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その四十八 魔術士の位

 

 学校を出て数分。

 ワタシは昼の休み時間を利用して図書館に向かっていた。

 初めて訪れて以来、ワタシは空いた時間があればここに足繁く通っているのであった。


 到着と同時にドアをくぐると、嗅ぎなれた独特の匂いが鼻腔を撫でる。

 忙しくも輝かしい生徒たちがいないこの空間は、ワタシにとってはまさに安息の地である。

 慣れた足取りで図書館の奥へと歩いた。


「……待って」


 いつもの本棚に行こうとした時だった。

 か細い声がワタシを引き止めた。


「はい?なんでしょう」


 呼び止めたのは図書館のカウンターにいる生徒だった。

 水色の頭髪は男にしては長く、女にしては短い。

 大きな瞳が特徴的の生徒。

 初めて訪れたときと同じ受付……というより、いつ来てもこの生徒が受付をやっている。

 無口で、無愛想で、男か女か分からない生徒。

 訪れる度目にはしているが、ワタシとの接点なぞ無いに等しい。


「貴女……本、好きですか」


「え……本ですか?好き、だと思いますけど」


「好きな本は」


「好きな本……「学校生活のすゝめシリーズ」ですかね」


「そう、そう……それは良い……」


 生徒は吟味するようにワタシを見た。

 普段は事務的な作業しかしない彼(彼女)だが、今日はどうもおしゃべりである。


「良いですね貴女……気に入りました。ボクが友達になってあげます」


「……え?」


「聞こえませんでした?ボクが友達になってあげるって言ってるんですよ」


 生徒どこか得意げであった。

 何やら、ワタシがイメージしていたものとは程遠い性格のようだ。


「貴女はボクの図書館によく来てくれますよね」


「まあ、たまに本を読みに来ますけど……」


「ズバリ、友達がいないんでしょう?一人じゃ教室に居ると周りの目が気になる……だから、図書館に来るのでしょう?」


「え、いいやそんなことは」


「隠さなくても大丈夫です。ボクはそんな1年生の友人になってあげるって言ってるんですよ」


「は、はあ……」


 どうですか、と目を向ける生徒。

 何やら可哀想な人だと思われているらしい。

 勘違いされるのは癪だが、訂正しようとしたところで聞いてくれる気がしない。


「あ、申し遅れましたね。ボク、クル・スォートルと言います」


「マリ・イルギエナです」


「マリ……マリー、なんて呼び方どうです?ちなみに先輩ですが、ボクのことは気軽にクルちゃんと呼んでください」


 クルは水を得た魚のように喋り出す。

 そろそろカウンター近くで立ち続けているのも疲れてきた。

 安息を求めてここに来たのに、どうしてこうなったのか。


「マリー、マリー、ふふ、いい響きです……さ、マリーもボクのことを呼んでください」


「クルちゃん……先輩?」


「お、それいいですね!クルちゃん先輩、それでいきましょう!」


 ナイスアイデア、と元気にサムズアップ。

 何なのだコイツは。ワタシは早く本が読みたいというのに。


「あだ名を呼び合う。ふふふ、これでボクたち立派な友達ですねぇ」


「え?」


「知らないんですか?あだ名を呼び合うのは友人同士のみ許された行為なんですよ。初めて友達を作るマリーには分からないかもですけどっ!」


「クルちゃん先輩は友達がたくさんいるんですか?」


「う……そりゃね。うん……いっぱい。うん。もう、指折りじゃ数え切れないくらい……ひーふー……み」


 俯き、急に言葉の歯切れが悪くなるクル。

 ここまで大口を叩いているのだ、流石に10や20はいて当然か。


「君は幸運です。ボクと友達になれるなんてね……ちょっとコッチ来てくれます?」


 クルが手招きするので、ワタシはカウンターの裏に回って行った。

 裏から見るカウンターには何やら大量の魔術に関する学本や古そうな物語の本など、多種多彩な物が積まれてある。

 ちなみに、カウンターで見えなかったクルの制服下はスラックスであった。

 裏に回って来たワタシの耳にクルは口を近づけて言う。


「実はボク、五聖(グローリー)なんですよ」


「!……本当ですか?」


「へへ、ビックリした?「魔術士の位(マジシャン)」なんですよねーボク」


 クルは鼻息を荒らげながらピースサインを作る。

 確かに他の人間とは違う性質の魔力を感じる。

 五聖(グローリー)というのは間違いないようだ。

 だが何故そんな者が図書館でひっそりとしているのか。


「クラスの地味な生徒が、実はあの五聖(グローリー)と知り合い……これは自慢できますよ。虐められた時はボクの名前出せば切り抜けられますね」


「クルちゃん先輩は何で図書館の受付をしてるんですか?」


「それはボクが天才ゆえですね。貴重な本も収められてるここを守れるのはボクだけ。つまり学校からも頼られてるんですね」


「すごい、なあ」


「へへへへ、もっと褒めても良いですよ。ボク褒められて伸びるタイプですから。これ以上伸びても困りますけどっ!」


 グググ、と座ったまま腰を反らすクル。

 そんなクルの背丈はだいぶ小さい。


 突如カウンターに吹く一陣の風。

 ドアが開き、新たに図書館を訪問する者が現れたのだった。

 訪問者は困ったような顔でカウンターまで歩いて来た。


「すいません。ちょっと良いですか」


「……」


「この本を探しているんですけど」


「……」


 クルは無言で番号を書いたメモを提出。

 ワタシが最初に訪れた時と同じ反応だ。

 訪問者は困惑しながらもメモを受け取り、本棚の奥へと消えていった。


「クルちゃん先輩?」


「……なに」


「受付なのに、何で喋らないんですか」


「……それも、天才ゆえ。ボクの巧みな話術は限られた者にしか伝わらないからです。つまりマリーは優秀ですよボクが保証します」


 そう言ったクルの膝の上には1冊の本が乗っていた。

 ワタシが訪れる度に読んでいた本だ。


 「学校生活のすゝめ〜友達の作り方編〜」

 その表紙のタイトルは見なかったことにした。


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