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その三 セイヴハートの娘


「わ!見てください!こんなに人がいっぱいですよ!」


 雑踏の中、私とリリナは横並びになって歩いていた。

 周りの人々はやはり制服を着込んでおり、その表情は不安がってたり期待に満ちてたりと人によって様々だ。


「これ全部生徒なんだよね。ついて行ってれば大丈夫そうかな」


「多分大丈夫だと思います……いやー、2人とも場所を知らないとわかった時は焦りましたね」


 場所がわからないと騒ぎ合っていたのは数分前。

 制服姿の波に乗って行けば万事解決と気づいたのがほぼ現在である。

 慌てふためいていた二人の様は傍から見ればなかなかに滑稽だっただろう。


「いやー、列車でもここに来るまでかなりかかったなー」

「見ろよ。剣術科だぜ!やっぱ男はいかついのが多いよな」

「魔術科?じゃあ私と一緒だね!」


 ワタシはふと周りを見渡した。

 注目したのは制服の襟元。各々付いているバッジに違いがある。

 私やリリナには鷹を模したバッジが付けられているが、周りには鯨だったり虎だったりと違う模様であった。


「みんなのバッジ、私たちと違うみたいだけど」


「住む場所によってバッジが違うんですよ。三つの国で分けられてます」


「これでクラス分けとかされるんですよ。鷹のバッジは私たち、レガート国方面の人達ですね」


「私とリリナは同じ教室で、同じ授業を受けるってこと?」


「そうですよ!席も一緒だったら嬉しいんですけど……ん?あれ何でしょう」


 リリナの目先を見ると、歩いた先に人集りがあるのが見えた。

 妙に騒がしい。

 学校まではまだもう少しあるはずだが。


「見て、あれマイン様じゃない?」

「嘘!私、学校に来たら1回は会ってみたいって思ってたのよね!」

「な、なあ。ちょっと俺見てくるわ!」


 周りの話し声を聞くに、先にいるのは中々の有名人のようだ。

 世事に疎いワタシには誰なのか検討もつかない。


「マイン……って誰?何かすごい人気そうだけど」


「魔術科の凄く優秀な人ですよ。まだ14歳なのに飛び級で上級生の授業を受けてるんですって」


「へぇ、スゴい人なんだね」


「そりゃあなんてったってセイヴハート!「勇者」の家系の人ですからね。王都じゃアイドルみたいなものですよ」


 セイヴハート。

 ワタシにとっては懐かしい響きだった。

 イルギエナという姓に違和感を感じなくなったのはいつからだろう。

 あの場所に立っていたのが今のワタシであっても、おかしくなかったのではないか。


「……どうかしました?」


「え?いや……そのマイン様って可愛いのかなって」


「セイヴハートの家系はみんな美形って聞きますから、美人さんなんじゃないですか?」


「なら、ちょっとだけ見に行こうかな?悪いけどこれ持っててよ」


「え?ちょっとマ、マ、リ……ちゃん!待ってくださいよ!」


 リリナに荷物を預けると、飛び出すように走り出した。

 別にセイヴハートの姓に未練がある訳ではない。

 本当に少しだけ、そのマインという人物が気になっただけだ。


「マイン様ー!この前、街で歩いてるの見ましたー!」

「マイン様!いつもこの時間帯に登校されてるんですか!」

「すいません!握手!少しだけでも良いんでー」


 息が詰まるような人の波をかき分けながら、少しずつ前に進んで行った。


「あの、すいません、急いでいるので。入学式のスピーチの準備があるので、すいませ_____________」


 ある程度進んだ頃、人混みの隙間からその顔が覗けるとすぐに困った表情と目が合った。

 きっと彼女がマイン・セイヴハートだ。


 その背丈は周りの生徒と比べると小さい。

 髪は長く後ろで結ってある。

 ワタシと同じ金色だったが、前髪の下に見えた大きな瞳は空色で、私の翡翠色とは違っていた。

 浮かんだのは美人というより小動物のような印象だった。


 噂の勇者、噂のセイヴハートを一目見れると何かスッキリした安堵がワタシには残った。

 その直後。


「____________え!?すいませんっ!ちょっと退いてください!」


 目を見開き、何かに気づいた様子のマイン・セイヴハート。

 向かっているのは……他でもないワタシのいる方向?!


「ぇえっ、」


 驚きから漏れる声。

 その声に反応して、周りの目線がワタシへと向けられた。


「ぁ……すいませんでした!」


 注目から逃げるように、ワタシは来た道を戻った。

 都合のいいことにマインは人混みに揉まれて上手く進めない。

 その隙にワタシは全速力でリリナの所まで駆け戻った。


「リリナ!ごめん、遅れるかもしれないからすぐ行こ!」


「まだ開会まで時間ありそうですけど……えぇ!待ってよって!マリちゃんってば!」


 一時ではあったが目立ってしまった。

 目立ちたくないのに。

 好奇心に負けた己の自制心を呪いながら、リリナの手を引いて学校へと急いだのだった。


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