その七十六 消失
「くっ、どいつもこいつも……!」
ワタシを見るなりザインは背を向け、どこかへ走って行ってしまった。
逃がす気は無いが殺そうと思えばいつでも殺せる。
どうせならジワジワ追い詰めてやろう。
「ま、待て……侵入者は、私が」
「まだ意識があったか」
突っ伏している5番目の形白がワタシの足を掴んだ。
こいつの力の特徴は「超魔力」
生物が保有の出来る魔力の限界を追求した形白らしいが、ワタシとの差は一目瞭然である。
「魔力、見えてはいるんだろう?パッと見ても5倍差はあるはずだが」
「私は……可能性「超魔力」レーゲンだ。最高傑作の形白なのだ!」
「いくら人形にも限界はあるだろう」
レーゲンは素早い動きでワタシから離れ、魔力を練り始めた。
「五の氷槍。滴る雫を紅へと染めろ_______________」
「詠唱魔術。なるほど最高傑作と言うだけはある。なら_______________」
真剣な表情のレーゲンに対し、退屈な表情でワタシは応対した。
「五の氷槍。滴る雫を紅へと染めろ」
「な……っ、向ける矛先は、生命の喞筒!」
「向ける矛先は生命の喞筒」
両者の頭上に形成される5本の鋭利な氷柱。
その完成度すら一目で分かるほど差があった。
ワタシの方が一回り、二回りも大きくかつ、表面が細部まで磨き上げられている。
「そら言ったことか」
ガ キ ィ ン !
氷柱同士がぶつかると同時に氷の霧を辺りに充満する。
曇る視界の中、銀の帳を破るように氷柱がレーゲンを襲った。
「おのれ!この私が……っ!」
レーゲンが回避しようと跳んだ先、後方からワタシレーゲンへと接近。
不明瞭な視界と焦りからか、対するレーゲンの反応はわずかに遅れた。
「筋力制限解除っ、強化魔術最だ」
「遅いぞ」
鈍い打撃音。
魔力が身体を巡る前に、ワタシの蹴りが脇腹を貫いた。
「い_______________おっ、ごおぉ!?」
「敵を前に、何をペラペラ喋っている。そういう決まりでもあるのか?」
くの字に折れたレーゲンの四肢は横に吹き飛び壁へと激突する。
砕ける音をたてながら、レーゲンは瓦礫の中へと埋もれていった。
ワタシの下位互換というのもおこがましい。
ただの魔力を垂れ流すだけの人形だ。
「雑魚が。少しは手間取らせてみろ」
「はっ、はっ、お、おい!05、どこいった!」
片付いた戦況を去ろうとした頃に、リンクが息を切らして駆けつけてきた。
既にボロボロの状態である。
「貴様も立ったか。セイヴハートの者は皆しぶといらしい」
「な、お前、この短時間で05を殺ったってのか?!」
「貴様らがあの玩具をどこまで頑丈に作っているかは知らんが、死んではいないんじゃないか?」
「あれでも限りなく「器」に近づけるよう調整した奴だぞ?!そんなあっさりと……」
「そんなことはどうでもいい。貴様も続きをやるのだろう?」
「どうでもよく、ひぃっ」
絶望したリンクへとゆっくり歩を進めていった。
マリの兄にせよ、この者がマリを傷つけていた過去は消えない。
こいつもじっくりと痛ぶって、その末に……。
「ま、待て!僕が死ぬことを、マリが望むと思うか?!」
「思わないだろうな」
「じゃ、じゃあ止めておけよ!ほ、ほら、マリに、マリに嫌われるぞ!いいのか!」
「マリは死んだ。確かに私の行動原理はマリの望み。マリの周りにいた人間を極力生かすことだが、今回は特別なんだ」
「は?と、特別?!何が特別だって?!」
「こんなにムカついたのは初めてってことだ。何百年も生きていれば、こんなこともあるのだなあ!!」
手に魔力を走らせ、刃を形成。
掲げたままリンクへと近づいていった。
「ひっ、ま、まだ死にたくない!死にたくなぁい!!」
「ふ_______________死ね!!」
情けなく背を向けるリンクに向かって跳び、刃を振り下ろした。
刃が衣服ごと貫かんとしたその時。
「_______________っ!?」
金属が重なる音と共に、横から現れた金の剣がワタシの刃を遮った。
剣は聖別の光を纏っていた。
「??……お、おぉ!お前っ!!」
見るとそこには虚ろな目をしたマインが立っていた。
寝間着姿で、金の刀剣を持っている。
マインに気づくや否や、リンクは隠れるように彼女の後ろに回った。
「は、ははは!そうだ、お前がいたんだったな!」
「マインか……」
マインは何も言わない。
焦点の合わない目線をそこかしこに投げているだけである。
「おい01、主人から命令だ!いいか、目の前の奴、アイツと戦え!」
「……」
マインは返事をすることもなく、ワタシに剣を振り上げた。
「くっ、貴様、また性懲りも無く!」
「はっはは!性懲りはあったさ!だから今日は違った手を取らせてもらうよ!おい、マイン!」
リンクの呼び掛けに反応して、マインの目に光が戻った。
振るわれていた武器もそこで動きを止めた。
「……あれ、姉さん?」
「マイン!……私が分かるの?」
「え、えぇ。そりゃ大好きな人くらい……あ」
マインは何かを思い出すとみるみる顔を青ざめさせた。
意識を失う前、剣魔祭のことを思い出したのだろう。
ワタシは何も言わず、ふらつく体を抱きしめた。
「……ね、え、さん」
「大丈夫、大丈夫だから。どんなマインでも、私の妹には変わりないよ」
「ぁ……は、い……」
「っ、おいマイン!主人を無視するなよ!」
リンクの声にマインは怯えを見せながら振り向いた。
だがもう、リンクにマインを脅すようなネタはないはずだ。
奴にとって、マインの意識はないに越したことはない。
何故マインの意識を戻した?
「っ……に、兄さん!私もう、姉さんとは戦いませんから!」
「反期かい?主人の命令は絶対って教えてるはずなんだけどなあ!」
「わ、私の姉さんへの愛が、そんなものを凌駕したってことです!もう言いなりになんてなりませんっ!」
「マイン……愛って、そんな、恥ずかしいこと言わないでよ」
「い、いいじゃないですか!私と姉さんの姉妹愛が、アイツの命令を上回ったんですってば!」
「いや、マインも恥ずかしがってるじゃん……」
マインは頬を紅潮させながら、リンクを指さした。
多少の羞恥心はあるらしい。
「主人のことを、アイツ呼ばわりってさあ……マインは馬鹿だなあ!!」
そんな微笑ましい場面をぶち壊すように、リンクは大声を張り上げた。
その手には、小さな魔導器。
マインすら、それが何なのか分からないようだ。
「主人には逆らえないって、ここで教えてやるよ……変換装置、起動」
「貴様、何を……」
「_______________っ?!あ、あぁぁぁ!!」
リンクが魔導器を起動すると、マインはその場に膝をついた。
さっきまでの余裕ある様子が嘘のように、苦しそうに叫びだしたのだ。
「……止めろ。何をしているかは知らんが、これ以上やれば殺す」
「やれるならどうぞ?でも、マインがどうなるかな?」
「下衆が!マインに何をした?」
リンクはその問いにニヤつきながら答えた。
「……記憶を消してやった」
「記憶、だと?」
「形白の中でもマインは特別製でね。溜め込んだ記憶を魔力に変換する特殊な魔導器を積んであるんだ」
リンクは小さな魔導器をしまいながら、楽しそうに話した。
マインの絶叫は、なおも止まない。
「マインは最初に完成した形白。精神は何度も作り替えられているんだ」
「何度も記憶を……?ふざけるな!そんな訳の分からない技術があるわけが!」
「ウチならあるんだなコレが。仕組みは僕も知らないけどさ、現に今マインは形白でありながら五聖並に強いんだ」
「ああああぁぁぁぁぁぁ!!」
「貴様、殺す……殺してやるぞ、リンク・セイヴハートォ!!」
「これから更に強くなるから、君との記憶と引き換えにねぇ!あっは!あっははははははは!!」
「嫌だ、消え、消えたくない!助けて姉さ_______________ぁ」
絶叫を止めたマインが小さく声を上げた。
そして、不出来なからくり人形が動くかのように、マインは立った。
その頬には涙の筋をいくつも作っていた。
「マイン!しっかりしろ、私はお前のことを……!」
「_______________貴女は、誰ですか」
マインは赤く腫らした目をワタシに向けながら言った。




