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その六十九 小休止


 _______________学校での魔族の襲撃から数日後。

 ミヅキ・レックウは王都のほぼ中心にある城、聖城ホワイトワンの一室にて浮かない顔で佇んでいた。


 コン コン コン


「入ってもいいかね」


「いいっスよ。どうぞ」


 来客は返答に対して、若干の食い気味で部屋に入った。

 戸から現れたのは低い背丈と子供と見まごうほどの童顔。

 その実態は王都の統治者、ミゼンガ・キンケーブル其の人であった。


「すまないね、時間があまり取れなくて……今回の一件は中々に目立った。色々と対応しなければいけなかったのだよ」


「いえ、わざわざ俺のためにすんません」


「いいんだよ戦士の位(ウォーリア)。君にはいつも頑張ってもらってるからね」


 ミゼンガは毅然とした態度で椅子に座り、高い位置で手を叩いた。

 数秒もするとティーセットを持った使用人たちがゾロゾロと現れ、机の上にカップを置き始めた。


戦士の位(ウォーリア)は何か飲むかね」


「遠慮します。そんな長話はしませんので」


「そう言うな。たまにはオッサンと世間話でもどうだ」


「はぁ……レモンティーでお願いします。あ、自分でやるんでレモンだけください」


 トポトポと注がれていく赤茶色の液体。

 漂ってくる花の香りが2人の鼻腔を撫でた。

 カップの横には、ミゼンカにミルク、ミヅキには丸々一個のレモンが置かれた。


「え、いや、レモンをくださいとは言いましたけど……」


「余の粋な計らいだよ」


「粋な、って自分で言うもんじゃないっスよ。ったく、こんなくだらないことが出来るほどアンタも暇じゃないでしょうに」


「いいじゃないか。はは、おかげでいつもの顔に戻った……どうした。今日は随分と落ち込んだ顔をしていたじゃないか」


「それは……」


 困ったような表情とはうってかわって、ミヅキの顔は真剣そのものに変わった。

 対応してミゼンガも険しく変わる。

 使用人たちは何かを察すると、足早に部屋を出ていった。


「……今回の襲撃に関してです」


「あの襲撃か。被害はほとんど無かったよ。君や暗殺者の位(アサシン)、それと魔王のおかげでね」


「……俺は、何も」


 誇ってもいい、とミゼンガはミルクを注ぎながら励ました。

 だが、変わらずミヅキは死んだような目をしていた。

 その顔はいつもと違い覇気がない。


「そりゃあ生徒の軽傷くらいはあったが、君が落ち込むものじゃないだろう」


「あれだけ魔族を送り込んで死者ゼロ。いくら何でもおかしいッスよ。奴らの、新魔王軍の目的は何だったんでしょう」


「魔族のやることなんてどの時代も変わらないよ。全く、やっとセイヴハートに近づいたと思ったら次は……」


「魔族の目的じゃありません。新魔王軍の、です」


「む?……何か、あったかい」


「カヅチ・レックウです。新魔王軍に、俺の兄貴がいました」


 その一言にミゼンガは驚きはしない。

 少し押し黙った後、気を取り直すように紅茶を飲んだだけであった。


「……良かったじゃないか。死んだと思った肉親が生きてて」


「生きていた、って気は、数年前からしてました。奴はそう簡単に死ぬタマじゃありませんから」


「なら、兄が敵に回ったのがショックだったかね」


「違いますよ……王、貴方は知ってたんじゃないですか?」


 刺すような視線を王へと向ける。

 彼の紅茶には、まだ一切も手がつけられていない。

 レモンも無造作に置かれているだけであった。


「聖没、兄貴やローナの母が死んだって事件。俺は貴方の口からしか聞いてませんでした。現場は見れてません」


「そうだったかな」


「兄の死体なんて見ない方が良い、なんて言ってましたけど、本当は死体なんて無かったんですよね?」


「……」


 否定はしない。

 ミヅキはより一層、語気を荒らげた。


「兄貴が生きてるって知ってたんなら、なんで隠してたんですか!隠す必要なんて無かったはずだ!貴方もアッチと何か関わりが_______________」


「それは違う。余は味方だよ」


「っ、そんな言葉、言おうと思えばいくらでも言えますよ!」


「信じたまえ」


 ミゼンガは立ち上がり身を乗り出すミヅキを冷ややかに見つめた。変わらず、毅然とした佇まいで。

 その様子にミヅキはゆっくりと席に戻った。


「信じろったって……」


「すまない……今は話せないことなんだ。時が来たら君にも話す」


「……はぁ」


「とりあえず今日は休んだらどうだね。今の君は、君らしくない」


「今日がその休みです……あと、その、らしいって言うの、今はやめてもらえますか」


 何かを思い出したような彼に、ミゼンガは静かに頷いた。

 カップの音だけの静けさの中、ミヅキは力無く椅子にもたれた。


 〜〜〜〜〜〜


「お待たせしました。ジャンボビッグウルトラハニーパフェ、メガ盛り越えでございます」


「ふわあ〜〜!!見てください2人とも!パフェですよパフェ!これが王都のクオリティです!」


「う……なんだこれは。考えたヤツはバカなのか?」


「……これ、食べ切れるの?」


 襲撃から三日後。

 ワタシは王都のとある菓子店にいた。

 座っている席の隣には、リリナとタリム。

 いわゆるイツメンというやつだ。


「食べ切れるか、じゃありません。食べ切るんです!じゃなきゃここに来た意味ありませんよぉ!!」


 鼻息荒らげ、嬉しそうにスプーンを下ろしていくリリナ。

 ワタシとタリムは半ば呆れながらもその様子を見守っていた。


 若者が多く訪れる菓子店。

 洒落た外装に洒落た内装、ついには食い物を入れる容器まで洒落てるときた。

 食べる物よりこれらの装飾の方が凝っているが、リリナが言うにはこれが流行なのだと。女子は目で楽しむのだと。


 理解不能。

 戦闘以外の面では「人間」と「女子」は別の生き物として認識すべきなのかもしれない。


「ほら、2人とも遠慮しなくていいんですよ」


「あ、あぁ……」


 困惑しつつも、勢いよく差し出されたスプーンを思わず受け取った。


 今日は通常なら学校のある日であった。

 だがご存知の通り、魔族の襲撃によって校舎内は半壊。

 幸い死傷者は出なかったらしいが、修復に時間がかかるとのこと。

 短期間の内に魔族の侵入を二度も許したからか、王都の信用は大分落ち、心なしか王都の人気は少なくなっていた。

 あの王の困り顔を思い浮かべると、不思議と頬が緩むものである。


「何を微笑んでいるんです!さあ、女子を楽しむのです!」


「あ、あぁ、ごめんごめん……って、タリムさん?スプーンあるけど、いらないの?」


「すいません。私甘いものは苦手なので」


 やんわりと断るタリム。

 その仕草は心ここに在らず、といった感じである。

 明らかに何かあったようだが、はぐらかされてまだ聞けないでいた。


 そういえば、あの時タリムは何をしていたのか。

 確か強大な魔力反応が2つタリムへと接触したはずだが、気づいたときにはタリムだけが残っていた。

 同志との戦闘、タリムなりに思うことがあったのか。


 と、当のタリムを見つめながら、スプーンを口へと運んでいた。


「ふ……あれ、結構おいしい?」


「で、でふよね!!」


 だが、そんな些細な疑問は軟弱で甘露な海の中へと流されていってしまった。


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