その五十六 面会
「私が話せるのはこれだけだ。もういいな?」
情報の共有も終わったということで、帰ろうとワタシは席から立った。
マインのことは心配だが学校もあるからだ。
「あ、ちょいちょい待ってよマリちゃん。まだちょっと用があるんだけど」
「何だ。そこの固まってるミヅキの処理はしないぞ。お前が何とかしろ」
ワタシは未だ動かないでいる男を指さした。
コイツ、本当は死んでるのではないか。
「いやヅキくんは放っておいていいんだけどさ」
「それはいいのか……なら何だというのだ」
「今のマリちゃんに会いたいって人がいるんだよね。もうすぐでここに来ると思うから、待っててくれる?」
「む……登校時間に間に合うなら、待ってやらんでもない」
「いや遅刻を気にする魔王とか斬新すぎでしょ」
吹き出すローナを後目に、ワタシは椅子に戻ってマインを見た。
目を閉じ、寝息をたてているその姿は人間の子そのもの。
未だに形白だとは信じられていない。
「ん?……なんだこれ」
ふと、ベッドの横の台に乗っている物に気づく。
皿の上に大量の……玉子焼きが置いてあった。
「いや。ん?本当になんなのだこれは」
「それ?私のお見舞いー」
「?見舞いに玉子焼きを寄越すのは人間の常識なのか?」
「んーん、多分普通の人はやらないと思われーる」
「尚更、意味がわからないんだが」
「いやマインちゃん起きたらお腹空くかなーって。作ったの」
ローナは真顔で口角を上げ、マインを見つめ続ける。
漂う謎の狂気。意味不明である。
まだワタシは人間を理解できないでいる……。
コン コン コン
無言の空気に耐えていると、ノック音が静寂を破った。
ローナの言うワタシに会いたがっている者だろう。
「はーい、いいですよー」
「失礼します」
澄んだ声で挨拶をすると、ソイツは入ってきた。
長身、メイド服、黒髪の女だ。
「コイツか?私に会いたいというのは」
「え……いーや、ぜんっぜん知らない人なんだけど」
「こんな朝方から申し訳ありません。セイヴハートの者です」
深く会釈をする女。
見た目はごく普通の人間、だがワタシはこの女にある種の違和感を感じていた。
「マイン様を引き取りに来ました。彼女の容態はどうでしょうか?」
「あっ、はーい。マインちゅわーん、使用人の方に元気なお姿見せて上げてくだちゃーい」
「おい貴様……マインを連れ帰ってどうするつもりだ?」
「ちょ、マリちゃん。その人多分あんまり関係ない人っ。ただの使用人の人だっつーの!」
「どの道セイヴハートには戻されるんなら色々と聞く必要がある。まず貴様、形白だろ?」
え、とローナは驚いた顔で女を見た。
対する女は動揺もせず、表情に変化も無い。
この女の正体は魔力から分かった。
マインやオージと似た感じなのだ。
「……その通りです。が、何か問題が?」
「マインが今こうなっているのは、お前らセイヴハートのせいだ。そんな奴らにマインを帰す気はない」
「それは困ります。連れ帰ってくる命令なので」
「貴様らの主の無能な命令で2人死んでるんだろう。少しは命令に逆らってみたらどうだ?」
「形白はそういうことが出来るようには造られてませんので」
抑揚のない声で女は言った。
形白の名の通り人間味がない。
「今のマインを見て、何も感じないのか?」
「そういうのは、感じないように出来ているので……すいません。無理だと言うのなら、また後で出直します」
女は何の感情も見せずに帰っていった。
これでとりあえずマインは守れた、というわけだ。
「ふん。今のはおそらく……生き残りの03だろうな」
「もー、ちょっと可哀想だったよ。どの道いつかセイヴハートには帰さなきゃいけないんだから、帰しても良かったんじゃないのさー?」
「今のマインが心配になる。帰すとしても目覚めてからだ」
「むー、あの子も逆らえないようにされてるんだからもっと優しくさー」
ローナは不機嫌そうにぶうたれた。
何も意思に関係なく逆らえないワケではないはずだ。
現にアイツはマインを連れ帰らずに帰ったし、ある時のオージはワタシにセイヴハートの秘密をベラベラと喋っていた。
まあ、アイツはそのせいで殺されたんだろうけど。
どちらにせよ逆らえるくらいの意思はある。
きっとレイミもマインのように脅されているだけだろう。
コン コン コン
そうこう思考を巡らせている内に、再びノックが鳴った。
「はい、どうぞー」
「うむ、失礼する」
数秒後、入ってきたのは背の低い影。
人間の男だ。だがまだ幼い。年で言えば12くらいだろう。
こんな奴がワタシに会う理由が思いつかない
「おい、また違うやつが入ってきたぞ。それもガキだ。ここの警備はどうなってるんだ」
呆れた調子で振り返ると、いつの間にか目覚めていたミヅキとローナがその場に跪いていた。
「ん?……どうした、貴様ら」
「あのね、マリちゃん。貴女に会いたいって人、その人なの」
「む。そうか、君が例のやつか」
ワタシを見て、子供はそう言った。
そして、ドアが閉まるのを確認してからワタシに近づいてきた。
偉そうな態度だがどこか気品を感じさせる。
育ちの良いやつなんだな、とだけ思った。
「ほう……で、誰なんだこの生意気な小僧は」
「その人は……俺たち五聖の、上司みたいなもんだ」
「は、上司?このちんちくりんが?」
「バッカ!察せよ!そして口を慎んでくれ頼む!」
珍しく……いや、いつも通り慌てた様子のミヅキ。
そんなミヅキにローナは苦笑いした。
「あのね、マリちゃん。その人このお城の城主様なの」
「城の主……ああそうか。つまりは」
その者の立場に気づいたワタシは、子供目掛けて得意げに指を指した。
「ふん。貴様がこの王都を統治しているというわけか?」
「その通り。余がこの王都を治めている王、ミゼンガ・キンケーブルだ」
小さな王はその名を誇るわけでも、恥じるわけでもなく、当たり前のように言った。
「お初お目にかかるよ、魔王」
「貴様が今目にかかっているのはマリの姿だがな」
押し黙る五聖の面子。
2人の王の視線が交差した瞬間であった。




