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その二十二 巨体

 

「すごい!すごいよイルギエナさん!」


「ああー、もういいよ。凄いのはわかったから」


 ゴーレム討伐後、ワタシはフィンからひっきりなしに賞賛を受けていた。

 剣の達人だの、剣術科の希望の星だの、と気恥しいような称号を次々と口にしていくフィンに流石のワタシもうんざりしていた。


「あっ!もしかしてイルギエナさんって有名な剣術家の娘とかだったりしない?」


「違う、違うから。ほら、ゴーレム探そうよ」


「え、違う?じゃあ_______________」


「おうおう!フィン君よお!随分と機嫌が良さそうじゃねえか!」


 唐突に森の中から響いてきた声。その声を聞くやいなや、フィンの顔は青ざめ、跳ねていた体を止めた。


「あ、ああ……ルークくん、とショルくん」


「おうおう、どうよ?ゴーレム退治の方は」


 そう言うと、大柄なピアスの男は威圧的な態度でフィンの肩を組んだ。


「俺とショルは1体とっくに倒したぜ。お前の方はどうだ?まあ、お前のことだからその剣すら抜けてないんだろうけどな!」


「そ、それは……」


「魔術科に編入するって夢はどうよ?近付けそうかよお?応援してるぜ(笑)」


「は、はは。ありがとう」


「お?アンタがフィンのペアっスかあ?」


 ピアスの男の後ろにいた小柄な男が、ニヤけた(つら)でワタシを見た。


「そうだけど」


「アンタも災難っスねえ!こんなグズと組まされるなんって!」


「そんなことないと思うけど」


「いやいや、知らないかもっスけどこいつは筋金入りのダメ男なんスよ」


「あっそ……」


 なんだろう。

 タリムとはまた種類の違うムカつきを感じている。ワタシはどうもコイツらのことが気に入らないようだ。

 彼らがフィンの知り合いであることは確かだが、どうも様子がおかしい。フィンは好き勝手言っている彼らに言い返す気もないようだ。


「で?どうなんだ?核は何個取れたのかなあ?」


「いやぁ〜、是非聞きたいっスねぇ」


「まだだよ……まだ、うちのペアは1個も取れてないんだ」


 2人の男の笑い声が森を木霊(こだま)した。

 理解できない。何故、フィンは嘘をついたのか。コイツらよりも核を持っているのだと言ってやれば良いものを。


「だと思ったぜ!どこまで頑張っても所詮グズはグズなんだな!」


「奪い取ってやろうと思ってたっスけど、それも無理みたいっスねぇ!」


「どうせゴーレムを前にして一歩も動けなかったんだろ?」


「いやいや、きっとコイツは怖すぎて探そうともしてないんスよ」


「っ……」


「魔術科への道、遠ざかっちまうかもなあ?!」


 肩を震わすフィン。それを大声で笑う男たち。

 この光景を見てさらに言いようのない怒りが込み上げてきた。

 ワタシが貶されているわけではない。マリが馬鹿にされているわけでもない。

 なのに、どうしてこうも頭にくるのか。


「ねえ、あるよ。ゴーレムの核」


「イルギエナさん……?」


「は……なにィ?3つもだあ?!」


「イ、イルギエナさん!ダメだよ!」


「フィン君は黙ってて」


 ワタシは核を3つ、手のひらで放り上げて見せた。


「なんだそれ……どうやって」


「ゴーレム倒して、に決まってるよ。それくらい分かるでしょ」


「3体も……!嘘つけ!俺たちだって何回も挑んでやっと手に入れたんだぞ!汚い手使ったんだろ!」


「普通に取ったけど。ま、貴方達に才能がないんだよ。剣振り回すよりも、声を張り上げる方が向いてると思うな」


「てめぇ、女だからコッチが手ぇ出せねぇと思ってんのか?」


「なにそれ。女に手を出せないほど、貴方は臆病ってこと?」


「っ、んだとぉ!?おい女……痛い目みたいか?」


「痛い目あわせてやるって。それ、私のセリフ」


 死ねぇ!とピアスの男は雄叫びを上げながら地を蹴った。

 拳を振り上げながら駆けるそのフォームは実に滑稽。ゴーレムの動きの方が効率的とまで言える。


「イルギエナさん!危ないよ!」


 叫ぶフィン。

 迫るピアス男はワタシの近くまで来ると、間髪入れずに殴りかかってきた。その動作だけはゴーレムよりもスムーズで精密。だが……。


「えい」


「ガボガアッ!!!」


 いとも容易く迎撃。

 ワタシの拳より繰り出されるは、普通のパンチ。単純な筋肉の動きと捻りから生み出された一撃がピアス男の頬を抉った。


「ルルルル、ルークくぅん!!」


「あが……ぁ、ぉ」


「これは、フィンの分だ」


 誇らしげにワタシは呟く。

 最近のワタシの愛読書「いざ、友情 〜真の漢編〜」では、友の無念を晴らす時にはこう言うものだと記されていた。

 今、それを実践したワタシの心は実に晴れやかであった。


「ぎぁ、ばば……ば」


「よくもルーク君を。て、てめぇ!覚えてろ!」


「ふっ、いつでもかかってきな」


 お手本のような捨て台詞を吐いてから、小柄な男はピアス男を抱えてどこかへ消えた。

 まさか望んでいた台詞(セリフ)まで言ってくれるとは。


「よし……ふぅ。一件落着」


「イルギエナさん……ごめん。僕なんかのせいで」


「ん、なにが?」


「あのルークって生徒。僕の地元じゃ有名ないじめっ子だったんだ。次はイルギエナさんがいじめの標的になるかもしれないからさ……その、ごめん」


「その時はまた返り討ちにする……!それに、こういうときは謝るもんじゃないぜ」


「……?」


「あ……えと、ありがとうって……言って欲しかったんだけど」


 これも「いざ、友情 〜真の漢編〜」より抜粋。だが、現実は本の通りにはいかないようだ。


「あ、ごめん。じゃなくてありがとう……いや、でも本当に感謝してるよ」


「うん、それでいいよ。私はやりたいようにやっただけだから」


「それでも、ありがとう。僕のため、じゃなくても」


「……どういたしまして」


 ズドン


 地響きのような音が森の中に響いた。

 ピアス男達が逃げた方向とは逆だ。音は徐々に大きく、近づいている。原因はすぐそこに居るようだ。


「なんだろ……また、ゴーレム?」


 ズドン ズドン ズドン


 一歩一歩踏みしめるように、ソレは距離を詰めていく。

 やがて、その巨体は姿を現した。


「ア?ニンゲン、ミッケ」


「な、な、ななななんで」


 フィンの身体が、恐怖で震えた。

 ゴーレムより一回り、いや二回りも大きな巨躯。丸太のような手足。全身に浮き出た血管。

 その人ならざる者とでも言うべき出で立ちはまさしく、奴らだ。


「あ、あれ、ま、魔族、魔族じゃ_______________!!」


 金色の瞳が薄暗い森林の中で不気味に輝いた。


「ハハァ、コロシテイイヤツ……」


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