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その四 初日の誤ち


 王都立対魔族専門学校

 魔族を討伐するための職「討魔師」を志す者達の為の学び舎である。

 中等部と高等部が存在しており、高等部を卒業すればほぼ「討魔師」になったといっても過言ではないらしい。

 実績を残した名誉ある教育機関。

 ワタシはその高等部剣術科一年の生徒として入学することとなった。


「はい、これで全員自己紹介は終わりましたかね。じゃあこの後、二年と合同演習があるので、送れず練武館まで来るように」


 担任の気だるげな伝達を最後に、初日のホームルームは終わった。入学式を終えてすぐのホームルームだったからか、生徒は誰もが緊張を解すように肩を撫で下ろしていた。

 かく思うワタシも、一呼吸。


「今日から隣よろしくね!」


 ふと、後ろからの声にビクリと反応する。

 目を向けると前の生徒が隣同士で話していている。

 生徒として上手くやっていくには同級生との関係を築くのが重要であるという。


「……よし。善は急げだ」


 ワタシは隣へと顔を向け、先程行われた自己紹介リレーを思い出しながら口を開いたのだった。


「えと、タリムさんだったかな?私マリ・イルギエナ。これから隣よろしくね」


「……えぇ、よろしく」


 想像よりも淡白な返し。

 ワタシが話しかけた生徒の名はタリム・レッドゲイル。

 赤い長髪に高めの身長が特徴のいわゆるお嬢様だ。


「あの、タリムさんは」


「レッドゲイルと呼んでくださらない?初対面の人にファーストネームで呼ばれるのとても癪に障るわ」


「ご、ごめんレッドゲイルさん」


「それと今後ともあまり話しかけないで。受け答えが面倒だから」


「そ、そっか。そうだね……」


 心の中で拳を握る。

 そのクールビューティとでも言うべき風格と優秀さは入学初日にして注目されているらしく、既に存在しているファンガール達がワタシを睨んでいるほどだ。


「そ、そろそろ、演習の準備しよっかなー……」


 彼女の心を開くことをこの学校生活の目標として、とりあえずは一次撤退だ。

 そう、とりあえずの撤退である。

 別にショックを受けて諦めたわけではない。


「マリちゃーん、一緒に練武館までいきましょー」


「あっ、うん。ちょっと待っててリリナ」


「……」


 ワタシは準備を済ますとリリナという助け舟に逃げるようにして向かった。

 学校内、本当に持つべきものは友だ。

 ファンガール達の刺すような視線をリリナで防ぎながら、練武館へと向かった。


 〜〜〜〜〜〜〜〜


「「よろしくお願いします!!」」


 練武館内を一斉に声が響き渡る。

 周りには生徒達それぞれが結界内を1体1の形で向かい合っていた。

 剣術科1年と魔術科2年。

 両者は強化された皮鎧を着込み、ロングソードを片手に持っていた。


「まあ人によっちゃ初めてだし、緊張するのも当たり前だけどね。とりあえずは肩の力抜きなさい一年生」


 目の前の2年女子がワタシに向かって言った。

 彼女が今回相手となる先輩である。


「ありがとうございます」


「これ毎年やってるんだけどさ。何のためにやってるか知ってる?」


「いえ、全く知りません」


「甘やかされてさ、ウチの学校入って、調子に乗ってるお坊ちゃんの鼻をへし折ってやるのが目的なんだって。ウチとか本気で魔族の相手とかするからさ」


「なるほど」


「ま、そういうわけで魔術科のアタシら付き合ってやってるってワケ。アンタはそういうのじゃないかもだけど」


「相手が魔術科なのには何か理由が?」


「知らないの?魔術科はエリートで、剣術科は落ちこぼれの集まりなの。アタシ達とアンタらには埋められない差があるってこと」


「……」


「アンタら剣術科を確実に叩き潰すなら妥当な采配ね。アンタみたいな弱い子達には可哀想だけど」


「なるほど。剣術科は、負けるのが普通ってことですね」


 へし折られるべき鼻が彼女から生えている気がする。が、勝とうとはしてはいけない。

 ワタシとしては、目立つようなマネをしたくないからだ。

 できる限り普通に抵抗して、普通に負けるのが私の理想である。

 普通の学校生活、万歳。


「どうせ勝てないんだから全力で来なさい。ほら剣、構えて」


「はい……」


「それじゃ、行くわよ_______________」


 その行動を合図に、2年生は動きだした。

 彼女は爆発的な加速で間合いを詰め、長剣を振るった。

 だが、やけに遅い。

 1年生相手だから手を抜いているのだろう。

 できるだけ弱く見せるため、ワタシは無駄な動きをわざと織り混ぜながらその斬撃を避けた。


 ヒュン


 空を切る長剣。


「お_______________へぇ、やるじゃない」


 何がやるのかわからないが褒められた。


「はぁ、どうも」


「スカした反応しちゃって。もっと喜んでもいいのよ」


「?や、やったー……って、こんな感じですか」


「はん。この程度、余裕ってわけ?じゃあ、これはどうかしらっ!!」


 2年生はさっきよりも速い足並みで私の背後に回り込み、剣を振った。

 さっきより速いと言ってもその気になれば目で追える速さである。

 ワタシは困惑しつつも、目で追えていないがマグレという演技をしながら回避した。


 ビュン


 再び虚を捕らえる長剣。


「!!……フフ。中々光るもの持ってるじゃない。貴女名前は?」


「え、マリ・イルギエナです」


「私はケイナ・ビリッツァ。ビリッツァ家の一人娘よ。家名くらいは聞いた事あるんじゃないかしら。私の攻撃を2回も凌いだこと、誇っても良いわよ」


「あ、あーあのビリッツァのヒトカー」


 これだけ自信満々に話すのだ、こういう反応がきっと普通である。

 ふと周りを見ると、他の生徒達はボチボチ終わっているのが見えた。

 そろそろ負け時だろう。


「アンタ見所あるから、討魔師になったら私の下で働かせてあげてもいいわよ」


「はあ、そりゃ遠い話で」


「まあ次の一撃で終わるけどね。もし気絶して倒れても運んであげるから安心して気絶なさいっ!!」


 ケイナはさらに速く加速し、さっきとは違う構えで剣を振りかぶった。

 ほぼ同時に斬られたと錯覚するほど素早い三連撃。

 確かにさっきより速く、強い斬撃。

 ここらで喰らうのが無難だろう。


 目を閉じ、手を上げ、剣難を受け入れた。


 ヒヤリとした金属の感覚が横腹に触れようとしているのがわかる。

 だが、強化されている革鎧もあるのだ。

 マトモに受けたとしても大事には至らない。

 そうわかっていたはずなのに。


 キ キ キ ン


「あっ、やば_______________」


「_______________え」


 3回、剣同士がかち合う音がしたと思うと、ワタシの剣先はケイナの喉元に突きつけられていた。


「なっ……」


「あ、いや」


 気づかれまいと剣を下げる。

 が、ケイナは気づいているのか、瞳を見開きながらワタシを見つめていた。


 その動作は反射的なものだった。

 己の柔肌が傷つくのを恐れるあまり、脅かさんとする脅威を警戒するあまり、過保護なまでの危機意識からくるものだった。

 気づいた時にはもう遅く、身体は勝手に動いてしまっていたのだ。


「あ、ははは。いや〜マグレって怖い、ッスね」


ワタシは軽率に、実に軽薄に口を開いた。


「え、いや……は?な、何言ってんのよ。今のはマグレでどうこうなるもんじゃ」


「いや、いやこれは私の負けってことにしましょう。偶然のことなんですから私の正当な評価にはなりませんって!いや怖い怖いビギナーズラックって怖いですね」


「は?待ちなさいよ……ふざけないで!!」


 なんでも良い、並び立てるのだ。

 ワタシの平凡な学校生活のために。

 ここで勝ったことになっては、ワタシが目立つことになってしまう。

 普通万歳。普通万歳。唱えながら舌を回した。


「ふざけてません!負けなんです!私のマグレですから!マ・グ・レ!普通あんなの防げませんから、ね。負けなんですよ」


「何言ってんのよ!どう見てもアンタの勝ちでしょ?!いい?1年のマグレで凌げるほどアタシの剣は甘くないのよ!」


「いいえ!防げるほど先輩は甘いんです!だから、私みたいな未熟者でもマグレで防げたんですって!!」


「っ!アンタッ!……もういい、剣構えなさい」


「いや、無理ですもう疲れて手が上がらないんで。ほら、私まだ未熟者でして……」


「確かめてやるからもう一度、剣構えなさいって言ってんのよ!!!」


 その真っ赤にして迫ってくるケイナの顔は人間でありながら魔族を思わせるような凶悪さであった。

 対するワタシは依然として剣を構えず「マグレ」で押し通した。

 何がダメだったのか。


 その後、迫るケイナは同級生や教員の手によって抑えられ、ケイナの勝利としたまま、この一件は無事(?)幕を閉じた。


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