その四十 暗躍
時は深夜。
照明すら消えた月夜の王都をワタシたちは駆けていた。
「ほら、ケイナ先輩、こっちですよ」
「ったく……なんでアタシが……」
ローブに身を包んだワタシたちは、声を潜ませながら会話していた。
「だいたい何でアンタがエージェントになってるわけ?意味がわからないんだけど」
「昨日なりました」
「昨日っていきなりすぎ。そもそもなんでアタシがアンタなんかとパートナーに……」
不機嫌そうにケイナがぶつくさ言っている。
エージェントであるワタシたちはレガートからの指令である「魔王の遺体の探査」を行っていた。
エージェントの仕事は基本的に夜。複数のエージェントが日替わりで遺体の探査を行うことになっている。
今日はワタシとケイナのペアが当たっている日であった。
「てか、これどこに向かってるの?言われてる場所から離れていってるわよ」
「そうですね。離れていってます」
「もしかしてアンタ、方向音痴なの?」
「違いますよ。遺体のある場所に行ってるんです」
「何それ、遺体がある場所でもわかるわけ?」
「はい。勘ですが、大体は」
魔王の遺体はミヅキの言っていた通り、膨大な量の魔力を保有している。
王都側は何らかの技術で隠すなり何なりしているっぽいが、関係ない。
微かに漏れ出ている魔力ですらワタシには感知できるからだ。
問題はケイナがワタシの言ったように動いてくれるかである。
「勘、ね。じゃあ今回はアンタのこと信じてみるわ」
「そうか、そうですよね……え、信じてくれるんですか?」
「ん?な、何よ。別に良いでしょ。アンタが言い出したことよ」
「いや、ケイナ先輩のことだからもうちょっとチクチクと……あ、すいません」
「ふん、そういうこと言うと思ったわよ、バカ後輩。いいからその勘働かせて見つけてみなさいな」
「エージェントがそんな適当で良いんですか?」
「いいのよ。この任務、数十年続いてるけど遺体なんて三国どこも見つけてすらないの。誰も勝てない出来レースみたいなもんよ」
「じゃあ、何のために私達エージェントは……」
「お国のお偉いさん方がくだらないワンチャンスに賭けてるんでしょ……ろくでもないのよ、こんな任務やめるなら早い方が良いからね」
ケイナは苛立ち混じりに呟いた。
その苛立ちはレガートに向けてか、それとも別の。
「……わかりました。じゃあとりあえずは私の言った場所にそれぞれバラけて行きましょう」
「了解です。マリ様」
「うん。ま、今回だけは言うこと聞いてあげ……え、誰?」
ケイナの向ける先に居たのは、いつの間にかいた赤髪の娘。
タリムである。
ワタシが呼んでおいて、王都内に待機させておき、今合流したのだ。
実に便利な従者である。
「知らないんですか?タリムさんですよ」
「タリムですけど」
「ですけど、じゃないわよ!誰!?完っ全に部外者よね?!知らないに決まってるっての!」
「私の従者です。人手が足りないと思い、助っ人として呼びました」
「こんにちは。貴女とは初めまして、ではありませんね」
「ってよく見たらアンタあの生意気ルーキー!ってか、そもそも従者てどういう……ああ、もういい!」
ケイナは深く考えるのが嫌になったのか、頭を掻き上げると、喝を入れるように言った。
「いい?じ、じゃあ今から3手に分かれて捜索を開始する……のでいいのよね?他国のエージェントとの戦闘は許可されるけど、殺しは一切無しだから」
「は、何故ですか?」
タリムが不思議そうに聞いた。
「下手に死人出すと国との関係が悪化したりするかもだから!部外者のアンタがどうなるかは知らないけどね!」
「はぁ、じゃあ殺しはしないでおきますか」
「よおし!いい?連絡は魔導器で取るように!探査が終わったらここに戻ってくる!分かった?」
「「了解」」
新米エージェントのワタシとただの部外者タリムが返事をし、ケイナと手を重ね合った。
「じゃ、行動開始!」
〜〜〜〜〜
「は、ハハハァ♪」
王都の路地裏。
暗い闇の中で1人の男が笑っていた。
足元には大量の死体。月明かりに照らされた男は血に塗れ、輝いていた。
『おい!応答しろ!こちらダイロニアのエージェント02!』
「あァ?02?俺と一緒じゃねぇか!アンタ奇遇だねェ!」
男は死体から魔導器を奪い、上機嫌に答えた。
「!!お前どこのエージェントだ!我が同志に何をした!」
「率直に言うと殺した。ちょっと遠めに言うと、天に旅立たせてやった」
「っ_______________貴様ぁ!!挑発のつもりか!本当ならダイロニアが黙っていないぞ!」
「本気だよバーカ!こちとら無所属無賃金だよバーカ!」
「今すぐそっちに行ってやる!首を洗って待っていろ!」
「来てみろ。次はお前を肉のミンチにしてやるよぉ!」
男は吐き捨てるように言い、手にある魔導器を握りつぶした。
その様子を2つの影が眺めていた。
「カッハハ!!おいレイミ!ゼス!聞いたか?お国のガキ役人が今から殺しにくるんだとよ!」
「夜は短いよ……相手にしてる暇ないでしょ」
「キッヒヒ、かわいそうかわいそう」
闇夜に紛れる3人。
その誰もが血に濡れ、月明かりにテラテラと光っていた。
身に纏う服はそれぞれ全く違うが、ある紋章が共通して付けられていた。
それはこの王都では有名な、セイヴハートの家紋であった。
「ま、どうせ暇になるんだ。ターゲットついでに血祭りにしてやろうぜ」




