その五十 術式
『以上で剣術科1、2年による剣舞を終わります。次の演目は_______________』
アナウンスが響く中、剣舞を終えた女生徒達はグラウンドから退場していく。
その光景を見ながらワタシとリリナは拍手していた。
「終わっちゃいましたね」
「……来年は私たちも出れると良いね」
はい、とリリナはしみじみ言った。
魔族の襲撃さえなければあの場にはワタシもいたのだ、と思うと何だか切ない。
できればあの衣装を着るマリの姿だけでも見たかったが。
来年までの辛抱だ。
「来年……マリちゃんは来年もここにいるんですか?」
「え、来年?」
「はい。マリちゃんは急にいなくなったりしませんか?」
「いなくなるって……そんな」
リリナはじっとワタシを見つめる。
質問の意図は分からない。だが、たまにリリナは真意を突くような質問をする。
ワタシから何か感じ取ったのだろうか。
突然いなくなった大量のクラスメイト達から、何かを予感したのだろうか。
「何言ってるの。来年に卒業とか、飛び級するほど私天才じゃないって」
「あ……そう、ですね。すいません変なこと言って」
ワタシは誤魔化すように笑った。
来年もいるかどうか、ワタシは答えない。確証のある答えは出せないからだ。
対するリリナも困ったように笑った。
彼女とはこの関係でいい。
ワタシの正体など、知る必要はないのだ。
「……あれ?タリムさんがいませんね」
「ほんとだ。気づかなかった」
「あぁ、タリムさんなら知り合いのとこに行くと言って出ていきました」
振り返るワタシ達に無精髭の担任は顎をさすりながら言った。
「あ、はい。タリムさん何か言ってませんでした?」
「いいえ。特に何も」
「タリムさんの知り合いって……あっ!まさかあのイケメンさんじゃないです?!」
「多分、そうだよ」
「〜〜〜っ!だからあんなに余裕だったんですね!」
「どういうこと?」
「気づかないんですか?先を越されてるんですよ私たち!来年こそは私もぉ……」
リリナは瞳に炎を宿らせながら力強く立ち上がった。
他人より少し恋愛に興味のある、普通の女生徒。
これでこそいつものリリナである。
「あっ!いたいた、こんなとこに居やがったか」
燃えるリリナをなだめていると、テントの外から声がかかった。
「ミヅキくんじゃないですか。どうしたんですか?運営で忙しいだろうに」
「すいません先生。そこのやつに用があって」
ミヅキはワタシを指さして言った。
「……マリちゃん、貴女もですか?」
「い、いいや違うから!多分ちょっとした頼み事だから!誤解しないで」
リリナのジトリとした視線から逃げるようにテントを出る。
テントの外には変わらず制服姿のミヅキがいた。
周りに聞かれてはダメな話なのか、ワタシを確認するとついてくるように顎で示した。
〜〜〜〜〜〜
場所は変わって校舎内。
剣魔祭でほとんどの生徒は出払っているので、辺りは静まりかえっていた。
「なんだ、わざわざ呼び出して」
「お前にしか出来ない頼みだ。すぐに終わるから協力して欲しい」
「ふっ……私に頼み?貸しを作ることになるぞ」
「毎回貸し作ってんのは俺の方だと思うんだが。まあいい。とりあえず聞いてくれ」
そう言うとミヅキは紋様の描かれた紙を取り出した。
「これ、何か分かるか?」
「見たところ身体強化の術式のようだな。それがどうした」
「見ただけで分かるんだな……実はこれを付けてる生徒を見つけて欲しいんだ」
「相変わらず面倒なことをしてるな」
「ほっとけ……もうすぐ行われる剣術科同士の試合で不正者がこれを付けてる。試合が始まる前にこれを見つけ出して欲しい」
「そんなもの、参加者の身体をチェックしていけばすぐだろう。私がする必要は無い」
「見えないよう魔術で施してある……一人一人チェックするには時間がかかりすぎるんだ」
そう言いながらもミヅキは紙の術式を魔術で消して見せた。
魔術というのはかけるのは簡単だがその仕組みを見破るのは面倒なのだ。
「剣魔祭の運営の話だろ。何故貴様がそこまで頑張る?」
「これが原因で三国の関係が悪くなる、かもしれない。つまりこれは五聖の仕事ってことだ」
「相変わらずだな。気にしすぎではないか?」
「気にしすぎるくらいじゃねぇとダメなんだ。五聖の御役目ってのはよ」
ミヅキはウンザリした顔で手をブラつかせた。
魔術を見破るにはその術式の全てを把握する必要がある。
術式が複雑であればあるほど、それは困難となる。
「ふむ……ミヅキ、その術式使ってみろ」
「あ?いいけど」
言われるがまま身体に術式を描くミヅキ。
完成するとその術式は淡く光った。
「こんな風に光ってりゃすぐ見つかるんだが_______________!」
無言で軽めの魔術を放った。
ボン
小さな爆発がミヅキを襲う。
「っ、ガハッ!ガホッ!何すんだいきなり!」
「やはりな……その術式、微かだが魔術に対する防御力も強化している」
「あ……いや俺にはそこまでわかんねぇけどよ」
身体強化だけではない、防御の強化も兼ねている魔術なのだ。
一見しただけでは見抜けない二重の性質。
ワタシはこの術式を知っている。
「確か……オージ、だったか?」
「誰だそれ」
「いやこの前の……」
「魔王の遺体」の一件を話そうとするが口を噤む。
多忙なミヅキにこの情報を与えるのは色々と危険な気がした。
それより、あのオージとやらに施されていたものと同じ術式が出回っているということは……。
「この一件、セイヴハートが関わっているかもしれん」
「嘘だろ……またかよ」
校舎内で2人、頭を抱えた。




