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その六十三 密談

 

 ワタシは思わず後ろに振り向いた。


「貴方は……」


「んやあ、マリー。ごきげんようです」


「えと、クルちゃん先輩?」


 そこには魔術士の位(マジシャン)のクル・スォートルが立っていた。

 図書館以外で見たのは初めてだ。


「何か困っているようですね。この大親友のボクに何でも聞いてもいいんですよ?」


「……誰?この人」


 横になったままのケイナが鋭く眼を飛ばした。


「っ……そっちこそ誰ですか。初対面の人をいきなり下から睨むなんて。無礼な人ですね」


 クルは不機嫌そうな目から逃げるようにワタシの背に隠れた。

 震える手で裾を掴む様はまるで子供だ。


「ボ、ボクはクル・スォートル。マリーの頼れる先輩です」


「はあ、マリー?」


「とーぜんですけど、我が親友マリ・イルギエナのことです」


「ふーん……アタシはケイナ・ビリッツァ。アンタと同じでこの子の先輩よ」


 クルに対抗するように、ケイナはワタシの袖を引っ張った。


「先輩ぃ?キミ何年生ですか?」


「魔術科2年よ」


「む……ボクも同じ魔術科2年です。同級生ですね」


「はぁ?2年生?アンタなんか見かけたことすらないんだけど」


「そりゃ、ボク授業中すら教室にいませんから」


「え?!アンタ学校の生徒、よね?じゃあ授業中はどこにいんのよ」


「図書館です」


「……ねぇちょっと、どういうこと?」


「すいません、私もよく分かりません」


 困惑した様子のケイナに対して、首を横に振った。

 クルが授業中すら図書館にいるとは知らなかった。

 ミヅキやマインでも授業は受けていると聞くが、五聖(グローリー)に対する扱いには個人差があるのか。


「……んん!?2人して哀れむような目で見ないでください!」


「そんなこと言ってもね……制服着てるけど本当に生徒?そこから怪しくなってきたわよ」


「無礼!無礼ですよキミ!しょうがないですね、マリーも知ってるボクの秘密を教えてあげます」


 そう言うとクルは寝ているケイナの耳元まで口を運ぶと、コショコショと話し出した。

 ワタシも知っている秘密、とはクルが五聖(グローリー)であることだろう。

 話し終わると、クルはドヤ顔で向き直った。


「ってことなんです!どうですか?信用してくれました?」


「はぁ……ねぇ、これ本当なの?アタシにはこれも嘘な気がしてならないんだけど」


「多分本当なんじゃないですか。じゃなきゃあんな自信満々に話せない、と思います」


「んー……」


 納得いってない様子のケイナ。

 なんだか自信ありげなクルが逆に不憫に見えてきた。


五聖(グローリー)が図書館の留守番ねぇ……確かに魔術士の位(マジシャン)はウチの生徒ってのは知ってたけど」


「その通り、ボクがそうですからね」


五聖(グローリー)って、証明するものとか無いわけ?」


「む、まだ怪しんでますね」


 クルは口を尖らせながらも懐からなにかを取り出した。

 それは小さな銀の首飾りだった。


「どーです!特例討魔師の証。生徒でありながら魔族との交戦することが許されている証です!」


「あ……委員長と同じやつ」


「これは王都の中でも持っている者は数少ない、特別な者だけに配られるんですよ」


「む……悔しいけど、本当みたいね。ごめんなさい。今までの非礼を詫びるわ」


「ふふん、分かったならいいんですよ!」


 ケイナは寝た体勢のまま、軽く会釈した。

 対するクルは淀みなくそれを受け入れた。


「……ん?」


「マリー、どうしました」


「それ、私も持ってますよ」


 ふと思い出し、全く同じ首飾りをワタシも取り出した。

 特例討魔師の証とやらと寸分違わないものだ。


「これ、同じやつですよね」


「えええ?!マリー?!」


「え?アンタ……え?」


「何か、王様にもらいました」


「「えええええええええ!?」」


 2人の絶叫が部屋をこだました。

 途端に周りの生徒から訝しげな目で見られたので、3人して部屋の隅に寄った。

 これは城から出る直前、ミゼンガから受け取った物だ。

 まさかそんな代物だとは思ってもなかった。


「王様って、あの?」


「マリー、キミもしかして結構すごいヒトなんですか?」


「あ、ああ、はは。そんな感じ、ですかね」


「な、話がいきなり飛びすぎてよくわかんない……も、もういいわ、いい加減本題に戻りましょう。アタシ達、何の話をしてたっけ?」


「先輩、私がここから出たいって話です」


「ああそうそう……んで、アタシが危ないからダメって言った所だったわね」


「ふ、ふーん。マリー、様はなんで出たいんですか?」


「様?ええと、魔族の設置したポータルっていう魔導器を破壊しに……あ、すいません先輩今のなしで」


「はあ?アンタそんな危なそうなことしようとしてたの?!ダメよ、絶対ダメ!」


 ケイナの袖を引く力が強くなった。


「危なそうって、ボロボロのキミが言えたことじゃないと思うね!ボクは親友としてマリーの意見を尊重するよ!」


 クルの裾を掴む力も強くなった。


「アタシは風紀委員としてどんな境遇の生徒も守らないといけないの!アンタは図書館にでも引っ込んでなさいよ!」


「マリー様はこの騒動を治めようとしてくれてるんだよ!マリーがしたいって言ってるんだから親友として、そうさせてあげるべきだ!てかマリー多分強いし!」


「アンタの意見は関係ないでしょ!てか親友なら尚更、止、め、な、さ、い、よ!」


「困った友達は肯定してあげるのが良い付き合い方って、書、い、て、た、も、ん!」


 2人は会話と共に、手に力を込めていった。

 両者は1歩も引く気がないようで、ワタシの制服はどんどん延びていく。


「もう、やめてください先輩方!!」


「あ、ごめんマリー」


「あ、ごめん。悪かったわね」


 ワタシの声に我に返ると、2人はパッと手を離した。


「まあでも、ポータルの場所が分からないのでまだ出るつもりはないんですって」


「アンタさっき人気のない場所を聞いたのってそういう……」


「あ、マリー。ボク人気のない場所なら詳しいですよ。よく探して1人で昼食を取ってますから」


「本当ですか?じゃあ、とりあえずそこに行きますか」


「なっ、ちょ、ちょ、ちょっと、アンタ達本当に行く気?!」


 心配そうに服を掴むケイナを、ワタシは冷たく振り払った。

 彼女の心配する気持ちも分かるし、彼女に風紀委員としての責務があることも重々承知している。

 だが、力を持っているワタシがこの騒動を止めることが1番の近道なのだ。


「すいません。私がやるべきなんです」


「何カッコつけてんのよバカ後輩……なんでアンタがそんなことやる必要があるのよ」


「本当にすいません」


「……心配しないで、ケイニィ。五聖(グローリー)のボクがついて行きますから」


 苦しそうに横たわるケイナを横目に、ワタシは部屋を出た。

 いざ、ポータル破壊へ……。


「いや誰よ、ケイニィって……」


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