その六十七 新旧対決
「何なのだ、貴様は!」
目の前の黒い騎士を見据えながら叫んだ。
この騎士から感じられるのだ。
ワタシの魔力、つまり、ワタシの遺体そのものが。
「マ……オ?」
黒騎士は動かない。
足を小さく何度も跳ねさせながら、辺りを見回しているだけだ。
こちらを警戒こそはしていない。
だが、この強大な魔力を前にして警戒するなという方が無理だろう。
「はっ、はっ、はっ……」
クルは身構えながらも、しきりに黒騎士を睨んでいる。
魔族でもないクルですら、魔力は分からずともその異常さは感じ取れたのだろう。
「_______________円環纏いて、我が身の盾とせん」
クルは早口に詠唱すると、その身を魔力の鎧に包んだ。
「クルちゃん先輩、落ち着いてください!」
「はっ、はっ!……う、うわあああああ!!」
「クルちゃん先輩!!」
錯乱したクルは咆哮と共に黒騎士へと飛びかかった。
その手には膨大な量の魔力が宿っている。
「新魔王様、お願いします」
「……アァ」
ザヲが1歩下がると、代わりに黒騎士が1歩前に出た。
そして訪れる、黒の鎧と青い魔力の衝突。
ゴ ガ ガ ッ !
金属の削れるような音が鳴ったと思うと、一瞬で魔力の光は現れた漆黒に塗り潰されてしまった。
「なっ!そんな_______________!!」
「アァ!!」
呻くような叫びと拳がクルに強く叩きつけられる。
並ではないその殴打に、クルは腕を交差させて対応した。
だが、その程度の防御行動など焼き石に水。
クルの小さな身体は軽々と吹き飛ばされ、壁に激突した。
「ぅ、あぐぁっ!!」
「クル、っ!貴様、許さんぞ!」
追撃しようとする黒騎士に立ち塞がる。
黒騎士は魔力を発するワタシにすら臆することはない。
黒き手甲に覆われた拳を振るってきた。
「ドオオオォォォアア!!」
「私の前で、その体を好き勝手動かすでないぞ!」
頬に掠めながらも右ストレートを避ける。
そして懐へと踏み込み、ワタシも同じように拳を振るった。
こうなった以上手加減はしない。
その身すら穿つつもりで。
「まずはその場に、這いつくばるんだな!!」
ゴ ッ !!
「っ、この鎧!!」
「アァ……?」
砕き貫くつもりで振った拳はその身体にすら届くことはなかった。
これはこの新魔王による力ではない。
この鎧による純粋な硬度。
「新、魔王軍!貴様らの技術はどこまで……!」
「ア……マ、オ……!!グオオオアアァァ!!」
飛び退くと突然、黒騎士が頭を押さえ叫び、足を何度も大きく跳ねさせた。
その膨大な魔力が鎧から漏れ出ている。
まだ、自身の力を制御出来ていないかのように見えた。
「オ、オオ、オオオォォォ!!」
「おやおや、新魔王様。もう限界なのですか?」
後ろにいたザヲが指を鳴らすと、消えたポータルが再び出現。
黒騎士はポータルの向こうへと消えていってしまった。
「マオオオォォォォ!!……」
「ふぅ……新魔王様にも困ったものですね」
「……貴様らか?王都の遺体を盗んだのは」
「ふ、人聞きが悪いですね。元々は我らの物なのですから、取り返した、と言っていただきたい」
「ふざけるな!何を目的にソイツを生み出した!言っておくがそんなもので魔族の時代なんぞ取り戻せやしないぞ!」
「魔族の、時代?古い考え方ですね」
ザヲは指先を意識の無いクルへと向けた。
瞬時に、魔力が集中するのが分かった。
「やめろ!!」
「私が目指すのは、さらにその先ですよ」
放たれる光弾を、触れる一寸の差で弾く。
跳ね返った弾は天井に激突し、パラパラと散っていった。
ザヲは一連の流れに何の反応も示さず続けた。
「人間の時代でも、魔族の時代でもない。私たちは次のステップに進むんですよ。新魔王軍はそのための組織です」
「貴様自身が魔族だろう。次のステップなどと、くだらないことを!」
「私がただの魔族に見えるのなら、貴方はまだその領域に達していないのです」
「領域、だと?どちらが次代の者かなど_______________」
怒りに任せて、ただ掌に魔力を篭めた。
「_______________己の力に聞けば分かることだっ!!」
手を地につけて魔力を流し込むと、無数の地の槍がザヲに向けて放たれた。
これはクルの魔術とは規模が違う。
地の槍は枝分かれに枝分かれを重ね、目に見えないサイズまで、その形を変える。
刺さった者の身体内までもズタズタにする魔術だ。
いくら再生できる魔族であれど、無事ではすまない。
「ア、ゴブッ!!いった!結構ヤバいの食らってしまった!」
「……何?」
魔術は直撃した。
今まさにザヲは息絶えようとしている。
だと言うのに、ザヲはどこか緊張感の無い様子だった。
「いったぁ……話しに来ただけだってのにこんな、無茶苦茶な」
「貴様、もう死ぬぞ。それが遺言で良いのか?」
「え?あぁ、はっはは!すいません。これ私の本体じゃないんですよね」
「次から次へと訳の分からない……どの道、今この場にいる貴様はもう死ぬな」
「そう……ですが、私達と来れば訳くらいは分かりますよ。旧魔王様」
ザヲは嘲笑った。
「っ、もういい。貴様は、消えていいやつだ」
魔力を地の槍へと巡らせた。
地の槍は再始動すると、ザヲの体全てを隈無く貫き、その原型すらも引き裂いた。
不気味な笑いと共に、血液が飛び散った。
広がる静寂の中、歪んだ暗黒がその場に残った。
旧魔王。
ザヲはワタシをそう呼んだ。
リンク・セイヴハートといい、コイツらといい、ワタシの存在に気づいている者が多すぎる。
見えない何が裏で蠢いている。ワタシはまだ、それが何なのか分かっていない。




