その六十一 奥の手
「んで、コイツはどういうやつなんだ?」
ミヅキがめんどくさそうに聞く。
校舎の廊下内、タリムとミヅキは上級魔族のビーストと相対していた。
「その目は飾りか。上級魔族だと見たらわかるだろう」
「お、そういう態度で接しちゃう?俺ったら五聖なんだぜ?」
「知るか。貴様が何と思うかはどうでもいい。マリ様以外には等しくこう接する。そう今決めた」
興味無さげに返すタリムにミヅキは苦笑した。
得体の知れない生徒。だが、お互いの境遇や立場には興味はなかったし、今はそんなもの探りあっている場合ではなかった。
「かち割れるモノがまた1つ。それにどっちも有名人だ。運が良い」
2人を見た、ビーストが淡々と喋る。
機械的な語りだが、どこか興奮が見え隠れしていた。
「女子にゃモテねぇのにこういう奴にはよく知られてんだよなぁ俺」
「くだらん文句を垂れるな。いいか、奴は頭を変形させて何か魔術に対する耐性を獲得する。とりあえず火は効かないと思え」
「んだそりゃ気持ちわりぃ。まんま化け物だな」
「百獣のビースト、と呼ばれているらしい」
「聞かん名だな。まあ、つまりは物理でごり押せってことでいいな?」
「……では、そういうことにしておこう」
よし、とミヅキは刃の無い柄を両手で握り直すと、体勢を低く保った。
息を吐く度、彼の表情が獣のように鋭くなっていく。
「言っておくが私は手伝わないからな」
「はは。そりゃ残念、だっ!!」
声と同時に地を蹴る。
向かう先は百獣のビースト、ハルバードを手にした魔族だ。
「愚かな五聖、ミーにかち割られに来たかな」
瞬く間に、互いの射程圏内。
どこからともなく現れた魔力の刃とハルバードの斧頭が両雄の命に触れようとしていた。
ガ イ ン !
先手。
虚空を割ったハルバードが爆音を鳴らし、床に刺さった。
長物に重鎧。ミヅキはその鈍い動きを見切っている。
次の切り返しまでの猶予、ミヅキはそれを見逃さなかった。
「最近強いやつとばっか戦ってたからな、てめぇみたいなのが相手で俺は嬉しいぜ!」
魔力の塵が柄へと集まり、青白い刃を形成する。
「戦士の位」たる才能と技術の結晶である魔導器から放たれるその一撃は、上級魔族であろうと_______________。
「変態、魔吸いの章魚」
ビーストの顔面が醜く歪むと、やがてそこに未知の軟体生物が現れた。
必殺のはずの一撃は当たったと同時に霧散し、鎧の中へと消えていく。
「いぃっ?!」
「驚き、固まった。かち割るチャンスだな」
横に振り払われた斬撃。
ミヅキは回避に転じようとするが、間に合わない。
刃が今、ミヅキを裂こうとした瞬間。
「貴様、伏せろぉ!!」
「は?伏せゴホォァ!!」
タリムによるドロップキックがミヅキを吹き飛ばしたのだった。
空振られるハルバード、地に伏すミヅキ、そして受け身をとるタリム。
ひと時の静寂が場を支配した。
「……かち割りチャンス」
そして、静寂ごと切り裂く槍斧。
「っ、ぅうおわぃ!!」
そんな不意の一撃をミヅキは回避すると、いつ間にか距離をとっていたタリムへと避難した。
「はぁ、はぁ、すまん。助かった」
「二度とないと思え」
「ああ、肝に銘じる……んで、どうするよ」
「そうだな……打つ手無しだ。貴様がまともな武器を持ってないと分かったからな」
「魔力そのものを吸収するとは思わんだろうが……」
ビーストは「薄刃の柄」を吸収した顔面のまま、大きくガッツポーズをとった。
火魔術もダメ、ミヅキの持つ唯一の魔導器もダメとなれば、もうビーストに対する手は無いも同然だった。
「貴様、五聖なのだろう?内包式とやらは無いのか?」
「ある……あるんだが、あんまり他人には見せらんないんだよなぁ」
「使わねば死ぬぞ」
「いやぁ。う、ううむそりゃそうなんだが……そうだ!いいこと考えたぞ!」
唐突に声を荒らげるミヅキにタリムは不快感を顕にした。
その様子を無視してミヅキは嬉々として語りだす。
「あの魔族、顔を変えて攻撃を防いだよな?火の魔術の時はどうなったんだ?」
「……竜の頭に変わったな」
「やっぱな!顔は1つだから防げるのは一種類の攻撃だけど見た!2つの攻撃を同時にぶつけるなんてのはどうだ?」
「ほう、つまり私と貴様が連携しろと」
「そうだ。いいな?よし、じゃあやるぞ!いち、にの……さ」
ミヅキが足を踏み出したと同時に、タリムが魔力を込めた。
「ん_______________あ?」
刹那、タリムの手から現れた炎がミヅキ諸共……否、ミヅキのみを襲った。
「ぐあ、うおわっ、あついあついあつい!!」
背を焼かれ、ミヅキは火の尾を付けながら転がり回った。
「あっつつ!テメェ、何しやが_______________」
「スキあり!かち割るぞぉ!」
「ちょ、待っ、うおおおおぉぉぉ!!」
容赦なく襲いかかるビーストの連撃を寸で避けながらも、ミヅキは再びタリムの下へと戻った。
「ぁ、ぁ、ぁ、ぉ前、マジにふざけんなよな……マジ、マジで」
「作戦には賛成だ」
「んじゃあさっきのは何なんだよ!!」
「黙れ。貴様が指図するのが悪い。私が聞くのはマリ様の命令だけだ」
「お前、らな。ちょ、と、待て、1回休憩……」
「お、あっちは待ってくれないようだぞ」
「んおおおお!いい加減かち割らせろぉ!!」
息を切らすミヅキにはお構い無し。
ビーストはハルバードを掲げながら猛スピードでコチラに接近して来る。
「そら準備しろ。同時攻撃だろう?」
「ひっ、ひっ、ま、もう、い、いいな。1回で、決めるからな」
息を荒らげながらもミヅキは立ち上がり、柄を握った。
並ぶタリムも手元に火の大剣を生成、迎撃準備に入る。
互いの呼吸を窺いながら、魔族の接近を待った。
3歩、2歩、1歩。
ビーストが2人のクロスレンジへと足を踏み入れた。
「ぃくぞぉ」「行くぞ!」
「かち割りぃぃぃぃ!!」
雄叫びと共に天を向くハルバード。
それが両者へと振るわれるよりも早く、2人は啖呵をきった。
「「死ね!!」」
交差する剣閃_______________。
「複合変態、魔炎の喰らい手」
ビーストが呟くとその顔面は姿を変え、先程の顔面達がまぜ合わさったようなモノへと変貌。
直後、捉えたはずの刀剣達は虚しくも鎧へと吸い込まれた。
「「_______________!!」」
戦慄する2人。
その絶望をダメ押しするかのように、ビーストの鎧が眩く光り始めた。
「あぁ、吸い込みすぎた。またかち割れずに殺してしまうなぁ」
魔力の高まり。そして、溢れ、暴発する予感を2人は察していた。
まさに、万事休すの危機の中_______________
「……さらばだな戦士の位。お前のことはマリ様に」
「っ、ああぁ!!……しゃあねぇ、他人には見せたくないが」
_______________ミヅキは手を合わせた。
「来な、言ノ刃」
そして右手から引き出される空色の刀剣。
内包式「言ノ刃」
術者に封じられた特殊な刀を召喚する内包式。
右手と左手に1つずつ刻まれており、そこから呼び出される刀剣は術者の感情によって姿と性質を変える。
「感情は義務感、それと、ちょっとの怒りってとこか?」
滑らかに、それでいて力強く刃は走った。
刃が鎧を貫き、通り過ぎたにも関わらず、その鎧には傷1つ付いていない。
ように見えた。
「_______________あ、ぁぁぁばあ!!」
叫びを上げ、切り裂かれるビースト。
顔面から全身にかけて、その鎧すらも剣刃は断ち切っていった。
「貴様、最初からそう……や、れ」
バラバラになった鎧から現れたのは、輝く球体。
それは爆破の術式に変換された魔力の塊であった。
「は?」「え?」
カ ッ ! !
一面の白い閃光と爆発が辺りを包み込んだ。




