その六十 割殺
「ぬあああ!意味がわからん!!」
タリム・レッドゲイルは悪態をつきながら、校舎を走り回っていた。
この状況の異常性、あの森での一件と同じだ。
魔力感知を広げて分かる、校内に存在する無数の魔族。
「ニンゲン、コロス!」
「私は人間ではないと、言っておるだろうが!」
否定しながらも、襲ってくる下級魔族をなぎ倒していった。
人間と勘違いして襲ってくるあたりを見るに、ウェルスから聞いた「新魔王軍」とやらだろう。
しかしながら、前回の襲撃からまだそう浅くはない。
統率は取れていないが頭数はあるということだ。
「なら尚更……なんなのだコイツらは!」
魔王軍での人員は常に不足していた。
それほどまでに魔族の状況は追い詰められていたものだった。
この数、息を潜めていたにしては多すぎる。
ゾクリ
刹那、背中を舐めるような悪寒が走った。
強大な魔力が校内に侵入したのを感じ取る。
マリ様か?いや、それにしては……。
「……。」
「うわっ!!」
漏れる悲鳴。
タリムは目の前に立っていた魔族に驚き、足を止めた。
人型、上級魔族ではある。だがその姿は……。
「……。」
「お、おい!貴様話せるのか?魔族なのだな?私が誰だか分かるか?」
「……。」
「なんなのだ貴様は!」
首のない騎士。ハルバードを手にした首なし騎士の魔族だった。
首元から除く中身は真っ黒で、どうなっているかは分からない。
だが、魔力は感じられるし、動いているので生きていることは違いない。
「ギャワァ!!」
唐突に、上方から鳴き声。
見上げると爬虫類の生首が宙を舞っていた。
「は……何だこれは」
生首はゆっくりと下りてくると、騎士の首元にすっぽりとハマりその首を変化させた。
「あ、人間に、なった……?」
「いかにも、ユーが何かの話したがっていたので、話せるようにした」
「……他とは違って随分と友好的じゃないか」
「いやこれはユーのような人間にかけてやる、ある種の慈悲だ」
騎士の魔族はハルバードを持ち直すと、ピシリと直立した。
「人間だと。私は魔族だ。タリム・レッドゲイルの名を聞いたことはないか?」
「む、レッドゲイル……聞いたことがあるな。確か、魔族一の再生力を持つ魔族だとか」
「それが私だ」
「なるほど……」
魔族は少し考える素振りを見せたと思うと、あろうことがハルバードを振り上げ、
「……!! 貴様、何を」
勢いよく振り下ろした。
タリムが慌てて回避すると、外れたハルバードは容易に床を砕いた。
「何のマネだ!!」
「人間か魔族か判断がつかん。だから、とりあえずかち割ることにした。本物なら再生、偽物なら死亡、な?」
「っ!同じ魔族なのだぞ!」
「新魔王軍ではないユーはミーとは関係ない。それより、かち割らせてくれないか?」
興奮に息を荒らげる上級魔族。
ダメだ、話が通じる相手ではない。
魔力を練り、火魔術を発現させた。
「貴様からは純粋な悪意を感じる……仲間だろうと敵だろうと関係ない。殺しを楽しむヤツだな」
熱波の吹き荒れる音と共に数十の火の大剣が現れた。
「そういう輩、私は大っ嫌いなんだよ!!」
パチンと指を鳴らすと、大剣は猛スピードで魔族まで飛んだ。
上級魔族だろうと並では防げない攻撃魔術。
そう簡単に凌げやしない。
「変態、火吸いの竜」
相対した魔族が呟くとその頭は不気味に歪み、やがて紅の鱗を持つ竜へと変わった。
火の大剣が魔族に触れた、と思うと大剣は鎧の中へとスルスルと吸い込まれていった。
「なにぃ?!」
「申し遅れたが、ミーはビースト。「百獣のビースト」と呼ばれている。どうか覚えるついでにその頭、かち割らせてもらえるか?」
ビーストはハルバードを構え直すと、その鎧の重量を感じさせない軽やかさで跳んだ。
「っ______________う、うおああぁぁぁ!!」
「割らせて、割らせて、割らせて、割らせて、もらえないかぁぁ!!」
ガ キ ン ! ガ キ ン ! ガ キ ン !
タリムは叫びながらも、ハルバードによる連撃を避けた。
先程の魔術を無効にされた時点でタリムは打つ手をほとんど無くしていた。
何を隠そう、タリムが使える属性魔術は火の魔術のみなのである。
氷や雷撃、風の魔術は一切使えない。
身体強化や防御などの魔術は使えるが、上級魔族に通用するレベルまでには達していないのだ。
タリムが持つ手段は火魔術と再生能力。
擬態を解けばダメージを与えられるかもしれないが、校内で迂闊に解くわけにもいかない。
つまり、かなりの危機に瀕している。
「そこの1年!伏せろ!」
攻めあぐねていると、前方から声。
タリムはその接近してくる気配に思わず身を低くした。
ギ ィ ン !
「割らせ_______________ぬ、うううぅぅん!」
鈍い金属音と共にビーストの甲冑に斬撃が走り、その体躯が後ろへと飛ばされる。
何かが通り過ぎた、そう気づいた時には既にそれは達していたのだった。
「うおっ。結構強めにやったんだがやれてねぇ。なんだアイツ」
「……きさ、貴方は」
そこには五聖の戦士の位と称された男、ミヅキ・レックウがいた。
腕には柄の形をした魔導器が握られている。
「1年、上級魔族相手によく持ちこたえたな。後は俺に……ん?お前、どっかで」
「ちぃっ、助けられはしたが礼は……っ、ありがとう、ございます」
「あん?……ってお前あれか。確か学校でアイツとつるんでた奴だよな」
「マリ様をアイツ呼ばわりするな!!」
「……へーへー、なるほど。そんな感じかよ」
しまった、と思わず口を塞ぐタリム。
ミヅキはその様子をニヤついた顔で眺めていた。




