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その四十一 刺客

 

「ふんふんふーん♪」


 紺色の空の下、暗闇に落ちた王都を人影が見下ろしていた。


「ねぇさんがー♪すきすきだいすきー♪」


 王都の北西部にある時計塔頂上にて、影は上機嫌に謎のラブソングを口ずさむ。

 その手には物々しい双眼鏡。


 彼女の名はマイン・セイヴハート

 かつて魔王を討伐した勇者一行の子孫とされる五聖(グローリー)の一員である。


 今、彼女は王都の政府から要請された仕事をこなしている所であった。

 任せられているのは、夜の王都の監視と三国のエージェントによる遺体発見の阻止。

 この任務は数十年に渡って続けられていた。


「ねえさんラーヴ♪ラーヴ、ラー……ん?」


 突然、歌唱を遮るように魔導器にノイズが走った。


「……?」


『_______________聞こえるか?ミヅキだ』


「あ、ミヅキさん。こんばんは」


 聞こえてきたのは同じく五聖(グローリー)であるミヅキの声だった。


「あれ、珍しいですね。普段ならもう寝てる時間ですよね?」


『ああ、ちょっと今日はそうもいかなくてな』


「? 今日は僧侶の位(プリースト)が当番ですけどー。何か急ぎの用ですか?」


『ああ、その……実はだな』


 ミヅキは歯切れ悪く、唸るように言った。

 余程言いたくないことのようだ。


『今、だな。マリ……お前の姉が王都にいるんだ』


 それを聞くや否や、マインは即座に手にある双眼鏡を覗いた。


「どっ、どこですか?!姉さん!どこにいます?!」


『ああー、落ち着け、落ち着けよ……ったく、なんで今日が僧侶の位(プリースト)の日なんだよ』


「あ、すいません。つい……なんで姉さんが夜の王都にいるんです?」


「あー、それなんだがな」


 ミヅキは事のあらましを少し端折りながら話した。

 当然、マリが魔王だと言うことは伏せながら。


「_______________ってワケだ。どうだ、理解できるか?」


「いや、理解できません」


「だよな?アイツが無茶苦茶なんだよな?」


「ふむ、でもそこが姉さんの良いところ、とも言えますね」


 腕を組みながらまるで専門家のようにマインは語る。

 ミヅキは直接見えてはいないが、その様子にため息ついた。


「……とにかく、今重要なのはマイン!お前がマリの奴を止められるか、だ」


「これでも五聖(グローリー)ですよ?王都からの仕事なんですから、割り切ってやる時はやりますよ」


「じゃあ……アイツが涙目でお願い見逃してって言ったら、どうするよ」


「あ、喜んで見逃します」


「馬鹿野郎!」


 マインの決意は脆い。特に姉が絡んでくるとなおさらに。


「そうなるだろうから、俺は起きてんだよ。今から向かうから、マリの位置と他のエージェントも押さえとけ」


「はい……すいません」


 魔導器越しにペコペコ頭を下げるマイン。

 姉のことになると思うように動けなくなる自分の弱点を理解してはいるが……。

 ミヅキに罪悪感を感じる半分。まあ姉だししょうがないか、と残りの思考は適当に放棄した。

 そう、気にしてもしょうがない。


 そんなマインの背後から、1つ人影が近づいていた。


 〜〜〜〜〜


 月明かりにうっすら光るタイル。その上を走る。

 ワタシは2人と別れた後、己の感覚を頼りに遺体へと足を向かわせていた。

 最初に向かったのは王都の北東部、いつかマインと通った狭い路地裏だ。

 ここから大きな魔力の気配がするのだ。


 ペチャリ


 足下から水音。

 路地裏を進んでいると、ワタシの歩みに合わせて鳴っていた。

 どうやら足下が濡れているようだ。

 近頃に雨なんて当分降ってないはずだが。


 ペタ ペタ ペタ


 前方からも水音。

 影に呑まれた路地裏の向こうから、何かが向かってくる。

 水音は徐々に近づき、その者の接近を知らせていた。


「カハハハハ!何だ、また新しいお客様か?」


 やがて、その者は影から出てきた。

 大柄で筋肉質な身体。

 鋭い瞳と傷だらけの顔面が威圧感を(かも)し出していた。


「……お?アンタかぁ。とうとう来たなぁ」


 顔見るなり、男は嬉しそうにワタシを指さした。

 よく見ると片手には息絶えた人間が握られている。

 加えて、男は血まみれであった。


 垂れる血液は地に道を描き、ワタシの足下まで続いていた。

 足元の水音はこの血が原因だったのだ。


「貴方、エージェントですか?」


「ああ?エージェント?んな自由な(もん)じゃねぇよ。もっとがんじがらめな役職よ、俺は」


「そうですか……貴方と私は戦う必要ありますか?」


「ありますありますよ。へへっ、いいねぇ。そういう切り替え早いとこも昔から好きだったぜ、マリ様よぉ」


「……ちっ」


 放り出された死体を一瞥(いちべつ)し、ワタシは小さく舌打ちをした。

 この男、どうやらワタシのことを知っているようである。

 こういう奴は大体ろくでもない奴だ。

 本人が言うにエージェントではないようだが、だとしたら何だ?

 口ぶりからするに、生前のマリを……いや、まだ判断するには早計すぎる。


「もしかして、私のことを知ってるんですか?」


「あァもちろん。マリ・セイヴハート様だろ?」


「いえ、私はマリ・イルギエナですけど」


「は、なんスかそれ?顔見りゃ本人だって、誰でも分かりますよォ」


「本人じゃないです。他人の空似です」


「いいや?……オレにはよーく分かりますぜ。隠そうにも隠せない膨大な魔力。マリ様じゃないはずがねェ」


 男は指で輪を作り、そこからワタシを見つめた。

 心底嬉しそうな顔で。


「普通ならオレはアンタに手出しも出来ない。何なら、会うことも許されてなかったよ……でもな」


「……?」


「命令下ったんスよ。アンタを半殺しなり何なりして連れて来いって。だからよ、今日は遠慮しねェぜぇ!?」


 男は肩をぐるりと回し、音を鳴らした。


「……名前、良ければ教えて貰っても?」


「オージ、そう呼ばれてたな」


「聞かない名前ですね」


「んじゃあ今覚えてくだせェよ。可能性(コンセプト)「超身体」セイヴハートのオージ。以後よろしくゥ!」


 セイヴハートを名乗った男は不気味に笑んだ後、爆発的な加速で動き出した。


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