幕間 「暗殺者の暗躍」
ドガン!!
爆発にも似た轟音が森中に響き渡る。
生まれた衝撃波により揺れる木、飛ぶ小鳥。
そんな中、対魔族学校教員のバンフラ・レーリーは走っていた。
何かから逃げるように駆けていた。
「ば、爆発音っ。ポータルの方か」
彼は今、この森の中で行われている実習の監督役を担っていた。
不測の事態が起こった時は、彼が1番に対処しなければいけないはずだった。
案の定、不測の事態は起こった。
だが、今の彼にはそんなことはどうでもよかった。
「ひっ、ひっ、ひっ、ひはは!ざまぁみろ!」
無精髭をさすりながら叫ぶ。
何を隠そう。彼こそがこの事態を引き起こした元凶、魔族が通るためのポータルを設置した張本人であるのだ。
「全員、退いたな。後は俺が逃げれば……!」
嬉々として走るバンフラ。だが、笑顔で走るその先に現れる人影。
人影は、体の端から端までをフード付きの黒い外套で隠している。
その姿から正体など察しようがなかった。
「どっ、どけえええぇぇ!!」
仲間の魔族か、敵の人間か。
結論を出す余裕は無く、バンフラは人影に向かって攻撃を仕掛けた。
魔術の応用により生み出された毒手。
その凶器を持って目の前の人影を貫こうとした。
「死っ_______________ね?」
バンフラが対象に触れた途端、景色がぐるりと一回転する。
気づけば痛みはなく、いつの間にか彼の背中には地面があっただけだった。
「こんにちは、バンフラ先生」
外套の人間は静かに喋った。
その声からですら、その正体は掴めない。
2つの全く違う声が同時に喋っているような声だった。
男なのか女なのか、それすら判断できない。
「どうしました?そんなに急いで」
「は、私は、校舎の方に用事が」
「まだ、実習は終わってませんよ」
「監督役にはミヅキくんとマインさんがいるから、だ、大丈夫だよ」
まるでさっきの攻撃が嘘かのように、当たり前の会話を進める。
バンフラは得体の知れない奴を相手に、必死に言葉を紡いだ。
「そうですか……ところで、この森を魔族が徘徊しているらしいのですが、ご存知で?」
「え、えぇ。ですから助けを呼びに」
「……バンフラ先生。私が誰だか分かります?」
「は、はぁ?!そ、それは……」
外套の奥で、人間は静かに笑う。
「ふ、もういいか」
「は_______________」
外套の中から突然伸びた腕が、バンフラの首を掴む。
「私のことが分からないってことは貴方、バンフラ先生じゃないですよね?」
「な、ぜ。この、森には、外部と接触できないよう、結界が。外部から助けなど、来れるはず、ない……君は、生徒、なのか」
「ここ3日間、バンフラ先生は行方不明でした。おかしいとは思ってました。魔族である貴方がなりすましてたのですね」
バンフラ……に化けた魔族は苦しそうに呻く。
掴む腕に力はさらに込められていく。
「本物のバンフラ先生は多分、無事でしょうね。あの子は平常運転ですし……」
「く……は、ははは!そうやって、余裕でいられるのも、今のうちだ!お前ら人間は、もう終わりなんだぞ!」
「……はぁ、それは何故です?」
「我ら「新魔王軍」はもう動き始めている!今まで以上の、勢力で!軍事力でなあ!」
「それは大層なことで。私達、恐怖で眠れも」
フードが風に煽られ、後ろへ退いた。
「_______________しませんわ」
そこにあったのは、およそ人とは言えない顔面。
切れ長の耳、数十の眼球、緑色の肌、裂けた唇。
「ひっ」
その恐怖を掻き立てるような見た目に魔族は悲鳴を上げた。
だが、次の瞬間にはそれは全く別の人間の顔に変わり、男か、女かを判断する前にその顔は再び、さらに再びと形を変えていった。
文字通り、異常な光景であった。
「おぉ、お前ぇ、何、者」
「は_______________暗殺者の位です。びっくりしました?」
それはやがてにっこりと笑うと、魔族を持っていた手に力を入れた。
首は堪らず潰れ、鮮血を噴水のように撒き散らした。
「一件、落着……♪」
「暗殺者の位」ローナは降り注ぐ血の雨の中、鼻歌を歌いながら、踊った。
その姿はまるで、ただの一生徒のようであった。




