その五十三 思慕
「くっ、……!!」
「あれ、なんか急に元気なくなっちゃったな」
タリムは後悔していた。
目の前の男、リンク・セイヴハートと対峙したことに。
五聖レベルの討魔師なら苦戦はしても負けることはないと思っていた。
再生の力があれば、最悪でも死ぬことはないと思っていた。
だが、まさか相手がセイヴハートだとは思ってもみなかった。
しかも前に会った人形ではない、本物のセイヴハートである。
「手がやられただけだよね。さっきは腕を丸ごと再生してたのにさあ。何かな、その弱り様は」
「ふぅっ、ふぅっ!くそ、!」
「はは、そっか再生出来ないんだ」
リンクは煽るように笑った。
金色の剣によって貫かれた手は未だ再生しない。
魔族一と謳われたタリムの再生力ですらその内包式には抗えないことが証明された瞬間だった。
「この聖別便利なんだよね。君ら魔族に都合の悪い物だとは知ってたけど、どういう仕組みなんだか」
タリムは黙って逃走する機を伺ったが、つけ入るような隙は一切生まれない。
一挙一動を観察されているような感覚だった。
「抵抗する感じもないし、終わりみたいだね。じゃ、もう死んでもらおうかな!」
「くっ、誰が_______________!!」
一か八かタリムは後ろへ飛んだ。
が、無駄だった。
放たれ舞い飛ぶ金の短剣。
飛ぼうとした時には既に、翼は切断されていた。
「ね、言ったじゃん。終わりだって」
揺らぐ視界、目の前には満面の笑みのリンク。
こんな所で死ねない。
私は、人間を滅ぼすために生きて、ここに。
近づく金色の刃。視界が光で満たされ_______________
「ダメ!やめてください!!」
今際の時かと思えたその瞬間は、甲高い声と共に断ち切られた。
小さな影に遮られる刃。目の前に現れたのは。
「リ、リナ……?」
金の剣は彼女を裂く一寸前で止まった。
「やめてください!なんでこんなことするんです!」
「は?誰だよ君。そこの後ろなやつ、何なのか見れば分かるだろ?ね、分かるよなぁ!」
「この人は私の友達です!私の友達がなんで貴方に殺されなくちゃいけないんです!」
精一杯声を張るリリナ。
その物言いにリンクは顔を不機嫌そうに歪ませた。
「君はバカなのか?そいつは魔族だ!人間の敵だろうが!それを今君は守ってるんだぞ!」
「魔族でも、人間でも関係ありません!タリムさんは私の大切な人です!」
「はぁ?は、はは意味わかんないなあ……いいから、退けよ」
「嫌です」
キッパリと言うリリナに、リンクは青筋を立てた。
「僕はッ!勇者なんだぞ!お前ら庶民を守ってやってるんだ!知らないわけでもないだろ!」
「偉いからって何でもしていい訳じゃありません!」
「何でもしていいんだよ!庶民が意見してるんじゃない!僕に逆らうなら、人間だろうとなあ!」
リンクは長剣を一層強く握り、大きく振りかぶった。
掲げられる金の剣。それを見てもなお、リリナは動かない。
「っ!もういい!逃げろ、リリナ!」
迫る剣。
次には切り裂かれるリリナが想像できた。
それでも恐れない、逃げないリリナ。
剣がリリナへと達しようとした。
その瞬間。
「マリちゃん!タリムさん見つけましたっ!!」
その叫びが響くとき、鈍重なる魔力がここに現れた。
「_______________見つけた」
超速的な一線の拳がリンクの顔面を貫く。
「がっ、ぶおっ!!」
呻きと共に吹き飛び、地面を転がり回るリンク。
それを一瞥し、現れた主は言った。
「お、タリムさん。どこ行ってたの?」
「あ_______________マ、リ様」
「どうしたの。そんな呆けた顔して」
「申し訳、ありません。私は……」
「ま、いっか。まずはそこの人追っ払おうか」
マリはまるで散歩でもするみたいに、飛ばされたリンクへと歩み寄る。
そんな彼女をタリムとリリナはただ見守った。
「初めまして不審者さん。あ、初めましてじゃないですかね」
「っ、く、はは!そうだ、初めてじゃない」
「ですよね。あの夜に会ったローブの人と同じのしてますもんね」
「猫かぶりやがって。は、はは!でも、僕はついてる!ここで_______________」
光を纏う長剣。
よろけながら立ち、リンクは血塗れの顔で笑った。
「ここで魔王と対峙できるなんてな!君を倒せば、僕も伝説に」
笑い声と共に剣を構える。
「僕も伝説になれボギャラァ!!」
足がよろめくリンクに容赦なく叩き込まれる蹴り。
痛みに悶えるリンクに、マリは無表情で話した。
「何言ってるか分からないですー。なんですか魔王ってー」
「あっ、な、なんで、僕は、勇者なのに!」
「肩書きにこだわる人なんて、人間風に言うと、ダサいですよ」
「ぐ……ちぃっ!うるさい!覚えて、ろ!今に地獄を!」
「あ、ちょっと貴方には聞きたいことが……って、行っちゃった」
無様に走り去るリンクにマリは嘆息した。
リンクが見えなくなる頃、タリムとリリナはマリへと駆け寄った。
「マリちゃん、大丈夫です?」
「大丈夫だよ。あの人追いかけるからタリムさん見ててくれる?」
「あっ、了解です!」
ビシッと敬礼を決めるリリナを確認した後、マリは走り去ろうとした。
「マリ様、待ってください」
「なに?お礼とか言うならリリナに言ってね」
「いえ、その、下らないことなんですが……」
タリムは再び己に擬態をかけながら聞いた。
「マリ様は何のため、何を目的にこの学校にいるのですか?」
「え_______________ああ、そんなこと」
薄く微笑みながらマリは答える。
「とりあえずは……私がここにいたいから。そうしたいからかな」
誰かのためではある。
だが、その行動はやはり自分の覚悟や信念から来ているもの。
魔王様、貴方はやはり……。
「聞くまでもありませんでした。すいません」
望んだ答えではなかった。
だが、そんな主にタリムは困ったように笑い返した。




