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その十九 感情の行く先

 

 図書館での模索を終えた後、ワタシはウェルスと別れ、外へ出た。

 出てすぐに空を見ると、もう日が暮れかけていることに気づいた。

 オレンジ色の空の中を赤い雲が流れている。


 「封印の間」にいた頃と比べると時の流れが早く感じる。

 きっとこれは退屈な時間が少なくなったからだろう。

 人間の寿命は100にも満たないのを考えると、人間の一生とは実に短いものだ。


「ついでに観光でもしてこい。どうせ通学路しか通ってないんだろ」


 ふと、今日聞いた言葉を思い出した。


「……もう少ししたら、帰るとするか」


 ワタシはわざと帰り道から逸れ、メインストリートを歩き出した。


 〜〜〜〜〜〜


 メインストリートを歩いていると、大きく開けた場所に出た。

 王都の中心に位置する場所なのだろう。

 そこは人の通りが多く、他の場所と比べると賑やかな雰囲気だった。

 中心には噴水と大きなオブジェクト。端にはしまわれようとしている出店が見えた。

 もうすぐ夜が来る、そう感じられるような風景だった。


「ママー、今日は晩ご飯なにー?」

「よっしゃー、今日もお役目終了だー!!」

「すぐ帰るから家で待ってろ、な?」


 ワタシは噴水の塀に腰をかけて、通り行く人間たちを眺めていた。

 通る人々は皆夕日に照らされてるからなのか、幸せそうに見えた。

 この人間の一人一人に大事な人がいて、それぞれの生活があるのだろうか。

 ワタシとマリがそうであったように。


「……いかんな」


 マリの身体になってから、思考が感傷的になっているのを感じる。

 この身体が原因か?そうじゃないとしたら、この感情はどこからくるものだ?

 何も考えずに人を葬っていたあの頃の自分なら、こんなこと考えなかっただろう。

 魔王も平和に毒される。

 ワタシとて完璧なる魔王ではないのだと気づかされ、少し不安になった。


「わっ」


 突如、声と共に暗転する視界。

 目蓋の辺りに確かな温もりを感じられた。


「誰でしょーか?」


「……リリナでしょ」


「フフッ、正解です!こんにちはです!マリちゃん」


 言葉と共に視界が戻る。

 後ろを見ると、そこにはロングスカート姿のリリナがいた。

 風の魔術だろうか、噴水の水面上をわずかに浮いている。


「リリナさんっ!マリ様に無礼なことをー!」


 首を前に戻すと、遠く向こうから制服姿のタリムが走って来るのが見えた。


「あ、ごっごめんなさーいタリムさーん!友達にこういうことやるのに、憧れてましてー!」


「……リリナ、別にいいんだよ。タリムさんの言うことなんて気にしなくてもさ」


「いやでもタリムさん、マリちゃんに何かするとすぐに怒っちゃうので謝れるときは謝っておこうかな、と」


「……ふふ、なにそれ」


「あれ、マリちゃんなんか元気ないです?」


「ぜっ、は_______________マ、マリ様。従者タリム、主の危機を、嗅ぎつけ、馳せ参じました」


「何?主の危機って。何にもないけど」


「今、目を塞がれ、一瞬ですが、視界を」


「タリムさんは何にでも、忠を果たそうとするね」


「はい……貴女様の、忠臣、ですので」


 タリムは(ひざまず)いた体勢で、息を切らしながらニヤリと笑った。

 その様子に少しイラッとした。


「そう……ところで2人とも、何で王都にいるの?今日は学校休みだよね」


「初めての休みなので王都の観光に来たんです!タリムさんとは偶然会ったので一緒に観光を、と」


「何が一緒に、だ。貴様が勝手についてきた……のでしょうが」


「タリムさん?ちょっと、言葉遣いが荒いかな」


「……。」


 無言で(ひざまず)くタリム、可笑しそうに笑うリリナ。

 相変わらずだ。昨日と同じ光景、これがこれからも続くのだと思うと少しだけ安堵が生まれた。


「タリムさんはどうしてここにいるの?」


「はい。そもそも私は王都に住んでおりますので」


 そう言うとタリムは制服の襟にあったバッジの1つを外して見せた。

 城を模した、黒いバッジだった。


「王都に住むものはクラスを分類する三国のバッジとは別にこのバッジを受け取ります」


「へぇ、知らなかったです。タリムさんは王都住みなんですね」


「……あれ?でも朝にレガートからの王都行き列車で会ったよね?」


「それは、もう。マリ様に会うために、でございます」


 タリムはワタシに向かって、バチンとウィンクを決めた。

 うっとおしい、と仕草だけで心の底から思ったのは初めてだった。


「私は図書館に調べもの。王都に着いたのは昼過ぎだけどね」


「そうなんですか……もっと早くに会えてたら3人で王都を回れてたかもしれませんね」


「また、今度の休みにでも来ようか」


「貴様ごときがおこがまし……ん゛ん゛!そうですよ、時間はいくらでもありますから」


「……そうですね」


 慣れてきたのか、リリナは微笑みながら相槌した。


 唐突に吹く夕風。

 水の流れる音と葉の擦れる音が周りの風景を意識させる。

 人の通りは疎らになってきており、もう帰るにはいい時間だ。

 見上げると、起きたときは真上にあった日が随分と遠くに見えた。


「私はそろそろ帰ろうかな」


「そうですね。じゃあ、今度こそ一緒に帰りましょうか」


 そう言うと、リリナはワタシに向かって手を差し出した。


「はい」


「……?」


「どうしました。ほら、立ち上がらないんです?」


「あっ、そっか」


 ワタシはリリナの差し出した手の意図に気づき、手を引いて立ち上がった。

 気づけなかったのだ。

 ワタシはしたことがなかったから。あの頃の(ワタシ)には、手足のなかった(ワタシ)には、そんなことできなかったから。

 過去に出来なかったことをしたと思うと、少しだけ嬉しくなった。


「ありがと」


「はいっ!どういたしまして」


「私がやろうとしたのに……」


 魔王という正体を隠しながら、魔族という正体は伏せながら、ただの人間の生徒のように、人混みの中を3人で歩いた。


 そこで気づいた。

 さっきまで見ていた幸せそうな人間たち。

 傍から見れば、今のワタシもそう見えるのではないか?

 その事実に少し、胸が熱くなった。これが何の感情なのかは、なぜだか上手く説明できない。


 〜〜〜〜〜〜


 暗闇、王都内にある小さな森の中。

 ある影が暗躍していた。


「ポータルを繋ぎました。コチラはいつでも行けます」


「決行は明日になるですね。適当に兵を用意しておけば十分かと」


 影は1つだが、誰かと会話しているようだ。


「罪悪感?感じるわけないですよ。相手は人間ですからね」


「分かってます。あっちは誰も予測できませんから。魔族が急に何も無いところから現れるなんて」


「……ああ、最悪殺しても良いと。旧魔王以外のやつなら」


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