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その五十七 宣戦布告


 医務室でワタシと王を名乗るミゼンガは向かい合い、品定めするように見つめ合った。


「どうみても子供だな。その成りで王などと……両親が早死にでもしたか?」


「余の両親は既に他界しているが、おそらく君の思うような死に方ではない。安らかな老衰だよ」


 ワタシは挑発するように眉を動かした。

 その様子に、後ろのミヅキは慌てふためいている。


「少なくとも余の身体はそのマリ・セイヴハートのモノよりは年期が入っている」


「なるほど。育ちが悪いだけか。何を食ったらそう_______________」


「だああ!やめろ!お前初対面が相手でもそこまで無礼じゃねぇだろ!!」


「そうだよ!このままじゃヅキくんの胃に穴空いちゃうよ!」


「何を言う。魔族の王と人間の王だぞ?なかよしこよしの方がおかしいだろう」


「そうだぞ戦士の位(ウォーリア)。彼女とはこのくらいが丁度いい」


「うええぇ?……ま、まあ王が良いってんならいいっスけど」


 腕を組み、王2人して満足げに頷く。

 ミヅキは嘆息しながらも、釈然としない様子で席に着いた。


「それで?私も暇ではない。要件があるのなら手短に頼むぞ」


「この後何かご予定が?」


「学校がある。この地を治める王なら知っておけよ」


「ふふ、面白い……暇ならお茶にでも誘おうと思っていたんだが。そうか、学校の方が大事か」


「暇でも断っていたぞ」


「さらに面白い。実は要件といったものは無い。ただ1度君を見ておきたかっただけなんだ」


「ほう、では貴様のお眼鏡に私はかなったかな」


「目利きには自信がある……余が見るに君は「魔王」の称号を授かるほど冷酷ではないようだ」


 ふん、と鼻で笑って見せるが、心中は穏やかでない。

 冷酷でない、というのは最近のワタシも気にしていたところだ。

 見透かされたようで気に入らなかった。


「む……ところでそこの僧侶の位(プリースト)はどうしたんだい?昨晩からずっと医務室で寝ているようなのだが」


「王、それはですね……」


 ミヅキは懇切丁寧に概要を話した。

 最初こそワタシのことを面白がって聞いていたが、セイヴハートが絡む話になるとその表情は険しくなっていった。


「ほう……つまり、そこの僧侶の位(プリースト)は例の人造人間だ、と?」


「はい、まあ、そうなりますよね」


 ミゼンガはほお、と息をつきながらマインを眺めると、突然ワタシの方に向き直った。


「……魔王、君には礼を言わなければならないね」


「礼。何故に」


「君は「聖没」という事件を知っているかな?」


 その問いにワタシは首を横に振った。

 「聖没」

 その言葉が出た途端に五聖の2人、特にローナの表情が固くなった。


「簡潔に話すと、セイヴハート邸から突如現れた魔族が五聖(グローリー)を襲った話だ。ちなみに五聖(グローリー)と言っても今のとは違う。先代の五聖(グローリー)だ」


「先代の五聖(グローリー)……マリのことか?」


「それよりも前だ。そうだね……マリ・セイヴハートが10歳の頃だったかな?」


 ミゼンガは思い出しながらも関わった五聖のメンバーを挙げた。

 戦士の位(ウォーリア)にしてミヅキの兄、カヅチ・レックウ

 暗殺者の位(アサシン)にしてローナの母、カドラン・シャリテナ


「この事件でこの両者が行方不明になったが……行方不明になる前、暗殺者の位(アサシン)はある報告をしていた」


「セイヴハートが人間を造っているという旨を伝える伝言だ……セイヴハートに探りを入れるよう頼んでおいたから、その結果だろう」


「後日、セイヴハートから魔族が脱走したかのように出現。それを討伐すると、行方不明になった2人の遺品が出てきた」


「そして当時勇者だったリンク・セイヴハートの父、ゼイル・セイヴハートは何故か直後に勇者を引退、後継は息子に……とまあ、余のセイヴハートへの不信感が高まる事件ではあった」


「結局原因がセイヴハートという確証も無ければ、奴らが何をしたかったのかも余には分からなかったんだ」


「そこで、私が新たな情報を手に入れたわけだ」


「そう!根源たる目的は判明しないままだが、形白(マリオネット)の存在を知れたのは大きな一歩であるのだよ!」


 ミゼンガはワタシの肩を叩いて喜んだ。

 ミヅキやローナのセイヴハートに対する警戒の強さは肉親の死が関わっている、そう思うと今までの彼らの反応も頷けた。


「確証も何も魔族がセイヴハートから出た時点で、何が原因かは決まっているも同然だろう」


「魔族も神出鬼没だからね……セイヴハートが全ての元凶とも一概には言えないわけさ」


 ミゼンガが疲れたように椅子に腰を下ろした。

 すると。


 コン コン コン


 本日3度目のノックが扉を叩いた。

 来客の多い日である。


「王、他に誰か?」


「いや聞いていないが」


「はーい!入っても大丈夫ですよー!」


 ローナの声を聞くとゆっくりとドアは開いた。

 ドアの先に見えた来客、その姿にワタシは目を疑った。


「……フィンくん?」


「やあ、イルギエナさん」


 あの日となにも変わってない彼の姿が立っていた。


「すごいなあ!有名人だらけだ。王様に、五聖(グローリー)に……うわあ、こりゃ都合がいいや」


暗殺者の位(アサシン)、彼は?」


「以前の魔族の襲撃で行方不明になった生徒です」


 ローナは厳戒態勢へと移りながら呟いた。

 ミヅキも身構え始めている。

 五聖(グローリー)の2人は完全にフィンを敵視している様だ。


「フィンくん……どうして?」


「どうしてここにいるかって?僕、宣戦布告に来たんだよね」


「宣戦布告?」


「そうさ。新魔王軍から、人間へ」


 フィンは嘲笑うかのようにゆっくり、ゆっくりと部屋の中へ踏み出した。

 姿は変わらずとも、そこにいるのはもうフィン・ランネルではないようだった。


「僕は新魔王軍、ってとこに所属してるんだ。つい最近入ったんだよ」


「人間の君が魔族と……どういうことなんだい?」


「王様、新魔王軍はそういう所なんですよ。魔族も人間も関係なく受け入れる。いずれ貴方も分かります」


「_______________っ!!」


「やめろ!ミヅキ!」


 フィンに目掛けてミヅキの白刃が走る。

 不可視の刃渡りは容易に腕を捉え、鮮血を飛び散らせた。


「……すいません王、部屋は後で掃除するんで許してください」


「いいよ戦士の位(ウォーリア)、許そう」


「いったた。いきなり酷いですね」


 切られたはずのフィンの片腕は肉を蠢かせながら再生した。

 それはまるで魔族の魔力による再生。

 およそ普通の人間が出来る芸当ではない。


「なっ、んだと!」


「驚きました?へはは、魔力の操作さえうまくいけばこれくらいできるみたいですよ」


「魔王!……やっぱコイツはあの時に殺すべきだったろ!」


 狼狽えこそしたがミヅキはなおもその殺気を弱らせない。

 彼は強く、強く柄を握った。


「魔族の側にいる人間?正気の沙汰じゃねぇ!やっぱりこいつは異常だったんだ!なるべくしてこうなったんだ!」


「ちょっと、待ってくださいよ。僕は宣戦布告に来ただけって言ったじゃないですか」


「なら、ここで死ね!」


 雑言と共に飛ぶ素早い剣刃がフィンを襲う。

 だが、その刃はたった一言で止められた。


「今、学校に複数のポータルを仕込んでいます」


「「……!!」」


 そこにいた一同が口を(つぐ)み、息を飲んだ。


「ポータルって覚えてます?まあ、とにかく数分後に僕の合図で大量の魔族が校内に押し寄せるってことが伝わればいいかな?」


 フィンはにこやかな笑顔で、まるで当たり前かのように喋った。

 時刻は最初の授業が始まる時間帯。

 校舎にはほとんどの生徒が来ている時間だ。


「これが僕ら新魔王軍の宣戦布告です。この1件を機に、僕らの存在は広く認知されるといいんですけどね」


「フィン君……何で、そんなこと」


 ワタシの頭を巡ったのは平和な剣魔祭の光景。

 あそこに居た人々の全てが、魔族に蹂躙される。

 およそ人間のする所業ではない。それも当然、相手は魔族なのだから。


「何で?僕らが新魔王軍で、貴方達が王都の人間だからだよ。イルギエナさん」


「フィン……ランネルゥ!!」


「ミヅキ先輩も、僕なんかに構ってていいんですか?」


 フィンが窓に見える校舎に手をかざすと、校舎上空に巨大な魔法陣が現れた。

 いつか見た光景と同じだった。


「早く学校に行かないと、とんでもないことに_______________」


「っ!ふざけるな!」


 ミヅキの勢いに任せた斬撃がフィンを切り刻む。

 腕や足を斬られた痛みの中でフィンはそれでも笑った。


「はっ、ははは!ははははぁ!」


「落ち着けミヅキ。とりあえず、今すぐ学校に戻るぞ」


「……分かってる!ローナ、ここと王のことは任せたぞ」


「あっ、アイアイサー!」


 フィンに構っている暇は無い。

 ワタシは急いで医務室から飛び出した。

 頭にあるのは学校にいるはずの、見知った生徒の顔。


「またね、イルギエナさん」


 部屋から出る瞬間、そう言ったフィンの声が聞こえた気がした。


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