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その四十九 開催

 

 それから3日後の朝の九時。

 王都立対魔族学校の上空に盛大な花火が上がった。

 校内のグラウンドには全校生徒が規律正しく並んでいた。


「これより第26回王都立対魔族学校剣魔祭を始める!」


 先頭、生徒たちの注目が集まる演台の男が暑苦しい号令と共に手を掲げた。

 それに続いて、集まっていた生徒たちも叫びを上げた。


「「おおおおおおお!!」」


 大地を揺らすほどの歓声。

 盛り上がりで言えばまさに絶頂。


「おおー、凄い盛り上がりですね!」


「うるさいだけですよ。下らない」


「はぁ……」


 ワタシはそんな暑苦しくも輝かしい舞台を、端にあるテントの中から見ていた。


「いやー、すまんね。僕としてもクラスの生徒には参加して欲しかったんだが……」


 無精髭の教師が申し訳なさそうに頭を掻いた。

 この状況はこの場にいる誰のせいでもない。

 強いて言うなら、あの魔族共のせいだろう。

 許すまじ、魔族。


 〜〜〜〜〜〜


『30分後に最初の種目を行います。参加者は準備してください』


 わずか数分に渡る開会の宣言を終えると、宙に吊るされた魔導器からアナウンスがなった。

 集まっていた生徒はそれぞれのペースで自分達のテントへと戻っている。

 リリナはそんな生徒たちを羨ましそうに眺めていた。


「はぁー、いいなぁ……私も出たいですー」


「タリムさん、最初の種目っていうのは?」


「剣術科1、2年女子による剣舞ですね」


「私たちが参加するはずだったやつか」


「そうですね」


「2人共なんでそんなに平然としていられるんです!?」


 リリナは立ち上がり声を荒らげた。

 剣魔祭の熱に当てられたのか、今日のリリナはテンションが高い。

 剣術科1年、レガートのクラスであるワタシ達は予定通り剣魔祭には参加しない。

 行われていく演目をクラスのテント内で見学するだけである。

 参加していない以上盛り上がりに欠けるこのテントは、どこかしんとしていた、


「だって、羨ましがってもどうしようもないし」


「そうですよ。いいから座って下さい。マリ様が見えないでしょう」


「いやいや共感しましょうよ!この悔しさ、この悲しさを!」


「悔しくもなければ、悲しくもない。それと、座って下さい」


「……そうだよ。剣舞なんて疲れるだけだし。テントの影で見れるんだから、むしろ得じゃない?」


「2人共冷めすぎです……でも、私知ってますからね」


「……?」


「リリナさん、座って下さい」


 タリムの言葉を無視して、リリナはビシッと指を指した。

 向ける先はワタシ。


「マリちゃんこの前、剣舞の練習風景を羨ましそうに見ていたでしょう!」


「なっ……べ、別に、通りすがりでちょっと見ただけだし……」


「嘘つきです!放課後に小一時間眺めていたのを、私は見てました!」


「な、なんでそんな所見てるの?!」


 赤らんだ顔を思わず手で隠す。

 リリナの言う通り、正直言って羨ましかった。

 いわゆる「青春」というワードをワタシは本の中でしか見たことが無い、空想的なイメージであった。

 その「青春」を謳歌している生徒が羨ましかった。

 ワタシも「青春」したかった。

 小一時間と言わず、ここ毎日昼休みすら使って眺めるほどに羨ましかったのだった。


「私もそんなマリ様を見ていましたよ」


「タリムさんまで?!」


「言い逃れできませんね!どうなんです?羨ましいんですか、羨ましくないんですか?」


「う、いや私はそんなこと……」


「さあ、もう剣舞が始まりますよ!この悔しさと悲しみを私と共有しながら、見るのです!」


 リリナは自信ありげに言うと、とうとう座った。

 開いた視界からグラウンドを見ると、煌びやかな衣装を纏った女生徒達が既に並んでいた。

 練習風景では見られなかった衣装は実に綺麗であった。


「あぁ、私も……見ます」


 バレているのなら仕方ない、と自分に言い聞かせながらリリナの横に正座した。


 〜〜〜〜〜〜


 校庭の上。

 剣を持った女生徒達が衣服のスカーフを揺らしながら舞っていた。


「綺麗だなぁー、みんなたくさん練習じだんだよなあ゛あ゛」


「う゛う゛う゛わだじもあぞごに立ちたかったでずぅぅぅぅ」


 主であるマリと友人(仮)であるリリナが涙ながらに見ているのを、タリムは眺めていた。

 マリの孫の奮闘を眺める老年のような反応に、思わず苦笑していた。

 魔族としては、この催し物にはなんの感慨も湧いてこない。

 むしろ人間が幸せそうにしている分、煩わしく見える。


「タリムさん、貴女は見ないんですか?」


 後ろに立っていた担任が声をかけてきた。

 これも、煩わしい。


「興味無いので」


「そうか、参加出来ないからね。仕方ない」


「そうですね」


「でも見ているだけってのも楽しいもんです。お友達も食い入るように見てますし、一緒に見たらどうですかぁ?」


「遠慮します」


 タリムはため息混じりに言い、担任を押し退けながらテントを出る。


「おっと、どこへ行くんですか?」


「知り合いの所です。お気になさらず」


 足早にテントから離れていった。


 タリムの視界には剣魔祭に心を躍らせる生徒、生徒、つまり人間、人間、人間、大量の人間……。

 心の中は不快感で満たされていた。


「全く、マリ様もマリ様だ……」


 テントでのマリを思い浮かべ、思わず歯噛みする。

 魔族の王たる主があんな様子なのは、如何なものか。

 多少の戯れは余裕の表れなのだと分かってはいるが、それにしても気に食わない。

 特に横にいるリリナ・テガローナとかいう人間。

 あんな奴マリ様が魔王だと知れば、恐れて逃げ出すに違いないのに……。


「おいおい!剣舞終わったら次俺らだぞ!」

「急げ急げ」

「これじゃ準備間に合わないぞ!」


 忙しなく過ぎていく人間共を侮蔑の眼差しで見送っていると目的についた。

 そこは魔術科1年のテントである。


「……ん?タリム」


 探していた人物はすぐに見つかった。

 ただし、女生徒に囲まれている最中を。


「ウェルス……お前」


「ねぇ、ウェルス君。誰なの、この女ぁ」


「ほらぁハチマキ結んであげるからじっとしててぇ」


「あ、ごめん。ハチマキは後でいいから」


 ウェルスは大勢の女生徒を押し分けてから出てきた。


「何、どうした?」


「お前……女侍らせて随分と楽しそうだな」


「侍らせてない。あっちが勝手に集まってくるんだ」


「どうだかな。あんまりアッチと関わりすぎると、色々と支障が出るんじゃないか?」


「孤立しすぎる方が目立つ。協力者のいない僕の場合は群衆にいた方が逆に怪しまれないんだ」


「ふん……まあいい。ちょっと情報共有に来たから、聞け」


 タリムはあからさまに機嫌悪く足踏みをした。


「つい最近、魔王様の遺体を破壊しに行った」


「ああ。マリ様がエージェントになった件についてだな。マリ様から聞いているよ」


「相変わらず、いつの間にかやり取りだけはしているな」


「マリ様とは図書館でたまに会う」


「そうか。まあ、なら特に話すことは……ん?待て、お前もしかして何かの演目に参加するのか?」


「ああ。氷魔術を使った彫刻精製だ。この演目の次の、そのまた次だな」


 装束姿のウェルスは誇らしげに言う。

 そんなウェルスにタリムは苛立っていた。


「ウェルス、お前楽しんでないか?」


「そう見えるように振舞っている。潜入のためには必要な技術だ」


「っ、お前、どういう思いで臨んでるんだ」


「少しも楽しくない、と言えば嘘になる。だが、自分の役割は忘れてない。いつでも時が来れば行動に移せるつもりだ」


「少しは楽しい、と?ここにいるのは全員人間だぞ」


「でも恨みは消えていない……それに、リーロを殺したのはこいつらじゃないだろ?」


 コイツは憐れむような目で見ている、タリムはそう感じた。


「っ!バカ!もういい!お前なんか、失敗してしまえ!」


 タリムは吐き捨てるように言うと、勢いよく踵を返した。


「何よアイツー」


「ちょっと顔が良いからって、剣術科でしょ?生意気よね」


「ねぇウェルスくーん。一緒に準備しよ♡」


「タリム……」


 ウェルスは同じ目をしたまま、離れていくタリムの背中を見続けた。

 その心の内には、タリムへの心配しか無かった。


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