリやマインを犠牲にしておきながら、貴様らは何を得た?何も無いじゃないか!つくづく貴様らというやつは……!」


「っ!見下してんじゃ_______________」


「黙れ」


 伸ばされた手をただ踏み潰した。

 小さく上がる悲鳴を聞いても罪悪の欠片も感じない。不愉快になるだけだった。


「01は……セイヴハートが生み出した人形だ。それをどうしようが、お前には関係ないだろ!」


「マインには意思があった。感情があった……いや、悔やんでも仕方がないな。今は黙ってザインの逃げた先を教えろ」


「く、そ、がぁ!!僕に指図をするなぁ!」


「今の私はなにも感じない。別にいいんだぞ。貴様を殺して、ザインを逃したとしても」


 もう一度、リンクの手を踏み直した。

 ハッタリではない。

 ザインが王都内にいる限りどうにでもなる。

 ここで逃がしたとしても、少し殺すのが遅れるだけだ。

 目の前のゴミを片付けたとて、ワタシには何のマイナスにもならない。


「分かるだろう?」


 ついには手を向けて言い放った。

 リンクの恐れを含んだ息遣いが、なおもワタシをイラつかせた。


 マリもマインも同じだった。

 親しい者ばかりワタシの前から消えていく。

 不愉快な者ばかりがワタシの前に立ち塞がる。

 ワタシには、何かを捨ててまで得たいものなど無いというのに。

 己の情けない表情を、片手で覆って隠した。


 〜〜〜〜〜


 こうしてワタシはリンクと共にザインのいる場所へと向かい始めた。

 どこかに続く邸内の廊下をゆっくりと歩いていた。


「どうした。さっきまでは威勢が良かっただろう。まるで借りてきた猫のようだぞ」


「……ぅ、うるさい」


「実家なんだろ?もう少しリラックスしたらどうだ」


「うるさい!案内してやるから、黙ってついて来てろ!」


「あ?」


「あ……いや、わかった。わかったから」


 ワタシはリンクの背に手を当てながら歩いていた。

 文字通り、ワタシはこのゴミの命を握っている状態だ。


「おい。これはどこに向かっているんだ」


「お父様の自室だ」


「自室?普通逃げるならもっと見つかりにくい所に行くだろう」


「お前はこの屋敷の構造を知らないだろ。いいからついて来いよ」


「ほう……これでいなかったら、どうなるか分かるな?」


 手に魔力を込めた。

 それもわざと分かるように触れながら込めてやった。

 露骨にリンクの体が震え始める。


「い、いいるったらいる!地下室があるんだ!形白(マリオネット)を作った研究室がそこにあるんだよ!」


「そうか。なら信じてやる」


「……か、勘弁してくれ」


「勘弁?貴様なんぞにしてやるか」


 ため息をつきながらも魔力を止めた。

 ワタシの機嫌を損ねれば死んでもおかしくないというのに、このゴミの態度と安いプライドは変わることがない。

 きっと生まれついての性分なのだ。

 その愚かさには感動すら……覚えはしない。


「……あの形白(マリオネット)、本当にセイヴハートが作ったものなのか?」


 ふと、あった疑問を投げた。


「どういう意味だ?」


「列車にしても、魔導器にしても、貴様ら人間の技術発展が著しいのは分かっている。だがあの形白(マリオネット)には未だに納得できんのだ」


「納得だと?そこに完成してるんだから納得もなにも」


「記憶を魔力に変換するという技術もそうだ。人間の中でも、セイヴハートの技術だけ何かおかしい。意思をもったものを作るなど、簡単にできることではない」


「それは、セイヴハートという家系が優れているから……」


「ちぃっ、こちらは真面目に聞いているのだぞ!この状況でよくもまあそうやって(おご)れるな!」


 再び魔力を流すと、リンクはビクつき出した。

 ずっと疑問に思っていたことだ。

 擬似魔族?記憶の変換?セイヴハートだけが常軌を逸した技術を持っている。

 持っていながら、あらゆる物事を秘密裏に行っている。

 はるか先の技術を引っ張り出してきたかのようだ。


「あぁ……そういえば形白(マリオネット)には元になった素体があるって言うのは聞いたことある」


「素体だと?」


形白(マリオネット)00。外部の、ある者が作ったのを元にして形白(マリオネット)は作られたんだって、お父様が言ってたな」


 外部のある者。

 やはりセイヴハートだけの力ではない。

 セイヴハートに技術を提供していた者がどこかにいる。


「……今、気にすることではないか」


 思考を止めようとした、その瞬間。


 グ オ ォ ン


 目の前の空間が不気味に歪んだ。


「……は?何で、今これが?!」


「これは、ポータルか……!!」


 黒い渦よりその者は現れる。

 重苦しい圧と膨大な魔力を引っさげてやって来る。

 そこにいた2人のどちらもが戦慄していた。


「マ……オ……ォ……」


 漆黒の騎士、闇より這い出てきたその姿に。


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