その四十五 失踪
ピピッ、ガガガ……。
『 魔王様、聞こえますか?』
「……ああ、聞こえている」
『今、ケイナ・ビリッツァの魔導器から通信しています。彼女は無事です。毒か何かで弱っていますが、命に別状は無いようです』
「そう……なら、よかった」
「……魔王様?」
「私のことは気にするな。後のこと、遺体は任せておけ……先輩を頼む」
「……了解しました」
数秒の沈黙の後、通信は切られた。
「……くそっ!!」
そこにあったレンガの壁を殴り、滲むような痛みに眉をひそめた。
『アンタ、まさか復讐を恐れているのか?』
死んだヤツの言葉がずっと記憶に残っている。
モヤモヤとした不快な思いが離れない。
気がついていた。
だが、知らないフリをしていた。
それを何故アイツが、あんなやつが。
「はぁ、はぁ、はぁ……行か、なければ」
そうだ、今はいい、とりあえず目的は達成しなければ。
ワタシは魔力の居所を頼りに足を進めた。
〜〜〜〜〜〜
狭い路地裏のさらに奥。
誰も知らないような、王都の闇に辿り着いた。
魔力の反応は下からしていた。
「……?」
レンガの壁に小さな窪みがあった。
何かはめ込めそうな形だ。
おそらく、許可されている者が持っている何かをはめ込むことで開くのだろう。
だがそんな小細工、魔王の前では無意味である。
指を伸ばし、窪みに触れた。
「案外単純な作りだな」
魔力感知の応用だ。
複雑でない魔導器なら、見ただけで仕組みが分かる。
複雑な魔導器なら、触れただけで作りが分かるのだ。
ピッキングするように少しずつ魔力を流していった。
やがて窪みが青白く光ったと思うと、そこにあったレンガの壁はボロボロと崩れていった。
そして、壁の向こうには階段。
先へと続く道が現れた。
「……おかしいな」
仄暗い階段を眺め、ふと呟いた。
さっきから五聖が1人も現れない。
夜の王都は五聖が日毎に監視しているのだとケイナから聞いているが、一向に現れないのだ。
それに今回は事前にミヅキに報告している。
今日の監視を任されていないにせよ、奴ならすっ飛んで来てもおかしくはない。
「ま、良いか。来ないなら来ないで」
深く考えても無駄か。
周囲に警戒しつつ、階段を降りていった。
階段は無駄に長かった。
道中は魔力の塵のおかげで照明要らずだったが、それにしても階段が長かった。
青白く光る魔力の塵に飽きてきた頃に、階段は終わりを迎えた。
「……!」
降り切った先、目の前に広がったのは膨大な量の魔導器と魔力に満たされた空間。
息を呑むほどに幻想的な光景であった。
そこらにある魔導器はこの魔力に満たされた状態を維持するためのものだろう。
魔力に満ちた空間は時間の流れによる影響を受けにくい。
つまり、遺体を保存するためである。
階段まで続いていた魔力もこれが原因だ。
進んでいくと、奥に一際大きな魔導器が見えた。
きっとそこに「魔王の遺体」があるのだ。
魔導器を掻き分けながら、部屋の先へと進んで行った。
近づく、液体で満たされた巨大な魔導器。
そこに目的のものが_______________
「なん、だと……」
無かった。
「魔王の遺体」はそこに存在していなかった。
『魔王さん。この先には、君の求める物は無いよ』
ローブの者の言った言葉が頭の中を反響した。
〜〜〜〜〜〜
「おい!なんでだ!なんでだよ!」
夜の王都。
住民が全て寝静まっている時間。
その月下で戦っている者がいた。
「やめてくれ!お前とは戦いたくねぇんだ!」
ミヅキ・レックウ
五聖の一員にして「戦士の位」を担っている男。
王都でも五本の指に入るこの男が防戦一方を強いられていた。
必死に対する相手を説得しながら剣を交えていた。
「なんでだ!なんでこんなことを_______________」
キ ン ッ !
ミヅキの剣が、黄金の剣とかち合った。
「マイン!何とか言えよ!」
「ごめんなさい。こうするしか、こうするしかないんです!」
マイン・セイヴハート
ミヅキと同じ五聖、「僧侶の位」である彼女が鍔迫り合っていた。
「こうするしかって!今、自分が何をしているのか、本当に分かっているのか!」
「分かっています。分かった上で……私は、!」
「なら尚更だ!ワケを説明しろ!」
「ダメです!私は、喋れません!そういう命令なんです!」
「その命令したやつを教えろってんだよ!何を恐れる必要が、っ!」
「ダメなものは、ダメなんですっ!!」
風きり音と共に両者を飛び交う神速の斬撃。
一時の間にも読み合いと駆け引き、強引な押し、フェイントを織り交ぜた攻防が繰り広げられていた。
これが五聖同士の戦い。
互いに本気ではないにせよ、常人ならば目で追うのがやっとの世界だった。
キンッ キンッ キンッ
火花が闇の中を瞬き、2人の顔が強調されるように照らされた。
互角のように見えるが、やはり「戦士の位」であるミヅキに分があるようだ。
「っ、ミヅキさん!分かってください!」
「何のつもりかは知らんが、ここで負けてやれるほど俺は甘くないんだよ!」
「くっ、ぅ!」
刃渡りを悟らせないミヅキの魔導器。
「薄刃の柄」がマインの判断を鈍らせる。
そのわずかな隙が勝敗を分けた。
「せ、ぇえい!!」
甲高い金属音と共にマインの剣が打ち上げられる。
すかさず、無防備になったマインに「薄刃の柄」の頭が襲いかかった。
「これで、終わりだ_______________」
勝負が決まる、両者が確信したその瞬間。
ミヅキの膝が地を着いた。
「_______________か、はっ」
気を失い倒れ込むミヅキ。
その背後にはいつの間にかローブ姿の人間がいた。
ローブの者は倒れたミヅキを担ぎあげ、気さくな調子でマインに話しかけた。
「や、お疲れ様マイン。今日はここまでで良いってさ」
「……っ」
マインは心配そうにミヅキを一瞥した後、男に声を返した。
「はい……分かりました」
恐れを誤魔化すように、強く拳を握った。




