その二十四 始動
血に染まった土の上、そこには血濡れの肉塊が転がっていた。
ワタシはそんな中、玩具と揶揄していた通信用魔導器を弄りまわしていた。
「く……、こうか?違う、こうだ!」
魔導器は白く光ったと思うと、聞きなれた男の声を流し始める。
どうやらワタシのは使えるオモチャだったようだ。
『応答!おい魔王!聞こえてんだろ!返事しろ!』
「やかましい!いきなり大声を出すな!」
聞こえたのは間違いなくミヅキの声だった。
後ろから微かにすすり泣くような声が聞こえるが。
『やっぱ無事か。さっきの魔法陣、お前の仕業じゃねぇだろうな!』
「上空に現れたやつなら私ではない……なんだ、実習の一環ではないのか?」
『あんなエグい精神干渉魔術、実習で使えるか!こちとらマインがダウンしてんだよ!』
「なに……マイン・セイヴハートが動けないのなら、私は派手に動けるな。そこそこ好都合ではある」
『いやそうだけども……てか、お前は大丈夫なのか?結構強力な魔術だったぞ』
「貴様が耐えられているだろう。そもそも私は魔王だぞ?」
「ああ、まあ納得」
「だろ……ところで先程森で魔族に遭遇したが、これも実習の一環か?」
『はぁ?魔族だぁ?!』
ああ、と相槌をうちながらワタシは周りの魔力を出来うる限り感知した。
「感じ取る限りでは、増えてるな……10、いや20」
『感じ取るって……自前の魔力感知とか流石魔王、って20?!』
「ああ、もう少し多いがな」
『多すぎんだろ?!ってああ、加えて生徒と連絡も取れねえ!マズイ、死人が出る……てかもう出てるかもな』
ミヅキはあからさまに焦っていた。
現れた魔法陣の大きさから推測するに、精神干渉とやらは森林全体に及んでいるだろう。
マイン・セイヴハートにも効き目のある魔術なら、ほとんどの生徒が受けているに違いない。
それに加えて、どこかからの魔族の強襲。
「……!!」
浮かんだのはリリナとフィンの顔。
「……殲滅する」
『は?』
「今から一帯の魔族を殲滅する。協力しろ」
『な、いや助かるけどな。とりあえず待てよまだ現状の把握を』
「把握している間に死人が出るだろう!」
ワタシは魔力を足に込め、駆け出した。
マリと関係しない人間を助けるのはこれで初めてだろう。
それを自覚しながらも、ワタシは駆け出す。
なりふり構っていられなかった。
〜〜〜〜〜〜
黒い空間の中を私は彷徨い歩いていた。
何故だろう。ここにいると、私が生まれた時の事を思い出す。
仄暗い施設の中、宙を浮かぶ私。
周りには私を監視する大人たち。
そして私と同じように浮く仲間。
その中で私は教えられた。
従うべき主と目指すべき存在。
従うべきは「父」で、目指すべきは「姉」だと大人たちは言った。
その日から父に従い、姉を尊敬し続けた。
それしか許されなかった。
不必要な記憶はほとんど消され、ハッキリと思い出せるのは、この生まれた時の記憶だけ。
父と姉がいなければ、私は空っぽだ。
〜〜〜〜〜〜
「私は、空っぽ、私は、役立たず」
「おい!しっかりしろマイン!魔族が出てやべぇーんだよ!」
ミヅキは必死にマインの肩を揺する。
が、当のマインは涙を流しブツブツと同じことを呟くだけ。
その状態から回復する見込みはまるでない。
「お前の内包式があれば魔族なんて瞬殺だろうが!しっかり……」
「私は、空っぽ、空っぽなの、姉さん、姉さん。会いたいよ……」
「っ?姉さんて……もしかしてマリのことか?」
マインは応答しない。
「たくどいつもこいつも!なんなんだあの魔法陣よお!マインと俺とで効力に違いがあるん、だ、が……?」
ミヅキは何かに気づくと、ため息と共に立ち上がった。
その目に見据えるは4体もの魔族。
立ち塞がる城壁の如き巨体に対して、ミヅキは刀の柄を手に取った。
「ウゴケナイオンナ」
「アイツ、コロサナイトダメナヤツダ!」
「コロセ!コロセ!」
「全員下級か?どうやらマジらしいな……んでこんなのが」
「ウォー!!……ァ?」
雄叫びを上げながら飛び上がる数体の魔族。
だが、その肉体が地に着くことはなかった。
「ま、魔王に比べりゃ羽虫も同然だな」
視界に止まることすら許されない神速の一撃。
そして瞬く魔力の塵。
柄はいつの間にか白刃の刀へと姿を変えていた。
魔導器「薄刃の柄」
魔王には通じなかったその武器も、並の魔族にとっては十分な脅威。
ミヅキが武器を納める頃には、魔族の肉体はその四肢を保ってはいられなかった。
「「グバアアァァ!!!」」
ゴロゴロと崩れ落ちる肉塊。
出来上がった血溜まりを一瞥しミヅキはマインを担いで歩き出した。
「面倒だが、とりあえずは魔王様と合流か」
「姉さん……姉さん……」




