表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

32/153

その三十二 浮雲

 

 時は飛んで朝方、王都へと向かう電車の中。

 学校へ入学して6日が経過していた。

 休日だからか、いつもより空いている座席でワタシは1人、窓からの景色を眺めていた。


 コツコツコツ


 電車内を歩く音。

 それはワタシの方へと近づいていた。


「隣、良いですか」


「ええ、はいどうぞ」


 景色を見たまま、見向きもせずに声に応えた。

 低い声。男の声だった。


「_______________?!」


 数秒後、何気なく座った者に顔を向けた時だった。

 そこに居たのはどう見ても女。どこからどう見ても女の服装、それに骨格である。

 人間の性別を見分ける自信があったわけではないが、まだまだ人間のことが分かってないのだと思った。


「どうしました?ありえない物でも見たような反応して」


「んええ?!」


 次にその人間から発されたのは、雛鳥のように高い声。

 どう聞いても女の声、さっきとは別の声である。


「……ぷっ、ははは!ビックリしました?」


「な……これは、どういう……?」


「私ですよ。ほら私。覚えてません?」


 女は自分の顔を指さしてアピールした。

 まじまじと見つめると、確かにどこかで見たような顔をしていた。

 どこで、とはハッキリしないが間違いなく見たことはある、気がした。


「あ、そっか聞いてないのかも……」


 そう言うと、女はフードで顔を一瞬覆った後、掛け声と共にそのフードを取った。


「ジョジョーン、はいおはようございます!「暗殺者の位(アサシン)」のローナですー」


 全く違う姿へと変化して、何処からか舞い散った紙吹雪と共に女は立ち上がった。

 紫色の頭髪と黒色の瞳。整ったシャープな顔つきにスレンダーな体型が印象的だった。


「おお……あ、そうか。あの顔どこかで見たことあると思ったら」


「そう。3日前に王都で、ケイナ・ビリッツァちゃんにバレそうだったのを助けたローナでーす。感謝しちゃってくださいねー」


 ローナはやり切った表情をした後、ゆっくりと座った。

 砕けた語句の割に落ち着いた声色。

 その独特の雰囲気に妙な安心感を覚えた。


「はい、ゆーてますけどもね」


「その姿が本当のものなのか?」


「どうですかね。私「暗殺者の位(アサシン)」なもんで、企業秘密にしてますよ」


「そうか……貴様のことはよくマリから聞いていた。親友、だと聞いているが」


「まあ、そうですねー。マリちゃんとは仲良くやらせてもらってましたよ。そりゃ毎日イチャコライチャコラ」


「つかぬことを聞くが、貴様、女か?男か?」


「女」


 即答するローナにワタシは鼻を鳴らした。

 男であれば1発殴ってやるつもりだったが。


「ヅキくんがそれでボコられたって言ってましたんで。はい正直に言いますよ。まだ死にたくないんで」


「ヅキくん?」


「あ、失礼。ミヅキ・レックウ氏のことであります」


「ほう……では本当のところは、女か?男か?」


「いや疑ってるー。でもマジで女ですんで、ほら女」


 そう言ってローナが自身の胸に手をかざすと、ローナの乳房が一回り大きくなった。胸囲に耐えきれなくなったボタンが弾ける。

 隠密や変装が得意だとは聞いたが、そういう次元ではないのではないか。


「これ?これ私の内包式(スクロール)ですんで」


「……口に出していたつもりは無かったのだが」


「いや顔に出てましたよ。「変装とかそういう次元じゃねぇ!」ってね」


「心を読む内包式(スクロール)でも持っているのか?」


「どうだかどうだか」


 真顔でわざとらしくケタケタと笑うローナ。

 掴みどころのない女(?)だ。ただ者ではない。


「って、マリちゃんの顔を驚かすのに夢中で、脱線しちゃいましたね」


「まだ話の本線にも入ってないだろう」


「じゃあ、まずは連絡事項。貴方の元本体のしゃれこうべが無くなっちゃいました。残念」


「……封印の間とやらにあった私の頭蓋骨のことか?」


「えぇ、それです。ちなみに、これ聞くとただでさえ過労気味のヅキ君が倒れちゃうんで、今は私と貴方のひ・み・つ☆」


 バチン、とウィンクを決めるローナ。

 魔術か何かを施しているのか、ローナの目から絵に描いたような星がこぼれ落ちた。


「例の魔族侵攻を機に無くなりました。頭蓋だけですけど、封印の間にあるあれは簡単に持ってけなかったはずですよね」


「ポータルとやらを仕込む暇があったのだ。あの魔族共なら事前に準備しておいて、持っていけてもおかしくないだろう」


「っすね。ですんで、知りません?どこに持っていったか」


 ずい、とローナは顔を寄せた。


「知るわけがない……貴様まさか、私を疑っているのか」


「はい。マリちゃん本人とヅキ君以外信用しない主義なので。ついでに貴方の本当の目的とかも、教えてくーださい」


 ローナの表情に鋭さが宿った。

 暗殺者らしい雰囲気だった。今にも袖から凶器が飛び出してきそうだ。

 電車内という日常に、可視できそうな必殺の空間。

 命のやり取りをしていた昔を想起させた。


「本当も何も私は……まず1番にマリを優先している。他に優先するものなど無いし、話すような目的も持っていない」


「魔王なら、次に優先するなら魔族なんじゃ?」


「魔族に対して仲間意識のようなものは無い。私は魔族共をまとめていたワケではないからな」


「あら、貴重な魔王トーク。その一言で歴史家が狂喜乱舞しますよ」


「人間側に大切だと思える者がいれば、魔族側にも似たような者がいる……今は、そのどちらかを優先するかで葛藤中だ」


「それ、どっちもはダメです?」


 再び、ローナの雰囲気が変わる。

 今度はゆったりとした、友人に語りかけるような雰囲気でローナは言葉を紡ぐ。


「人間と魔族が一緒に生きる。そういう世の中を作るのを、貴方の優先事項その2にするのはどうです?」


「平和ボケした考えだ……小さい頃にマリが似たようなことを言っていたよ」


「いいんじゃないです?マリちゃんと同じ考えで」


 一瞬だけ、ローナの顔が(ほころ)んだ。


「あ、もうすぐで王都に着きますよ。今日はどういう御用で王都に?」


「マイン・セイヴハートと楽しく愉快にお出かけだよ」


「あらいいですね。マインちゃんとは仲良くしてくださいよ」


「言われなくとも、姉としてできる限り振舞っている」


「それならよかです……セイヴハート信用してない私たちには、あの子を大事にするなんて虫のいいマネ出来ませんので」


 少し悲しそうな顔をしたと思うと、ローナの姿はその場から一瞬で消えた。

 魔力の反応も周りからは一切しない。


 彼女の「暗殺者の位(アサシン)」の称号も伊達ではないようだ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ