その六十八 後の祭り
バ キ ン !
古びた演習室の中、最後の魔導器を破壊した。
ザヲを退けた後、この演習室はおろか学校内からほとんどの魔族は消えて無くなっていた。
あの複数の強大な魔力も見当たらない。
ようやっと事が片付いたのだ。
ワタシは破壊と同時に、ポータルが徐々に小さくなっていくのをただ見ていた。
「ふぅ……」
『マ……オ……』
黒騎士の、新魔王とやらの姿が頭に焼き付いて離れなかった。
中身は見られなかったが、間違いなく奴はワタシの魔力をその身に宿していた。
森での襲撃から消えたワタシの頭蓋骨。
消えた遺体達と鑑みるに、それら全てを盗み出したのは森での襲撃のときだろう。
森の一件での奴らの目的は、魔王の遺体の強奪。
なら、この襲撃にも何か目的が……?
「むぅ……ん?」
小さく、今にも消えそうなポータルの向こうから何かが出ようとしている。
何気なく手を伸ばすと、小さな物がワタシの手に当たった。
ワタシは勢いに任せてそれを引き抜いてみた。
「ふっ、ん。ん?何だこれは」
手に現れたのは小さな手帳。随分と使い古された物だった。
ポータルの仕組みは知らないが、現れたのは偶然というわけでもないだろう。
一周回させ、手帳を眺めた。
やがて目についたのは、背表紙の小さなメッセージ。
真実を古き魔王へ。
手帳の状態に比べると、かなり新しい文字だった。
間違いない。あのザヲとか言うやつだ。
「ふん、何が真実だ……」
不意に投げ捨てようとした。
が、ワタシはすぐに思い直し、胸のポッケに仕舞った。
何の真実かは知らない。
だが、それがもしマリに関することなら。少しでも何かの手がかりになるのなら。
『私たちさ、マリ・セイヴハートを殺した人知ってるんだよね』
もしかしたらワタシが_______________。
真実を知るとなると、手帳の中が見れなかった。
今のワタシには臆病という言葉が当てはまるだろう。
「……クルちゃん先輩。大丈夫ですか?」
「……ぅ」
気持ちを紛らわすように、クルを担いだ。
方が付いた今、向かうべきは避難所だろう。
次いで、リリナやタリムのいる場所だ。
なるべく何も考えないよう、思いっきり走った。
〜〜〜〜〜〜
王都から遠く離れた、某所、地下。
人間共は誰も知り得ない地下の奥底。
そこに「新魔王軍」の仮本拠地はあった。
「おいおいポータルの入り口が消えちまったぞ!どうなってんだ!」
「オレ、マダイッテナイ」
「早く人間を殺させろ!」
大きな広間には血気盛んな魔族たちがひしめき合っている。
今か今かと、人間を殺すために集っていた。
そこには統率も秩序も無い。
魔族達は新魔王軍という旗の下で、弱者を蹂躙することだけを考えていた。
そんな広間の中心に立っている高台。
そこに1人の魔族がゆっくりと上がった。
「諸君ら!静粛に!」
上がった初老の魔族はハリのある声でその場を制した。
治まりだした群衆を確認すると、再び喋り始める。
「本日の襲撃は、全てのポータルが破壊されたことにより終了となった!人間に対する私怨は尽きないと思うが、今日はこれまでにしてくれ!」
「んだとお!誰だテメェ!」
群衆の中の1人が野次を飛ばした。
「紹介が遅れてすまない。私は魔王軍の将軍の1人にして御三家の当主、スミーリ・レッドゲイルである!」
スミーリが名乗った途端に魔族たちは不満の声を上げ始めた。
やれ偉いやつは気に入らないだの「新」魔王軍でもないやつが出しゃばるなだのと言い、手当たり次第に物を投げだしている。
「えぇー、すまない。私のことを良く思わない者が居るのも承知だが、今の私はここに立ち、君らに語りかける義務がある!」
下品なブーイングに流石の御三家当主も眉をひそめたが、すんでのところで耐えながらも続けた。
「我ら魔王軍は、貴公ら新魔王軍と一体となることを決めた!」
一瞬の静寂。
その一言に群衆が気を静めたと思うのも束の間、辺りはあっという間に不満の意で埋まった。
飛び交う物と罵声にスミーリは顔をしかめる
「くっ……同じ魔族だというのに、何故なのだ」
「スミーリ様、やはりこんな下賎の者共と手を組むのは間違いだったのでは」
「む、し、しかしだな……」
「待て待て。オレに任せな、おっさん」
従者と囁き合っていたスミーリの後ろから、1人の男が歩み出た。
「テメェら、このおっさんの言った通りだ!オレたちゃこの偉そうな奴らと手を組むことを決めたぜ!賛成してくれるよな?」
「大将!うおおおおおおおぉぉぉ!!」
「カヅチ大将!今日もキマってますぜ!」
「きゃー!カヅチ様!抱いてぇ!!」
彼が出た途端に群衆は態度を一変させ、血気盛んに盛り上がり始めた。
その様子に、元五聖のカヅチは大きく腕を振り上げた。
「な、丸く収まったろ」
「貴、様……カヅチ・レックウか!」
「お、珍しい。オレのこと知ってるのか?」
「当然だ!同志を、貴様らにどれだけ殺されたことか!」
「あー、レッドゲイルってあれだろ?無茶苦茶しぶとい上級魔族の。強かったよ。討伐するにゃ、骨折らされたもんだ。」
「っ……!!」
「スミーリ様、やはりコイツらと手を組むのは間違いです!!」
スミーリの横にいた従者が、カヅチに向かって剣を構えた。
その様子に下の魔族たちはどよめいた。
「止めておけ!これから同じ旗で戦うのだぞ!」
「しっ、しかし!」
「いいね、戦ろうぜ。下の奴らも鬱憤が溜まってるだろうし、ちょうどいいだろ」
カヅチはニヤけた顔で決闘を申し出た。
剣を構える従者に対して、手をブラつかせたままで。
「っ、一族の仇ィ!!」
衝動に駆られ、従者は剣を振り下ろした、
決して生半可な技術ではない。積み重ねと誠実さが見て取れるような剣さばきだった。御三家と言われるものの傘下なだけある。
だが、それだけではこの男には届かない。
「いい剣だ。この強さなら下の奴らも納得するだろうよ」
起こったのは微かな剣光だけ。
カヅチは何もしていないように見えた。
「あ……があ」
振り上げたまま硬直してしまった従者。
カヅチが軽く触れると、それは歪み、あっという間に肉塊へと変貌した。
オオオオオォォォ!!
下へと落ちる血肉に魔族の群衆は狂気乱舞する。
その様子に手を叩いて大笑いするカヅチ。
対するスミーリは拳を強く握りしめていた。
「彼は……我が家に、何百年間、勤めて……!!」
「なに、百年の犠牲で済んだんだ。得るものあれば失うものもあり。むしろラッキーだろ?」
「貴様ら、人間なんぞに何が分かる!!」
「_______________もう、落ち着いてよ。おじ様」
逆上したスミーリを踊り出た小さな影がなだめる。
白い頭髪に、黄色いリボン。
スミーリの怒りを止めたのは小さな魔族の少女だった。
「ね?おじ様」
「……リーロ嬢」
リーロ・イエロークロー
死んだはずの御三家の一人娘であった。
「忘れたの?私が今生きてられてるのも、新魔王軍があるからでしょ?」
「む、むぅ……そうだが」
「それにおじ様もコッチに来ちゃえば、人間を好きに滅ぼせるんだよ。ちょっとくらい我慢しても、ね?」
「……あ、あぁ」
「カヅチも、あんまりおじ様に意地悪しないで」
「ああん?意地悪なんざした覚えないぜ。むしろ褒めてやったまである」
「そういう所。デリカシー無いの、直して欲しい」
「そうかぁ……そういやそんなこと、さっき弟にも言われたっけな」
楽しげに響く笑い声。
和気藹々とした雰囲気で話す、元五聖と御三家。
それはスミーリにとっては異様な光景であった。
人間だろうと魔族だろうと清濁併せ呑む。
これこそが新魔王軍なのであった。




