その三十三 マインの幸福
『王都、王都に到着致しました。次のレガート行きの便は30分後となります』
駅中にアナウンスが鳴り響く。
無事、王都へと着いたワタシは出口へと向かって行った。
駅内の人混みは疎らだったので、マインは探せばすぐに見つかるはずだが。
「おーい!姉さーん!ここですよー!」
聞き慣れた声がどこからか聞こえた。
マインの声だ。
だが、それらしい人影は見えない。
彼女の声と姿が見えればいつもは周りからのどよめきが起こるはずだが、それも無い。
それどころか制服姿の者は1人も……。
「姉さん!どこ探してるんですか!」
「うわぁ?!」
唐突に腹の辺りに体重がかかり、素っ頓狂な声が上がってしまった。
視線を落とすと、体重の正体である少女がワタシの腹にしがみついていた。
「あれ、もしかしてマイン?」
「もしかして、じゃないです! 妹の顔を忘れたんですか!」
「だって制服じゃないから……」
「姉さんの中の私は常に制服着てるんですか?」
「え……はい、そういうものだと思ってました」
「せっかくおめかしして来たのに!」
ワタシは頬を膨らませるマインに改めて目を向けた。
落ち着いた色のプリーツスカートとニット、黒縁のメガネ。
そして何より、いつもと違い下ろしてある髪が印象的だった。
「ああ、そっか。それなら周りからはマインだってバレないもんね」
「そういうつもりでこの格好したんじゃないです!」
「え、えぇ……」
「もう!第一に姉さんはなんで制服なんですか?」
「それは……制服しか着るものがないから、かな?」
「む、じゃあ家ではどうしてるんです」
「なんか、薄い服を着てる」
「薄い服って……」
確かに、言われてみれば制服以外の服もあったような気がするが、少しも着ようという発想には至らなかった。
何故なら、ワタシの中のマリは制服しか着ていないからだ。
外へ出るとき、マリとして振る舞うときは決まって制服なのである。
「あ、ひらめきました!今日は一緒に服を買いに行きましょう!」
「え、服って普通に売ってあるものなの?」
「当たり前です。売ってありますよ」
「一人一人に作っていってるんじゃ?」
「いつの時代の話ですか。今は魔導器ってものがあるんです」
「ああ、そっか。そうだね」
「さあ行きましょう!王都は私の庭みたいなものですから、案内しますよ!」
ほら早く、とワタシの手を必死に引くマイン。
心の底から嬉しそうな彼女を見て、ワタシは思わず笑ってしまった。
〜〜〜〜〜〜
王都でのマインの案内が始まり、十数分。
ワタシ達は真っ暗な裏路地で立っていた。
「マイン、ここはどこかな?」
「おかしいですね……私の直感ならこの辺りに服屋さんが」
「どの辺にも見えないけど」
目を点にして周りを見渡すマイン。
暗く、狭く、ジメジメしたこの場所に服屋が建つとは思えない。もしかして、もしかしなくても……。
「マイン?ねえ迷った?迷ったんじゃない?」
「……」
「王都はマインの庭なんじゃなかったの?」
「はっ!!もしや、ここは王都じゃない……?」
指を顎に当て、まるで名推理でもしたかのようにマインは顔を顰めた。
間違いない、迷ったのだ。
王都は広い、住んでいようと知らない場所が一つや二つあってもおかしくないくらいに。
だからと言って、しょうがないとも言い切れない。
あのマインの迷いすら見せない前進、あれは何だったのか。
「もう……」
「ふぅううう……ごめんなさいぃ……私のこと見捨てないでくださいぃ」
「見捨てないよ。ほら、人に道でも聞けばいいよ」
「う゛う゛う゛う゛う゛」
マインは俯きながら、泣く1歩手前のような声を上げた。
張り切りすぎたようだが、彼女なりに頑張ったのだろう。
ワタシはマインの手を引きながら、目の先にいた人に声を掛けた。
「あの、すいません。道を尋ねたいのですが」
「あ゛あ゛?道ぃ?」
妙にドスの効いた声でその男は振り返った。
ソフトとは程遠い本気に天を向くモヒカンに、尖ったサングラスが特徴の男。
「おぉい!お前ら来い!」
そんな格好の男が3人、あっという間に並んだ。
「どうしたよ、嬢ちゃんら。こんな日の当たらない場所までわざわざよ」
「服屋に行きたかったのですが、道に迷ってしまって」
「へえ、服ぅ。ところで、そこのちっこい嬢ちゃんは良い服着てんなぁ」
「あ、はい!ありがとうございます!へへ、メイドさんに選んでもらったんですよ」
「へぇ、メイドォ」
褒められたのが嬉しかったのか、笑みを浮かべるマイン。
会って早々に他人の服を褒めるとは、奇抜な格好をしているが中々良い奴らなんじゃないか?
「何ィ?今日はそのメイドさんとか、お付きの人はいないわけェ?」
「はい!今日は姉さんと2人きりでお出かけです!」
「へぇ、仲の良い姉妹なんだねぇ!俺らはここら辺に詳しいからさ!服屋まで案内してやるよ」
「わわ、ありがとうございます!」
「ふふ、良かったねマイン」
「何とかなりそうでよかったですぅ……」
道案内までしてくれるとは、良い人間もいたものだ。
何かコソコソと話しているが、そう気にすることではないだろう。
そう思いながらワタシ達は3人の男へと着いて行こうとした。
その時であった。
「待ちなさい!」
甲高い、精悍な声が路地裏に響いた。




