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その二十 急迫

 

「さて、みんな揃いましたか」


 無精髭眼鏡の担任が面倒そうに呼びかけた。

 ここは学校外のとある森林の中。

 クラスの面々は学校の実習授業のためにこの森林に来ていた。

 現在ワタシはこの森で深刻な事態に瀕している。


「はい。今日の昼の授業は君たちの実力を測るための大事な実習なので、真剣にやるよーに」


 真剣のそれとは程遠い調子で担任は続けた。


「森にいるゴーレムの核を生徒同士のペアで取りに行ってもらいます。怪我をするかもしれませんが、目付け役の人を呼んでいるので安心してください」


「目付け役のミヅキ・レックウでーす。よろしく」


「同じく、マイン・セイヴハートです!よろしくお願いします!」


 クラスメイト達がざわめきだす。

 もちろん嬉しさや興奮が混ざったようなざわめきだ。

 そんな中でワタシは背を落とし、息を潜めて目付け役の1人を睨んでいた。


「ただし、実習でのペアはコチラで決めますのであしからず。呼ばれたペアは武器と防具を支給するので取りに来て下さい」


「ですって!マリちゃん、タリムさん、一緒だと良いですね」


「静かにしていろ!マリ様は今窮地に陥っているのだ!」


「え、そうなんです?どうして?」


「教えん!そもそもマリ様のペアは私になるに決まっているだろう!貴様は見知らぬ人間とでも組んでいろ!」


「ごめん、タリムさんの方がうるさいんだけど」


 申し訳ありません、と前にいたタリムは肩を落とした。

 だが、今はタリムに構っている暇はない。

 何故か。それはすぐそこにマイン・セイヴハートがいるからだ。

 見つかってはいけない。あのミヅキもわかっている事だ。


「_______________ペアその5、タリム・レッドゲイルとリリナ・テガローナ」


「まあ!タリムさん、私とペアですよ!」


「なぁ?!認めんぞ、私はマリ様と_______________」


「さあさ、支給品を受け取りに行きましょう!」


 ワタシの名前を叫びながら、タリムは引きずられていった。

 前方でマインから遮ってくれていた2人がいなくなってしまった。だが、まだ見つかっていない。

 こちらの状況を察してくれているのか、ミヅキがワタシをマインから遠ざけようとしているからだ。


「……今、誰かマリって言いました?聞こえましたよねミヅキさん」


「あー、気のせいじゃねぇの?俺は聞こえなかった」


 向こうでミヅキとマインがワタシのことを話している。

 しまった。タリムのせいだ。殴って黙らせておくんだった。


「_______________ペアその16、マリ・イルギエナとフィン・ランネル」


「ん!!ほら、今先生が呼びましたよ!」


「マリって名前のくらい何人いてもおかしくねぇって。ほらその辺に座ってろよ」


 マインはミヅキに言われ素直に座るが、その視線は常に先生の方を向いている。

 これでは支給品を取りに行けない。いや、支給品くらい無くても良いのだが。

 ワタシはその場に待機したまま、機を伺った。


「先生。マリ・イルギエナさんの支給品を渡してください。彼女に渡すので」


「はあ、タリムくんか。わかりました」


 いつの間にかそこにいたタリムがワタシの分を受け取った。ファインプレーである。これでこそ忠臣である。

 こうして、ワタシは何とか危機を回避することで実習を無事に開始した。


 〜〜〜〜〜〜


『はい、皆さんそれぞれ位置に着きましたか?それでは、実習開始』


 通信用魔導器から聞こえる気の抜けた声と共に実習は始まった。

 監督役であるミヅキとマインは森林と校舎が隣接している場所で待機していた。

 魔導器から生徒のSOSが来たら、どちらかが救援に向かうのである。


「マイン。なんでお前ここにいるんだ?」


 ミヅキは困ったような口調でマインに聞いた。

 本来、この実習に目付け役として呼ばれていたのはミヅキのみだった。

 彼一人で十分であったし、上級生もそうそう暇ではないからだ。

 ましてや、マインのような優秀な生徒が、実習の監督役に気軽に呼ばれて良いはずがなかった。


「……聞いてなかったからです」


「うん?」


「前にミヅキさんに相談した姉に似た生徒のことです。結果をまだ聞いてません」


「結果って言ったってなあ。まだ進展なしだぞ」


「その生徒と接触したんでしょう」


「んなわけ……もしかしたらそんな生徒そもそもいないんじゃないのか?」


「ウソですね」


 マインは冷たく言い放った。

 それは普段の彼女を知っているミヅキからすれば、少し意外だった。

 普段の彼女は真面目な生徒だが、先輩に対しては一歩退いたような遠慮があったからだ。


「一昨日に「薄刃の柄(ライキリ)」を使用した形跡がありました」


「それ、なんだったかな」


「とぼけないでください。ミヅキさんの魔導器です。この学校ではミヅキさんしか使っていません」


「あー、そうだっけ。王都の郊外で魔族に使ったやつかな?」


「その魔導器の形跡が第一演習室のドアに空いていた穴から見られました」


「同じ形跡……って、え、今そこまで調べられんのか?!」


「ウソです。刀で貫いたような跡がドアにありましたが、そこまで調べられませんでした」


「ああ……そっか」


「はい……それで、昨日演習室にいましたよね。何してたんですか?」


「いやぁ……とある生徒と手合わせをちょっとね」


 マインは静かに詰め寄る。彼女らしからぬ、真剣な雰囲気で。

 ミヅキはわざとらしく口笛を吹いているが、そこまで余裕がある様子には見えなかった。


「やはり、何か隠してますよね?」


「あっはは……なぁ、この話やめようぜ?」


 ひと時の静寂。マインはミヅキをじっと見つめ、ミヅキはその瞳から顔を逸らした。

 やがてマインは諦めたように、視線をミヅキから外した。


「今日中には聞きますから、覚悟してくださいね?」


「あっそう……俺、今日早退しようかな」


「はいご自由にどうぞ。その代わりマリ・イルギエナの救援は絶対私が行きますので」


「……はい」


 ダメだ、終わったかもしれねえ。

 ミヅキは心の内でそう思った。


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