表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

39/153

その三十九 分岐

 

「と、まあこういう訳だ」


 ワタシは魔導器越しに事のあらましをミヅキに説明した。

 今現在、ワタシは馬車に揺られながら話している。

 馬車が向かっているのはレガート国本部、レガートの王の官邸である。


「いやこういう訳だ、と言われてもな」


「これからレガートの王に会い、エージェントの適性があるか見定めるそうだ」


「で、エージェントになって「魔王の遺体」を他国と取り合う……ってのは、マジなのか?」


「当たり前だ。そのために今からエージェントになるのだ」


五聖(グローリー)の俺としては国勢が荒れるのは勘弁してほしいんだが」


 溜め息混じりにミヅキは話した。

 その声にはどこか覇気の無い、諦めの雰囲気が出ている。

 早朝のミヅキは折れるのが早い、これは実に有益な情報だ。


「心配するな。遺体は私が回収し、破壊する。私の力は三国の連中には渡さないさ」


「なんだ、訳がわからん。結局何がしたいんだ?」


「この戦争を終わらせるのだ。私の遺体が原因なのだから、それを破壊すれば一件落着だろう?」


「はあ、戦争を終わらせるって……どういう風の吹き回しだ。大体マリやセイヴハートのことはどうしたんだよ」


「それは、今はどうにもならんのだ……これが回り道になるかもしれんだろ」


「回り道にしては遠すぎんだろ」


「私がいいと言ったらいい。それに……これで、このエージェントとかいう腐ったルールも無くなるかもしれん」


 フィンとケイナ。

 2人を頭の中で重ねながら言った。

 この戦争さえ終われば、もうあんな不幸な人間が生まれなくて済む。

 ワタシはそのためにエージェントになるのだ。


「……お前、まだあの生徒のこと引きずってんのか?」


「あの生徒……なんのことだ」


 フィンのことだ。


「言っとくが、あの生徒がああなっちまったのはレガートでも、お前のせいでもないからな」


「別に、フィンのことは気にしていない」


「嘘つけよ。アレはなるべくしてああなったんだ。人間の中には、ああいうおかしな奴が1人や2人いるもんなんだよ」


 しみじみとミヅキは呟く。

 まるで過去にそういう人物と会ったかのような口振りだ。


「他人を背負いすぎてる……魔王だったとしても、お前はマリのことだけ考えるのが(しょう)に合ってるはずだ」


「……黙れ」


 バキャリ


 苛立ちに任せて、魔導器を握りつぶした。

 性に合っている、だと?知りもしないのに、何を分かったふうに。

 ワタシ自身ですら、分かっていないのだ。

 自分何者で、自分が何のために生まれたなど。


 虚無だった魔王の時代。

 退屈だった封印の時代。

 世界が彩られた、マリとの時代。

 そして、現在。

 これがワタシの全てなのだ。


「何をするべき」なんて分からない、ワタシは、ワタシのしたいことをしているだけだ。


「何が、魔王だ……」


 何をしたとて、マリも、フィンも、誰も救えなかったことには変わりないではないか。


 〜〜〜〜〜〜


「入ってよいぞ」


 扉を数回ノックすると、野太い返事が帰ってきた。

 ワタシは遠慮せずにドアを開け、部屋に入った。


 入ると、豪華絢爛(ごうかけんらん)な部屋が視界に広がった。

 証明、家具、絨毯(じゅうたん)、どれも一級品だとひと目で分かる。

 だが、部屋自体はそう広くなかった。

 一人の人間のための部屋にしては広いが、王の一室と言えば狭いような気がする。


「ふむ、遠慮せずにかけたまえ」


 目の前に座っていた小太りの中年が椅子を指した。

 多分、こいつがレガートの王だ。

 ワタシは一礼した後、椅子に腰かけた。


「マリ・イルギエナくん。君は我が国のエージェントになりたいのだね?」


「はい」


「ふむ。非常に助かるよ。実はつい最近、我が国のエージェントが一人居なくなってしまってね。その席を埋められる人材を探していた所だ」


「……そうですか」


「だが、今の君を見てそのままエージェントとして採用する訳にはいかない。なので、これを」


 レガートの王は横にあった棚から小さな魔導器を取り出した。

 手のひら大のそれは、銃身の無い拳銃のような形をしていた。

 王はワタシに差し出しながら続けた。


「最近の技術の進歩というものは凄まじくてね。これだけで、魔力の量を測れるのだよ」


 手に取ってまじまじと見つめてみると、引き金のような物がついていた。


「さあ、引いてみたまえ」


「はい」


 言われるがままに引き金を引いた後、それを王に渡した。


「目安としては、成人している男性で2000という数値が出る。これを超えていればエージェントの素質は十分に……ん?」


「どうかしましたか」


「いやなに、これは故障しているようだ。最新技術といっても信用ならないものだね」


「数値はどうだったのですか?」


「測定不能……と、出ている。まぁ、いいだろう。君の母上への思いを讃えて、君は採用としよう」


 余程、人手不足なのか。

 それとも傀儡となる人間が欲しいだけなのか。

 王は適当な調子で、手元の書類にサインをした。

 ちなみに、その書類にワタシやセリルのサインを書く欄は無い。

 それが何を意味するのかは……。


「よし!これで君も晴れてエージェントだ。君が我が国のために働く姿を見れば、きっと母上も喜ぶだろう!」


 王は席を立ち、貼り付けたような笑みでワタシに歩み寄ってきた。

 キツい香水の匂いがワタシの鼻腔を撫でる。


「早速、君には仕事をやってもらおうと思う。君の指導役兼パートナーをこの中より選んで欲しい」


 ずらりと少年少女の顔と名前が描かれた紙を渡してきた。

 その数は数十に登る。これら全てがエージェントと()()()()()()()者なのだろう。


「……では、この方を」


 ワタシは見覚えのある姿を指して、そう言った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ