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その六十二 不定形

 

 学校のある教室。

 多数の生徒が眠りについている中を1つの影が歩いていた。


「分かる、分かるぞぉ。ここは2年の教室だなぁ?」


 影の正体は人の形をした上級魔族。

 名はスポット「百目のスポット」と呼ばれている。

 襲撃に参加した名前持ち魔族の最後1人でもあった。

 同時に突入したキラーとビーストの反応は既に消えているが、彼はまだそれに気づけていない。


「さっきの爆発音、ビーストの仕業だなぁ?派手にやりやがる。俺様もさっさと武勲を上げてやるぜぇ」


 上機嫌な様子でスポットは教室中の生徒を1人ずつ見ていった。

 スポットの持つ力は「観察力」。

 その目を通して見たもののあらゆる情報が得られるという力だ。


「ヒヒヒっ!こいつ、こいつもこいつも俺様より弱ぇんだなあ!」


 彼は人間を観察することが好きだった。

 自分より劣っている者の行動を把握するのが楽しかった。

 その気になればいつでも殺せるのだと、命を握っている優越感に浸れるのが何より楽しかった。


「……お?なんだアイツ?」


 ふと、スポットは立ち止まる。

 目についたのはたった1人の人間。

 周りと同じく、寝ている女だ。

 制服を着ているから生徒なのは違いない。


 だが、この百目の観察力を持ってしてもその人間の正体が分からないのだ。

 わずかな筋肉の機微、魔力の質、果てには一つの呼吸もこの目は見逃さない。

 だと言うのに、何故?


「何故だ。見えないなんてことは……」


 スポットは近づき、ようやく気づいた。

 見えてはいた。ただ変容し続けているその姿を見切れなかっただけだったのだと。


 だが、気づくのが手を伸ばした後では遅かった。


「どう、見えた?」


「_______________っひぁ!?」


 身体の一部が失くなる感覚に驚き、咄嗟に後退。

 ボトリと落ちた手首を見てからやっと、それが自分のものだったと気づいた。


「なっ、なっ!なんだこの人間は?!」


「あれ、殺れなかった」


 女生徒は机に突っ伏した状態からゆっくり起き上がる。

 確かにその姿を目に収めているが、まだその全貌は見えない。


「見えない、見えないぃ?!何でだ!」


「さてなんででしょーかっ。正解はー?」


 女生徒は紙吹雪を取り出し、辺りにバラ撒いた。


暗殺者の位(アサシン)のローナちゃんだからでしたー!はい拍手!」


 柏手を打つ度に名乗った者の姿は変わっていく。

 さっきの姿とは全く違う、紫髪の生徒へと早変わりした。


五聖(グローリー)!そうかこの人間が……!!」


「で、どう?今なら見えるかな、かな?」


 さっきまで不明だった人間の情報が次々と判明する。

 恐らくこの姿が本性なのだ。


「ふ、ふはは!見える、見えるぞ!人間の筋肉、心臓の鼓動、全てがな!」


「いやん、見ないでぇ」


「隠密、変装のスペシャリストと言えど俺様の目を持ってすれば丸裸なのだ!ふははは!」


「え……隠密、変装?」


 小躍りしていたローナの顔つきが唐突に硬くなった。


「じゃあ、じゃあさ。今の私はどう見える?」


「無駄だ!今さらどう姿を変えたところで俺様からは……」


「ね、どう?」


 硬い表情のまま、ローナは詰め寄った。

 見えない。

 スポットにはその姿がまた変わったように、否、もはや別の人間に見えていた。


「変わる、変わる?!だっ、誰だ!さっきの女はどこにいった?!」


「いややっぱ見えてないじゃん」


 ローナが腕を上げると、ゴムのように伸び縮みした。

 毛皮、鱗、果てには骨のみにも、その腕は変わっていく。

 外見だけではない、中身の構成も留まることはなかった。


「変装?隠密?やめてよ。私これでも普通の女子だよ。そんな物騒でジメジメしたこと、しないもん」


 短剣を持った腕は鞭のようにしなり舞った。

 教室を響く、風を切る音。


「ひっ、ひ、ひああぁぁ_______________っ……」


 スポットが後ろに向きを変えたときには、五体は保たれていなかった。


「変装とか趣味じゃないし……内包式(スクロール)だし、自前だし」


 仕留めた獲物には一瞥もしない。

 ローナはまるで普通の女子がいじけるかのように口をとがらせ、その場を去った。


 〜〜〜〜〜〜


 避難した生徒がひしめき合う委員室。

 ワタシはその場所にて、生徒とともに待機をしていた。


「この数の生徒が協力すれば、魔族なんて敵じゃない……何故皆ここに避難を?」


「バカ後輩、アタシらまだ誰も討魔師じゃないんだから。覚悟もないのに戦うなんて出来ないもんなの」


 すぐそこで横になっているケイナが不機嫌そうにした。

 「百手のキラー」討伐後、ケイナを避難所へと運んで数分が経過していた。

 ワタシは避難している生徒達に紛れながらも、次の行動を考えていた。


「討魔師じゃないと魔族と戦えないんですか?」


「普通なら討魔師になる(まで)は、魔族との交戦は禁止されてるの。アンタも大人しくしてなさい」


「……でも先輩、普通に戦ってませんでした?」


「うっさいわね。あれは非常時だったからしょうがないの」


「そういう先輩、戦ってこのザマですけど」


「んん!!ん!!」


 ケイナは怒りに頬を膨らませるが、疲弊した身体ではそれ以上のことは何も出来ない。

 とりあえず今日、彼女が立ち上がることはないだろう。


 顎に手を当てするべきことを考えた。

 魔力の反応を見るに大きめの魔力はミヅキとローナが始末してくれたようだ。

 後は大量の下級魔族とポータルを処理すれば、全ては丸く収まる。

 まず潰すならポータルの方からだろう。


「先輩。学校で人通りの少ない場所と言えば、どこが思い浮かびます?」


「え。なに、急にどうしたの?」


「……いや、何となく」


 無言で睨んでくるケイナから思わず目線を逸らす。

 ケイナとしては、もうワタシをどこかへ行かせる気はないらしい。


「アンタ……何かする気でしょ」


「……お手洗いに行こうかな、と」


「部屋出てすぐ隣にあるわよ」


「恥ずかしいから人気の無い所がいいなぁ、って」


「……アンタがいくら強いからってね、(いち)生徒を魔族と戦わせるようなマネ、アタシは絶対しないから」


 なおも目線を外さないケイナ。面倒な女だ。

 ポータルを魔力の感知で探すことは出来ない。

 故に、ありそうな場所に目星をつけて行くしか無いのだ。

 ケイナから聞けない、となれば当てずっぽうで……。


 立ち上がろうとしたその時。

 後ろからワタシの肩を叩く者がいた。


「へい、マイフレンド。お困りかな?」


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