その二十一 普通の生徒
葉のざわめき、剣の止め具が鳴る音。
ワタシは木々のカーテン中をある人間と歩いていた。
「うう、緊張するなぁ……」
静寂を一人の男が破った。
男の名前はフィン・ランネル。同じレガート出身の生徒である。眼鏡と耳が見えないほどの長い横髪が特徴だ。
「イルギエナさんは平気そうだね。こういうのには慣れてるの?」
「ううん。初めて」
「そ、そっかあ。僕が緊張しすぎなのかな?」
「……さあ、どうだろうね」
まだ周りには何も見えていないというのに、フィン・ランネルは恐る恐るで足を進めている。
彼がここまで怯えているのは理由がある。
聞いた話(リリナ談)では、この学校は実習内の成績や態度で進級する生徒の配属を決めているらしい。
彼が怯えているのは、この実習がクラス分けの判断材料の1つになるからである。
「イルギエナさんは、行きたいクラスとかないの?」
「クラスか……特にないかな。だからあんまり緊張してないのかも」
「そっか……僕はさ。将来、魔導器を作る職業に就きたいんだ」
「魔導器?……ああ」
ミヅキがいつだか使っていた、刀身の無くなる武器を思い浮かべた。
あのオモチャか。
「そのためにも、僕は魔術科に行かなくちゃいけないんだ。成績が良ければ、剣術科からでも魔術科に入ることができるから」
「え……?じゃあなんで今剣術科にいるの?」
「それは……」
フィンは少し言い淀んだが、すぐに答えた。
「もちろん単純な実力もあるんだけどね。僕の内包式が役に立たなかったから、なんだ」
「何、「内包式」って」
「えっ、」
「え?」
「し、知らないの?内包式だよ?」
「……」
500年余に渡る記憶のリソースを探しまわるが、該当するものなし。つい最近に人間が作った言葉だろう。
「ええと、イルギエナさんって、もしかして大昔の人だったり……」
「えぇ?!……さ、さあ?どうだろう」
「あ、ごめん。冗談……下手な冗談だよね」
場はシンと静まり返る。
冗談か。危なかった。ここまで隠し通してきたことがただの一生徒にバレたのかと思った。
「……あっ、その。「内包式」ね!簡単に言うと、人がそれぞれ持ってる術式みたいな物なんだ」
「……やっぱり初めて聞く言葉だよ」
「人はみんな生まれつき内包式を持ってるんだけど、それが使えるのは才能がある人だけなんだ」
「フィン君は使えるの?」
「いゃ、そんないきなり下の名前で……う、うん!使えるよ」
フィンはボソボソと喋った後、おずおずとワタシの前に手を差し出した。
「……?」
「その、握手、してみてくれる?」
ワタシは言われるがままに手を握った。
握った直後、頭の中に響き渡るような声が聞こえた。
『聞こえる?これが僕の内包式なんだ』
「これが……内包式?」
『人によって刻まれた術式は違うんだ……だから、これは僕だけの内包式』
フィンが手を離すと、頭に語りかけるような感覚は無くなった。
不思議な体験だった。
「触れた人に語りかける力。こんなの、何にも使えないよね。今なんて魔導器があれば離れてても会話できるんだし」
「まあ、そうだね」
「あ……ごめん。自分のことばかり喋っちゃって」
「そうかな。私は別に良いと思う」
ワタシは、ワタシに関しては喋れないから。とは言わなかった。
「でも、これから頑張れば魔術科に行けるんでしょ?応援してるよ」
「うん……ありがとう」
ドゴォン!!
静まり返った雰囲気をぶち壊すような轟音。そして現れる3つの巨大な影。
「あ、あれ_______________」
「何あれ」
「ゴーレム!ゴーレムだよ!それも3体!」
「あれが?」
動く巨大な土塊のようなものが目の前に立ちはだかった。
ワタシはとりあえず剣を抜いて、戦闘態勢をとった。
「あれのコア?を取ればいいんだよね」
「うん。ゴーレム自体は僕達でもなんとかなるくらい弱いから安心して。攻撃されても防具があるから」
「あっ、そう」
「でも問題はコアの_______________」
話を聞くことなく走り出した。
コアの位置は分からない。だが、ワタシの培ってきた直感が、突くべき位置を知らせている。
近づくと、ゴーレムはワタシに反応し手を振り上げた。
「遅いな」
苦笑をこぼし、剣を振った。
標的は首の後ろ、左胸、それと右膝。
ワタシのコアに向かっての攻撃は、ゴーレムの拳が達するよりも早く終えられた。
「_______________コアの位置を割り出すことだから!2人で協力して……あれ」
「ん、ゴーレム自体は私達でなんとかなるんだよね?」
ドズン、と崩れるゴーレム達の上で剣をしまう。
その様子にフィンはポカンと口を開けた。
「で、ここからどうするの?どこからが大変?」
「す、すごい、すごいよ!!イルギエナさんすごいよ!」
え、と思わず呆けた顔で声を出した。
フィンは異様に興奮した様子でワタシの手を握って飛び跳ね始めた。
わかる、わかるぞ、ワタシはまた見誤ったのだ。普通の人間としての力量を。




