その十八 2人目の従者
王都立図書館
対魔族学校のすぐ近くに建てられている図書館である。
王都に関する歴史等、公表することが許されている図書や資料を収集、整理し、管理している施設である。
もちろん、魔王を討伐したセイヴハート家に関する資料も揃っている。
ワタシは図書館の入り口前まで来ていた。
「ほう、ここが図書館か」
「初めてみたいだな。魔族の世界には図書館は無かったのか?」
「ここまで文明は発展していなかったし、魔族には残すほどの歴史や情報は無かった」
なるほどな、とミヅキは感慨深そうに顎をさすった。
ここまでの道案内はミヅキにしてもらった。
さっきの「暗殺者の位」といい、王都の存亡がかかっているだけあって王都の人間は協力的だ。
この調子ならマリの無念を晴らすまでそう時間はかからないだろう。
「さてと。んじゃ俺は学校に戻りますかね」
「うむ、ご苦労。何か有益な情報があれば共有する」
「本にのってるような情報じゃ、深くは知れないだろうけどな……いいか。目立つなよ。絶対に目立つなよ!フリじゃねぇぞ?!」
「うるさいな。分かっている」
ミヅキが踵を返し、学校へと歩いていくのを確認すると、ワタシは図書館内へと進んだ。
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自動で動くドアをくぐると、特有の紙の匂いと共にその小綺麗な内装が視界に広がった。
思いのほか人の通りは少ない。
1歩進むとまず木製のカウンターが目に入った。
「……。」
カウンターに座していたのは受付役をしている生徒。
ワタシと同じ制服だ。
図書館の運営には学校も関与しているのだろうか?
ワタシが入って来たのに気づいたようだが、気にする素振りもせずに本を読んでいる。
「す、すいません」
「……。」
話しかけてもなお、受付の生徒は何も言わない。
よく見ると生徒は中性的な顔立ちをしていた。
男なのか女なのか分からない。
「セイヴハート家についての歴史本を探しているんですけど、場所を教えてもらいますか?」
「……。」
生徒は何も言わずに文字と数字が書かれた紙を差し出し、近くにあった本棚を指さした。
見ると、本棚には紙と同じように文字が彫られてあった。
どうやらこの図書館は本棚の文字に合わせて本を分類しているらしい。
つまり、この紙に書かれた文字の棚を探せば良いワケだ。
「ありがとござい、ます。この文字を探せば良いんですよね?」
「…。」
生徒は黙ったまま小さく頷いた。
無愛想な奴だ、とは口に出さずワタシはその場を後にした。
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目的の本棚を見つけるのにそう時間はかからなかった。
数個の文字を探すだけで目的の本の位置が分かるとは、人間にしてはよくできた整理法である。
早速、見つけた棚の中からセイヴハートの本を探し始めた。
が、その棚には目当ての本が……ある。ありすぎる。むしろセイヴハートに関する本しかないのである。
幼児が読むようなコミカルな絵本から、無数の文字が連なった重苦しい小説まで、その種類は多岐にわたっていた。
「ぬう……」
「どうかしましたか?」
どの本にするか決めかねていると、横から声をかけられた。
どうも同じ本棚を見ていたらしい、制服の生徒であった。
容姿端麗な銀髪美少年といった感じの生徒である。
「セイヴハートについて調べようと思っていたのですが。どうも本が多くて、どの本を読めば良いのか……」
「何について知りたいのでしょうか?」
「……なんて言ったらいいか」
「セイヴハートの歴史は長いので、ある程度調べる内容は絞った方がいいですよ」
「絞る……あ、最近の。最近のセイヴハートについてが知りたいです」
「最近?貴女もしかして……」
生徒は少し迷うような素振りをした後、口にした。
「マリ・セイヴハートの死について知りたいのでは?」
「なっ_______________?!」
瞬間、そこにいたはずの生徒の姿が消える。
そして吹いた一陣の風。
室内なのに、風。
その異常な現象に眉をひそめた直後に、首元を走った冷たい殺気。
ワタシはその殺気を直感的に察知し、迫る凶器を既の所で止めた。
「なるほど_______________流石です」
銀髪の生徒は低く唸るように呟いた。
静止したワタシの右手に握られていたのは、氷のナイフ。
「貴様、どういうつもりだ?コレは私が誰か分かっていての狼藉か?」
振り返ると、生徒は素早く飛び退き、その場に跪いた。
「は、申し訳ありません。貴女が本当に「魔王」なのか試させてもらいました……私に対しての処罰は、どのようにも」
「処罰か。まずは名乗ってもらおう」
「私の名はウェルス・ブルーファング。タリム・レッドゲイルと共にこの王都を潜入調査しに来た者でございます」
「タリムと、潜入調査?……ああ、そんなこと言っていたな」
魔術科には私とは別で潜入している魔族がいます、といつかタリムから聞いていた。この男がそうなのだ。
「何故わざわざ試した」
「申し訳ありません。タリムが騙されている、という可能性があったので」
「ああ見えてポンコツだからな。で、証明できたか?私が魔王だと」
「はい。それは、もう」
ウェルスと名乗った男は、淡々と喋った。
ワタシがどんな人格か分かっていないにせよ、死の危機に瀕しているというのに男からは恐怖の感情が見えない。
死ぬのが怖くないのか。
それとも死を覚悟で確かめる必要があったのか。
「まあいい……許してやる。怪我はしていないしな」
「は。これよりはこの命、貴女様のために」
「いいだろう。その様子ならタリムから私のことは聞いているんだな」
「はい。昨日の夜、監視中であったタリムから聞きました」
「あ?……なに、監視?誰を?」
「無論、魔王様を、です」
「はあ?!私を監視ぃ?しかも昨日の夜って」
「魔王様が五聖の1人と会話している時にですね」
「なっ、アイツ……」
放課後呼び出されたとき、妙に聞き分けが良いと思ったら……何か仕込んでいたらしい。
おそらくミヅキとのやり取りは全て筒抜けだったのだろう。
「ヤツめ、許可なくよくも……はぁ」
「すいません。彼女に悪気はないんです」
「だろうな。悪気なくそういうことをする奴だ」
「ただ貴女の、魔王様の役に立ちたい、彼女の中にあるのはそれだけなんです」
「……その口振り、タリムとは仲が良いと見える」
「はい。幼い頃から魔王様に憧れていたタリムを見てきました……彼女とは友達、だと思います」
「いわゆふ親友というやつだな」
「……はい」
親友。
ワタシとマリのような関係。その言葉に少し揺れた。
ウェルスの口にしたその言葉だけは、感情が乗っているように感じられたのだ。
タリムの人間を憎むのも、ワタシに付きまとうのも、少しは許そうという気持ちになった。
「まあいい。許す……ところでウェルス、貴様良い本を持っているな」
「ああ「瞬でわかる、セイヴハートの昔と今」ですか?魔王様が復活なされた今、私にはもう必要のない情報です。望むのならどうぞ」
「いや、それも必要だが、そのもう1つのが欲しい」
「あっ、な。これは……」
ウェルスの抱えたその本にはこう書かれてあった。
「目指せリア充!学校生活のすゝめ」
「いいなそれ。私に寄越せ」
「これは。魔王様には必要ない、かと」
「我魔王ぞ。さあ、差し出せ」
「いや、これは」
「さあ!」
「あっ、くっ_______________!!ど、う、ぞ」
「は、ははは。魔王特権だ、ありがたく受け取るぞ」
「〜〜〜〜〜っ!!」
これまで以上に感情の乗ったウェルスの表情を後に、ワタシはその棚から離れていった。
従者を持つ王とはかくあるべきである。




