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その二十三 転機

 

 視界の外へと消えていく木達。迫る景色。

 ワタシたちは今、森林を走っている。

 何故走っているのか。当然追われているからである。


「う、うわあああああああ!!」


「オイマテー、マテヨニンゲーン」


「うわあああ!うわあああ!うわあああ!!」


 隣にはワタシと同じく疾走するフィン。後方には巨大な魔族がワタシたちと同じくらいのスピードで追ってきていた。


「フィンくん。黙って走った方が良いと思うよ」


「そんなこと、無理だよ!怖いの、怖すぎるからさあ!!うわあああああ!」


「ハハハ!ニンゲンッテ、オモシロイナァ」


 このくらいの魔族、ワタシからすればなんてことない相手なのだが、今はすぐ近くにフィンがいる。

 どうにかしてワタシとこの魔族の一騎打ちにできれば、簡単に殺せるのだがそうもいかない。


「んー。どうしようか」


「どうしようって、逃げるしかないよねえええぇ!」


「ハハハ、ニゲロニゲロ。オマエラガサイショノエモノダァー」


 刹那、ワタシの頭を閃きが通り過ぎる。


「そうだ!ねぇフィン君。この魔導器ってやつでミヅキ先輩に連絡できない?ワタシ使い方分からないの!」


「ミヅ、あっ、そうか!それがあった!待っ……あれ?」


「なに?」


「魔導器が反応しない!!」


 魔導器、所詮は人間のオモチャか。

 少しでも期待したワタシが愚かだった。


「あー、じゃあ二手に分かれない?魔族が追ってきたら逃げ続けて、終われなかった方が助けを呼ぶの」


「そんなの、追いかけられた方が絶対死ぬじゃないか!僕はいいけど、イルギエナさんが危ないよ!」


 今そういうのはいいのだ。

 ワタシが普通の人間ならその考えに感服するかもしれないが、生憎ワタシは普通ではない。


「このままじゃ2人とも巻き込まれて、どっちも死んじゃうかもしれないよ。それで良いと思う?」


「いや……でも」


「じゃあ!ワタシ右に曲がるから、フィン君は左ね!振り向かないで走ること!ほら5秒前!」


「え、え、ちょっとそんないきなり!」


 フィンの制止を聞くことなく、ワタシは指を折ってカウントダウンを始める。

 若干の早口で進められた秒読みはあっという間に終えられた。


「2、1、0!はい曲がって!」


「えええあ、はい!」


「アア!ドコイキヤガル!」


 合図と共に手を叩くとフィンは振り向くことなく、全速力で左に走って行った。

 そう、振り向くことなく。


「クッソー、ァードッチヲコロソウカナ」


 追う相手に迷ったのか、止まる魔族。

 計画通りだ。

 ワタシは踵を返し、魔族の方へと走った。


「オ?オンナノホウハニゲナカッタノカ?ジャア……」


 魔族はワタシ目掛けて突進する。

 その巨体はゴーレムの比ではない。力強さも、その身に秘めている魔力の量さえも。

 戦闘能力は普通の人間が太刀打ちできるものではなかった。

 だが、魔族とワタシとの戦いの結果は言うまでもなく……。


 〜〜〜〜〜〜


 フィン・ランネルは走っていた。

 わけ目もふらずに、一直線に、遮二無二に、無我夢中に。


「来ない、追って来ない、僕、イルギエナさんを……!!」


 フィンは苦しいほどの罪悪感に駆られていた。

 あの魔族は下級に分類される魔族だ。強さの度合いとしては最低である。

 だとしても、討魔師でもない生徒では歯が立たないほど魔族とは危険な生物なのだ。

 確かに彼女は強かった。いつか討魔師となれば大成していたであろう。だが、今の彼女ではダメだ。きっと敵わない。


「死んだ、死んだんだ!僕が、僕が殺したようなもんじゃないか!!」


 彼女を哀れんだ。涙を流した。だが、この足は止まらない。真っ直ぐに進むのみだ。引き返すことなんて欠片もしない。


「この、いっそこんな足、無くなっても_______________!!」


 視界が反転する。

 地についていた足の感覚が無くなり、浮いているような感覚に襲われる。


「……。」


「_______________なっ、なんで!なんで?!」


 フィンは足を捕まれ、宙吊りになっていたのだ。

 掴んでいたのは先程と同系統の巨大な魔族であった。


「な、なななんでだよ!イルギエナさんの方に行ったんじゃなかったのかよ!!」


「……?」


 魔族は何も言わずに、ただ首を傾げた。

 フィンは理解した。さっきの魔族とは別のヤツなのだと。


「なになに?どうしたの?なんかうるさかったけど」


「……ヘンナノ、ツカマエタ」


 フィンを掴んだ魔族とはまた別の魔族が背後から現れる。

 今度は小さい、人間と同じくらいのサイズの魔族だ。

 肉体のつくりも人間に近く、体つきはどちらかと言うと女性的である。

 そして、何より注目すべき点は流暢に喋れているところだ。


「ひっ」


 上級魔族。

 その言葉がフィンの頭を過ぎった。


「やーん。それ、人間じゃない」


「……コレ、マオージャナイ?」


「うーん、違うわね。魔力ショボショボ」


「……コロスカ?」


 殺す。その一言にフィンの体が恐怖で固まった。


「んーん。ちょっと待ってね」


「……コイツ、ブルブルシテル。メリル、コイツオモシロイゾ」


「はいはい。面白いわね」


 メリルと呼ばれた上級魔族は、頭上に生えた狐のような耳を2、3度動かした。


「!……ナア、ナンカアタマニキコエル」


「頭に聞こえる?何言ってるのよ」


 頭に聞こえる。その時、巨体の魔族の頭にはフィンの思念が浮かんでいた。

 それはフィンが無意識のうちに発動させた「内包式(スクロール)」の効果であった。


「シニタクナイッテ、コイツガ……?」


「ああ、わかった。人間さんの力ね。そうでしょ?」


「……」


「ねぇ、そうでしょって!」


「あっ、ぼぼ僕のこと?そ、そそそそそうだと思いますぅ!!」


「でしょー?……あ!いいこと思いついた!ね、人間さんはまだ死にたくないよね?」


「なんだよそれ……死に、たくない。当たり前だろ!死にたくないよ!」


「じゃあさ!私にちょーっと協力してくれない?その力を使って、おもしろいことするの!ね、いいでしょ?」


「え……?」


 上級魔族はあざとい仕草で、フィンにねだった。

 妖しく、その赤い目を光らせたまま。


 〜〜〜〜〜


 鳥が飛んだ。木々がざわめいた。

 その突然の出来事にミヅキ・レックウは静かに息を呑んだ。


「な、んだよこれ……」


 ミヅキが見つめる先。

 上空に森林を覆えてしまうほどの大きな円が出現していた。

 円は紅く煌々と輝き、中には文字と紋様が羅列が絶え間なく軌道上を動いていた。


「これ、ふざけたサイズだがまさか魔法陣、なのか……お?」


 数秒間、それが現れたと思うと吸い込まれるようにして消えていった。

 まるで何も無かったかのように、上空には何も残らなかった。


「っ?なん、だったんだ。おい、マイン。今の見た、か_______________」


 隣には立っていたマイン・セイヴハートに声を投げようと顔を向けた、その直後だった。


「あ!!?あ、うぐ……ああああああああぁぁぁ!!!」


 頭に割れるような痛みが走る。そして同時に脳内を流れる何かのイメージ。


 男女の死体。

 握った血濡れのナイフ。

 空に架かる虹。

 飛んでくる足裏。

 何かを喋っている子供。

 誰かの墓。

 そして、鏡に映る自分の顔。


「っ、ああぁぁあ!!殺す!殺してやる!俺が、俺のこのっ手で!!」


 イメージの直後、ミヅキの感情は怒りに染まっていた。

 分からない、何故怒っているのか。何を恨んでいるのか、本人ですら分からない。だが、そうするべきだと何かがミヅキに思わせていた。


「殺す!殺す!!俺が!お前を!ぉぉぉぉおおあ!……ぁ?」


 突如、ミヅキは正気を取り戻した。

 怒りが消えたわけではない。今もその頭にあるのは謎の怒りだ。


「ふぅ。ふぅ……はぁ。なんだ。なんで、俺」


 ミヅキは落ち着いていた。

 熱が冷めるように、息を吐くたびにミヅキには正気が戻っていった。

 なんの不思議なことでもない。五聖(グローリー)の「戦士の位(ウォーリア)」あってのものなのか、この落ち着きは彼自身の自制心から起こったものだった。


「……そうだ。マイン、おい見たか今、の」


 目に入ったのは、(うずくま)るマインの姿。

 ミヅキは謎の現象に疑問を持ちながらも、マインの方へと駆け寄った。


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