その三十九 分岐
「と、まあこういう訳だ」
ワタシは魔導器越しに事のあらましをミヅキに説明した。
今現在、ワタシは馬車に揺られながら話している。
馬車が向かっているのはレガート国本部、レガートの王の官邸である。
「いやこういう訳だ、と言われてもな」
「これからレガートの王に会い、エージェントの適性があるか見定めるそうだ」
「で、エージェントになって「魔王の遺体」を他国と取り合う……ってのは、マジなのか?」
「当たり前だ。そのために今からエージェントになるのだ」
「五聖の俺としては国勢が荒れるのは勘弁してほしいんだが」
溜め息混じりにミヅキは話した。
その声にはどこか覇気の無い、諦めの雰囲気が出ている。
早朝のミヅキは折れるのが早い、これは実に有益な情報だ。
「心配するな。遺体は私が回収し、破壊する。私の力は三国の連中には渡さないさ」
「なんだ、訳がわからん。結局何がしたいんだ?」
「この戦争を終わらせるのだ。私の遺体が原因なのだから、それを破壊すれば一件落着だろう?」
「はあ、戦争を終わらせるって……どういう風の吹き回しだ。大体マリやセイヴハートのことはどうしたんだよ」
「それは、今はどうにもならんのだ……これが回り道になるかもしれんだろ」
「回り道にしては遠すぎんだろ」
「私がいいと言ったらいい。それに……これで、このエージェントとかいう腐ったルールも無くなるかもしれん」
フィンとケイナ。
2人を頭の中で重ねながら言った。
この戦争さえ終われば、もうあんな不幸な人間が生まれなくて済む。
ワタシはそのためにエージェントになるのだ。
「……お前、まだあの生徒のこと引きずってんのか?」
「あの生徒……なんのことだ」
フィンのことだ。
「言っとくが、あの生徒がああなっちまったのはレガートでも、お前のせいでもないからな」
「別に、フィンのことは気にしていない」
「嘘つけよ。アレはなるべくしてああなったんだ。人間の中には、ああいうおかしな奴が1人や2人いるもんなんだよ」
しみじみとミヅキは呟く。
まるで過去にそういう人物と会ったかのような口振りだ。
「他人を背負いすぎてる……魔王だったとしても、お前はマリのことだけ考えるのが性に合ってるはずだ」
「……黙れ」
バキャリ
苛立ちに任せて、魔導器を握りつぶした。
性に合っている、だと?知りもしないのに、何を分かったふうに。
ワタシ自身ですら、分かっていないのだ。
自分何者で、自分が何のために生まれたなど。
虚無だった魔王の時代。
退屈だった封印の時代。
世界が彩られた、マリとの時代。
そして、現在。
これがワタシの全てなのだ。
「何をするべき」なんて分からない、ワタシは、ワタシのしたいことをしているだけだ。
「何が、魔王だ……」
何をしたとて、マリも、フィンも、誰も救えなかったことには変わりないではないか。
〜〜〜〜〜〜
「入ってよいぞ」
扉を数回ノックすると、野太い返事が帰ってきた。
ワタシは遠慮せずにドアを開け、部屋に入った。
入ると、豪華絢爛な部屋が視界に広がった。
証明、家具、絨毯、どれも一級品だとひと目で分かる。
だが、部屋自体はそう広くなかった。
一人の人間のための部屋にしては広いが、王の一室と言えば狭いような気がする。
「ふむ、遠慮せずにかけたまえ」
目の前に座っていた小太りの中年が椅子を指した。
多分、こいつがレガートの王だ。
ワタシは一礼した後、椅子に腰かけた。
「マリ・イルギエナくん。君は我が国のエージェントになりたいのだね?」
「はい」
「ふむ。非常に助かるよ。実はつい最近、我が国のエージェントが一人居なくなってしまってね。その席を埋められる人材を探していた所だ」
「……そうですか」
「だが、今の君を見てそのままエージェントとして採用する訳にはいかない。なので、これを」
レガートの王は横にあった棚から小さな魔導器を取り出した。
手のひら大のそれは、銃身の無い拳銃のような形をしていた。
王はワタシに差し出しながら続けた。
「最近の技術の進歩というものは凄まじくてね。これだけで、魔力の量を測れるのだよ」
手に取ってまじまじと見つめてみると、引き金のような物がついていた。
「さあ、引いてみたまえ」
「はい」
言われるがままに引き金を引いた後、それを王に渡した。
「目安としては、成人している男性で2000という数値が出る。これを超えていればエージェントの素質は十分に……ん?」
「どうかしましたか」
「いやなに、これは故障しているようだ。最新技術といっても信用ならないものだね」
「数値はどうだったのですか?」
「測定不能……と、出ている。まぁ、いいだろう。君の母上への思いを讃えて、君は採用としよう」
余程、人手不足なのか。
それとも傀儡となる人間が欲しいだけなのか。
王は適当な調子で、手元の書類にサインをした。
ちなみに、その書類にワタシやセリルのサインを書く欄は無い。
それが何を意味するのかは……。
「よし!これで君も晴れてエージェントだ。君が我が国のために働く姿を見れば、きっと母上も喜ぶだろう!」
王は席を立ち、貼り付けたような笑みでワタシに歩み寄ってきた。
キツい香水の匂いがワタシの鼻腔を撫でる。
「早速、君には仕事をやってもらおうと思う。君の指導役兼パートナーをこの中より選んで欲しい」
ずらりと少年少女の顔と名前が描かれた紙を渡してきた。
その数は数十に登る。これら全てがエージェントとなってしまった者なのだろう。
「……では、この方を」
ワタシは見覚えのある姿を指して、そう言った。




