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その三十四 騎士と風紀

 

「待ちなさい!」


 精悍なる声が3人の男を制止する。


「な、なんだテメェは!?」


「!!お前は」


 逆光の中、浮かびあがるシルエット。

 男達は女を見て、慌てふためきながらも身を構えた。

 懐から取り出されるは刃渡り数センチの刃物。

 だが、女はその凶器に臆することなく近づいてくる。


「学校の生徒は、風紀委員が守ります!」


 影の中へと踏み出す女。

 近づいたことで、その顔が露わとなった。


「あれ、ケイナ先輩」


「え……なっ!アンタなにやってんの?」


「この人達に道案内してもらってました」


「道案内ぃ?アンタ、ちょっとは疑うってことをしなさいよ……ソイツらこの辺じゃ有名な悪人よ?」


「え?道案内してくれる人が悪人なわけないと思いますけど、ねぇ」


 そう言って、男達の方を見た。

 ニヤニヤとした笑みと奇抜な髪型と刃物が気になるが、それらに目をつぶればこの者たちが助けてくれたことには変わりない。

 つまり、どこからどう見ても良いヤツら。


「それアンタ、真剣(マジ)に信じてんの?」


「え?それは、どういうことでしょうか」


「はぁ……話は後で。いいから離れてなさい。そこの隣の子も」


「あ……はい」


 マインと2人でおずおずと離れると、男達は体勢を低くしながらケイナを睨みつけた。


「おいおい、俺たちゃまだ何にも悪いことしてないんだけどなぁ?」


「そうね。でも貴方たちみたいな()()()には柔軟な対応も必要でしょ?」


「常習犯ってか……じゃあ、俺たちのこと知ってて、こんなアホなことやってるんだよなあ?!」


 ナイフを持った男達は一斉にケイナへと飛びかかる。

 狭い路地裏の中、意外にも統率の取れた動きで男達は迫った。


「バーカ。アンタらこそアタシのこと知らないの?」


 対するケイナは何のアクションも起こさない。

 腕を組み、呆れたように息を吐くだけだった。


「バカはてめぇだ!!俺たち藻火漢(モヒカン)トリオに1人で挑むなんざ、自殺行為に等しいンだよぉ!!」


 動かないケイナを襲う、3つの銀閃。

 別の方向から迫ったナイフが首元を狙う。


「死ねぇ_______________!?」


 ボゴォ!!


 しかし、ナイフはケイナまで達することはなかった。

 その凶刃を阻止したのはケイナでも、その男達でもワタシやマインでもなく。


 突如、空から降ってきた白銀の騎士であった。


「あ、兄貴ィ!!」


「な、ななななんだコイツぅ!!」


 現れた騎士は鈍い動きで踏み潰された男から降り、ケイナの横に立った。


「あら、本当にアタシのこと知らないの?残念ね。知ってたらアタシに挑むなんて馬鹿なマネ_______________」


 ケイナが腕を上に振り上げると、全く同じ姿の騎士が三体、同じように空から現れた。


「_______________しないで済んだのにねぇっ!!」


 腕を横に振り上げる。

 その瞬間、騎士達の手に白銀の槍と盾が出現。

 さらには揃った足並みで整列し、この狭い路地の中で横陣を組んだ。

 あっという間に騎士の小隊がそこに現れたのだった。


「あ、ああ、この、白い騎士、もしかして、あの、ケイナ・ビリッツァか?!」


「な、風紀委員、副委員長のあの……!」


「あら知ってるじゃない。で、どうする?知った上でアタシの「白帝(びゃくてい)」と戦う?」


「「_______________うわああ!!に、逃げろおおお!!」」


 叫びと共に男達は潰されたモヒカンの兄を抱え、逃げていった。

 ケイナはその姿を満足気な表情で見送った後、ワタシに目を向けた。


藻火漢(モヒカン)トリオ。ウチの生徒を人気のない所に連れ込んで「悪さ」をする、この辺じゃ有名な奴らよ」


「道案内って……悪さっスかね?」


「はぁ、道案内するって体で連れ込むの。分かる?」


「あー、あ!あーあーなるほど」


 思わず手を叩く。ワタシは完全に理解した。

 つまり、あのモヒカン共は見た目通りの人間だったというわけだ。

 また、人間の醜さを垣間見てしまった。


「じゃあ先輩は私達のこと助けてくれたんですね。ありがとうございます」


「あ、いや、まあそうなんだけど……そうアンタに素直に言われるとなんか調子狂うわね」


「いつも私は素直だと思いますけど」


「そういうこと言わなかったら良かったんだけどね」


 ため息を吐くケイナ。

 隣に座している白銀の騎士はどうやらただの魔術によるものではない。

 ケイナの内包式(スクロール)だろう。「白帝(びゃくてい)」と言っていたが、それが名前だろうか。


「で、何でこんなとこにいるわけ?制服着てるけど今日は学校休みよ?」


「服を買いに来たつもりだったんですけど、道に迷いました」


「普通迷ってここに来る?ったく、こんな小さい子連れてるんだから、気をつけなきゃダメじゃない」


「はい……え、小さい子って、先輩は知らないんですか?」


「えぇ?アンタの妹とかじゃないの?アタシ知らないわよ」


「うーん、確かに妹ではあるんですけど……」


「あるけど、何よ」


 ピンと来ていないケイナに痺れを切らしたのか、マインは髪を結い、メガネを外した。


「もう、ケイナさんまで……私、そんなに制服のイメージあります?」


「_______________。」


 マインの姿を見た途端に固まるケイナ。そして、それと同時にボロボロと崩れ、土へと帰っていく騎士達。

 一点を見つめ続けるケイナの姿はまるで魂でも抜けているかのようだった。


「……?おーい、ケイナ先輩。どうかしましたか」


「マママ、マイン様、だったのででですね」


「はい、つい最近ぶりですね。ご機嫌ようですケイナさん。ケイナさんは服屋の場所って分かります?よかったら案内してもらいたいんですけど」


「あ、あはあはあは、よよよ喜んで」


 さっきまでの調子が嘘のように、吃り始めるケイナ。動きは何故かカクカクとしているが、服屋への道は知っているのか、その動きのまま歩き始めた。

 マインの手と若干の不安を握りつつ、ワタシはケイナに着いて行った。


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