その五十二 金の星
『次の種目で最後になります。生徒の方は閉会式の準備をしてください』
遠いどこかで最後のアナウンスが鳴る。
空も暮れ始め、剣魔祭は終わりを迎えようとしている。
錬武舘裏、人気の少ない場所にてタリム・レッドゲイルは嘆息していた。
剣魔祭の第3種目辺りから彼女はそこにいた。
理由としては人混みを避けるため、憎き人間共の顔を見ないためだ。
タリムは人間共が幸福そうな顔をするこのイベントが心底嫌いになっていた。
『あのマイン・セイヴハート様も参加します!最終演目「空奏演舞」をお楽しみください!』
セイヴハート
その名が出た途端、遠くから一層大きな歓声が聞こえてくる。
本当に、忌々しい。
「……?」
不機嫌になって遠くを眺めていると、錬武舘の影から人影が現れた。
全身をローブに包んでいる。
催し物を見に来たにしては、随分と陰気な格好である。
1人になりたかったタリムはその人影を一睨み。
それに怖気付いたのか、人影はそこから走り去って行ってしまった。
「……はぁ」
ココ最近気に入らないことばかりである。
魔王であり主でもあるマリは人間を滅ぼさず、友人であるウェルスはすっかり学校に溶け込んでいる。
私達魔族は何のためにこんな所に居るのか。
人間を滅ぼすため、魔族の繁栄のためではないのか。
何より気に入らないのは協力者(?)であるリリナだ。
私よりマリ様と親しげにし、私よりマリ様を理解している風を装っている生意気な人間。
普段は人畜無害なフリをして、私を脅し強請る腹黒女である。
あんな奴のどこが良いのか。
きっとマリ様もアイツの本性を知れば失望……いや、しないか。
どうしたら、マリ様は魔王として人間を滅ぼしてくれるだろうか。
どうしたら魔族に協力してくれるだろうか。
頭をフル回転させて思考した。
魔王たる貴方は何のために復活したのか_______________
頭上から殺気。
「っ!!」
タリムは咄嗟にその場から転げながら退いた。
ガ キ ン !
甲高い金属音。
見ると、さっきまでいた場所には長剣が刺さっていた。
「ははっ!凄い凄い、虫みたいにすばしっこいね、君」
若い男の声。
地に刺さった剣の上、剣の尻に乗っていたのは先程見たローブの人間だった。
「っ_______________」
タリムは思わず息を呑んだ。
この人間は只者ではない、と魔族としての感知能力が言っている。
少なくとも五聖並の力を目の前の人間は持っている、と。
「そんなビビるなよ。ちょっと攻撃しただけだろ?」
ローブの男は半笑いに喋りながら剣から降りた。
ただの体重移動にも熟練の討魔師の動きが見える。
タリムはますます警戒した。
「なんですか、貴方は」
「匿名希望」
ローブの奥、白い歯が笑っているのが分かる。
「人、呼びますよ」
「人呼んだら困るの、不純物の君じゃないの?」
「……!」
その一言でタリムは全てを察した。
ローブの者はタリムが魔族だと気づいている。
あの不死身の男と同じだ。
何故。どうやって。どこから知れた。
「何?まだ君が何者か、なんて言った覚え無いけど」
「白々しい。分かっていて言っているのだろう」
「バレた?まぁ、君は上手く擬態してるつもりなんだろうけど、僕には分かるんだよなぁ……君の正体」
男は地面に刺さった剣を抜き、肩に担いだ。
「でも僕にしか分からない。嗚呼、もどかしいなぁ、皆に知って欲しいのになぁ……」
グルグル辺りを歩いた後、剣をタリムに向けた。
「ってことで、まずは君の化けの皮を剥がそうと思う」
「やってみ_______________」
瞬く間に、銀の斬撃がタリムの腕をはねた。
「っ!な、に」
「はい、もらい」
弧を描く鮮血と左腕。
ベチャッと地面に叩きつけられる。
「くっ、貴様ぁっ!」
「うおっ!はは、凄い!擬態したままでその再生力なの?」
切られた腕をいとも容易く再生させたタリムに男は手を叩いて喜んだ。
魔族の擬態には大きな魔力と集中力が必要である。
擬態が完璧であればあるほど、その魔族は全力を出せなくなる。
それ故に男は驚き、感心した。
「さ、どうする?擬態解いて戦った方が良いんじゃないかな」
「はっ、貴様なんぞこのままでっ!!」
タリムの背から無数の炎の羽根が現れ、男へと向いた。
「十分だと言うのだっ!!」
タリムが叫ぶのを号令に、羽根は男に目掛けて飛んでいった。
全方位からの集中攻撃、逃げる隙などない。
「お手本みたいに綺麗な魔術。そうだ、ちょうど剣魔祭だし_______________」
まるで埃でも払うかのように剣を薙いだ。
ビ ュ ン
同時に一陣の強風が発生。
あっという間に羽根を塵へと消した。
「みんなに見せたら?君の嫌いな人間のみんなにさ」
「!……ふ、なるほど口だけではないということか」
「って、あれ?全然全力出してくれないね。おっかしいな。もっと怒りやすい性格って聞いたんだけど」
「誰が貴様の口車なんぞに乗るか」
男はしばらく困った顔をした後、何か思いついように手を叩いた。
「リーロ・イエロークロー」
タリムはその言葉にピクリと反応した。
「覚えてるかな?可哀想だよねえ。まだ若かったのに死んじゃって。あんなにされちゃってさ」
「……だ……まれ」
「潰れた顔。切り刻まれた体。饐えた精液の臭い。人間からしても可愛かったもんねぇ。可哀想になあ。余程いたぶられたんだろうなあ」
「……だま、れ!」
タリムは分かっていた。
こいつがリーロのことを知るはずがない。
あの事件は何年も前の出来事だ。
間違いなくこの人間が生まれる前の出来事なのだ。
どこから仕入れた情報かは知らないが、こいつが知るはずがない。
私を怒らせるため、私に擬態を解かせるためなのだ、と。
分かっていたのに。
「でも、リボンのおかげで誰かは分かったんじゃない?よかったね」
「貴様が、貴様がリーロの名を口にするなぁぁ!!」
怒りが溢れた。
「ははっ!凄い!その調子その調子!」
一瞬だ。
一瞬だけ擬態を解いてコイツを殺す。
全力ならばいける。後悔の時間すら与えない。
「っ!消え失せろぉ!人間!」
炎の衣を脱ぎ顕現した、禍々しくも美しい灼炎の魔族。
その手より具現化しようとする巨大な炎の牙が男を飲み込む……!
「魔族の姿……!!待ってましたァっ!」
飲み込む前。
否、その魔術が発現するより早く、金の流星は走った。
一筋の剣閃は炎を塞ぐようにタリムの手のひらを貫いた。
金色の剣が貫いた手は、そこから徐々に塵と化していく。
「な、これは……「聖別」、!!」
「今更気づいた?そう、僕はセイヴハート」
熱波がフードを後ろへと飛ばし、その顔を露わにした。
「勇者、リンク・セイヴハートだよぉ!!」
勇者は不気味に微笑む。




