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その十六 深淵


 ミヅキ・レックウは焦っていた。

 事態は生徒会委員室にて進行中。

 その原因となる少女(?)はすぐそばで笑んでいる。


「どうした?随分と焦っているようだが」


 ミヅキの目にはかつての友人、マリ・セイヴハートの姿が映っている。

 彼女は現在マリ・イルギエナと名乗っているがその正体は……。


「待て、お前はまだ自分が魔王だと名乗っていないな?仄めかすようなことは言ってはいたが……もしかしたらただの」


「? 私が魔王だが」


「ああ……そうか」


 息の根を止めるような一言。

 そう、この女の正体は魔王であるらしい。


「つまり。つまり、お前は魔王である、と」


「言ってるだろう。だったら何か悪いのか」


「悪いも何も……いや仮にお前が本当にあの魔王だとしたら、何故マリの姿なんだ?」


「……それは私にも分からない」


 なんなんだコイツ、とミヅキは思った。

 魔王というのは大昔の魔族の王を指す名である。封印されて500年が経過するが、今の今までなんの動きもなかった、ただ封印されていただけのはずである。

 その魔王が今、死んだ人間の姿でこうして目の前に現れている。


「分からないって……だっ、だとしたらなんでこんな所にいるんだよ?!」


「お前が連れて来たのだ」


「ちがっ、そういうことじゃねえ!」


 ミヅキは頭を抱えた。

 突拍子の無さすぎる状況だ。

 悪い夢でも見ているのかと混乱した思考は逃避を始めようとしている。


「全く、狼狽えすぎだ」


「狼狽えるなって方が無理なんだよ!」


「別に今からお前ら人間を滅ぼそうとはしていない。するつもりならとっくに始めている」


「違う、そういう問題じゃねぇんだ」


「なら、何だと言うのだ」


「……魔王様(仮)(カッコカリ)。お前は3つの大国が少し前まで戦争していたことを知っているか?」


「何を唐突に……知っているぞ。レガート、ダイロニア、ミンシアとかいう3つの国が争っていたのだろう。封印されてる間に聞いたことがある」


「その争いの原因。火種となったのが、魔王の遺体なんだ」


「そう……なのか?」


「それも知らねぇんだな」


 ミヅキはゆっくりと話した。

 混乱した脳を休めるように。

 今ある状況を整理するように。


「並外れた魔力を秘めていた魔王の遺体は、本体である頭部が封印された後でもその膨大な魔力を保有し続けたんだ」


「ああ……もう(おおむ)ね予想できる。頭部以外の、その遺体を国同士が取り合ったのだろう」


「ご名答だ。魔王の遺体は運用の仕方によっては、国1つくらい簡単に滅ぼせる程だった」


「なら、私が討伐された直後の遺体はどこの国が持っていたのだ?そいつらがいればそもそも戦争など起こらなかったろうに」


「遺体は当時の五聖(グローリー)が管理していた。国1つ相手を返り討ちにできるくらい、その時の五聖(グローリー)の力は強大だったと聞いている」


「遺体はどの国の持ち物でもなく五聖(グローリー)の物だったワケだ。結局、三国の戦争は決することなく休戦という形で時代は流れていった」


「なら、何も問題ないだろう」


「友好条約を結ぶ場として王都が作られたし、つい最近三国がそこで友好条約を結んだ。これで終戦なんだなって皆、呑気に考えてたよ」


「……?」


 自称魔王が首を傾げた。

 察せていないようだ。この魔王、どこか抜けているというか、察しの悪いところがある。


「水面下で戦争は続いてんだよ。ちょっと大袈裟な言い回しだがな」


「……まだ遺体の取り合いは続いている?」


「取り合っているってより、探し回ってるって感じだな。遺体は王都内に隠してある。それを探し続けている三国から今もなお遺体を守ってるのが、俺たち五聖(グローリー)ってわけだ」


「……。」


「ちなみに魔王の意識を保持し続けている魔王の頭も、遺体の一つとしてカウントされている。てかそっちの場合は宿ってる魔王の意識の方が重要視されてるな」


 魔王は顎に手を当て、何度も頷いた。

 ミヅキにとって不都合なのは、魔王の中身とも呼べる精神がそこらを彷徨いていることなのだ。

 その存在を三国のどれかが知れば、放っておくわけがない。

 戦力としては未知数だがこの魔族の存在が再び戦火を呼ぶかもしれないからだ。


「ってことで、お前まだ周りに自分が魔王だって言いふらしてないよな?」


「ああ……大体わかった。貴様らとしては、私にはじっとして欲しいわけだ」


「もちろん。さらに頼めるのであれば、王都内で保護させて欲しい……あ、いや。もしお前が本当に魔王なら、なんだが」


「断る」


 魔王はキッパリと言った。

 この展開はミヅキには概ね予想出来ていた。

 魔王には何か目的があるのだ。そうでもなければ、わざわざ王都に出向いて来て学校に通うはずがない。


「そうか……目的があるんなら聞かせてくれないか」


「聞かせて何になる。貸し借りはなしにした。答える義理もない」


「ある程度なら協力してやれるんだよ。平和の世ためなんだ、王都が出てくれるさ」


「王都の協力か……まあいいだろう」


 魔王は少し考えたかと思うと、不敵な笑みを浮かべながら言った。


「私の目的は、マリの死に関わっているもの全てを明らかにすること。そしてマリの仇を討つことだ」


「_______________マリの?」


 死んだ友人の顔を頭に浮かべる。

 そうだった。魔王の行動理念は何から何までマリを中心にしていた。

 コイツは死んだマリのためにここにいるということだ。


「だから、まずセイヴハートについて知っていること全部話せ。まずはそこからだ」


「……すまない。話せることはない」


「仲間を売ることはできないか?私の殺してきた人間共がよく言っていたよ」


「違う……お前が思ってるようなことじゃない」


 「仲間」

 ミヅキの抱くセイヴハートへのイメージはそんなものとは大きくかけ離れていた。

 王都の中、五聖(グローリー)の中でさえもその存在との間には大きな隔たりがあった。


「知らないんだ。セイヴハート家のことは、王都はおろか、五聖(グローリー)さえも、誰もが分からないんだ」


 「脅威」

 ミヅキの中ではその2文字がセイヴハートを形作っていると言っても過言ではなかった。

 底の見えない深淵。

 それこそがセイヴハートだった。


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