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その十五 告白

 

「ほらこっち来い」


 時刻はとっぷりと日が隠れ、月が煌々と輝いている頃。

 学校内の廊下でワタシは半裸の男ミヅキ・レックウの後をついて行っていた。

 彼が半裸なのは先程ワタシが服をズタボロにきざんだからである。


「おい、許可なく学校に入って良いのか。もう下校時間はとっくに過ぎているだろう」


 ワタシは忍び足で廊下を歩いた。


「大丈夫だろ。もう教師すらいない時間帯だろうし」


「そ、それがマズいのだろう!」


「あ?何を気にしてんだ?」


「校則には9時以降の校内の侵入は禁止だと書いていたはず。見つかったら、見つかったらど、どうなる……最悪死刑か?」


「んで王都の兵にビビらなかったやつが校則にビビってんだよ!!さっきまでドンパチやってたろうが!」


 潜めていたワタシの声とは対照的なミヅキの怒号が響き渡る。


「ば、バカ!バレるぞ!死にたいのか!」


「別に校則破っても死にやしねえよ……はぁ、俺こんな奴に殺されかけたのかよ」


 ミヅキは呆れたように頭を抱えた。

 先刻まで虫の息であった人間が何故ここまで余裕でいられるのか。

 人間とは理解できないものだ。


「大丈夫だ。仮に見つかったとしても五聖(グローリー)なら許されるからな」


「なん、だと……まさか人の善し悪しとは、見かけによらないものなのか?」


「どういうことだよ」


「そのままの意味だ……結局のところ、五聖(グローリー)とは何なのだ?」


「本気で知らなかったのかよ。その話は着いてからにしようぜ。ほら、ここだここ」


 そう言ってミヅキは目の前にあったドアを指さした。

 「風紀委員」

 ドアの横にあった表札にそう刻まれている。

 ミヅキは懐から鍵を取り出すとそのドアに挿し、開けた。


「そら、この中なら見つかりもしねえよ」


「その鍵は正規の物か?盗み出したりしてないだろうな」


「変なとこで疑り深いな……俺はこの部屋を任されてる者なんでな。入っても無問題なんだよ」


「……信じよう」


 それでも罠の可能性はある。ワタシは警戒しながらゆっくりと部屋に入った。

 ミヅキも面倒くさそうに頭を掻きながらワタシに続く。

 入るとその部屋には立派な机と値の張りそうな椅子が10数組用意されていた。

 授業を受ける教室の設備より少し豪華なものだった。


「随分と高雅な部屋だな」


「何突っ立ってんだよ。適当に座れ」


 ミヅキは慣れた様子で、奥の最も高価そうな椅子に座した。


「なっ、!!良いのか、そんなとこに座って……!」


「普段から座ってんだよ。なんてったって俺、風紀委員長でもあるからな」


「風紀、委員長だと……!!」


「普通その反応は五聖(グローリー)を聞いた時だろーが……いいから早く座れ」


「う、うむ……」


 恐る恐る席につく。

 まさかミヅキがここまで高位の者だったとは思ってもみなかった。


 演習室での一戦、傷の完治したミヅキは王都の警備をしている兵と難なく話をつけ、事を片付けた。

 約束の通りにワタシを包囲していた兵を追い払ったのだ。

 話していた内容を盗み聞いたが妙なことは言っていない様子だった。

 認めたくないがこの男、信用に値する人物らしい。


「ふぅ……ん?」


「なんだ、どうした?」


「待て……何故、私はこんなところにいるのだ?」


「そりゃあ、色々話を聞く必要があるからだろ」


「あの時、貸し借りをなしにしたはずだが」


「警備兵の奴らには「校内に入り込んだ魔族に襲われた生徒」を俺が助けたって話したからな」


「その生徒、もしかして私のことか?」


「当たり前だろ?あのまま1人で出ても警備兵に聴取されるだろうから、こうして俺が聴き込むって(てい)で連れてるってワケだ」


「余計なお世話だな。私なら難なく切り抜けられたさ」


「そうか?その割にはノコノコついて来てくれた」


「っ、そ、それはだな」


「随分と信用してくれんのな。マリと知り合いで助かったよ、ホント」


「ぐっ……調子に乗りおって」


「まあ五聖(グローリー)も知らないんじゃ、この先人間のフリなんてやってけねぇぞ。それこそ同じマリの友人の(よしみ)として、何でも聞いとけよ」


「……いいだろう聞いてやる」


 それでいい、とミヅキはからかうように笑った。

 とりあえずコイツのことは信じてみるとする。


「まず五聖(グローリー)とは何なのだ?マリもその一員だと言っていたが」


「それな。えーと、その昔お前ら魔族の王である魔王を討伐した者達がいた、ってこれくらいは魔族でも知ってるか」


「……ああ」


 ミヅキは得意げな顔で続けた。


五聖(グローリー)とはその魔王を討伐した、いわゆる勇者ご一行との血の繋がりを持つ子孫のことを言うんだよ」


「確か貴様は「戦士の位(ウォーリアー)」と言っていたな。なら、セイヴハートのマリは勇者の位にでもいたのか?」


「いいやマリは「僧侶の位(プリースト)」だったよ」


「なに、僧侶?セイヴハートは勇者の家系ではないのか」


「魔王封印後、一行の中の僧侶だった女は勇者と縁組みをした。セイヴハートに生まれた男が勇者で、女が「僧侶の位(プリースト)」ってことになってんだ」


「なるほど」


「今は「暗殺者の位(アサシン)」と「魔術師の位(マジシャン)」らと5人で、封印された魔王の警護や王都からの依頼をこなしたりと、って感じだ」


「……ほう、それが本当なら、五聖(グローリー)ってのは職務怠慢な組織だな」


「あ?何でだよ。俺たちは日々五聖(グローリー)としての責務を全うしておりますよ」


「そうか。じゃあ今、封印の間の魔王はどういう状態か知ってるか?」


「んなの、100年前から変わらず封印の間でひっそりしてるっての。あんな神話レベルのヤツ復活してたら、とっくに人間絶滅してるぜ」


「なら、やはり怠慢だな。お前が知っている様にはなってないぞ。丁度私が知っている。言ってやるから記録を取れ」


「お、おう……まあ25年毎に記録しろとは言われてるからな。一応、聞いてメモはしとくよ」


「いくぞ……現在魔王は、王都立対魔族専門学校の風紀委員の拠点にて、こうして椅子に座している」


「封印の間まで行くの面倒だし、ちょっと助かるな……えと?王都立_______________」


 ペンを走らせていたミヅキの手が止まる。


「おい、からかってんのか。流石の俺でも嘘と真実の区別くらいはできるぞ」


「そうか、それは良かった。では続けるぞ……当人はセイヴハート家について詳しい情報を所望」


「おい、おいおい!もういいっての!それお前の現状報告じゃねーか!」


「ああ、その通りだが」


「その通り、じゃねえ!してんのは魔王の監視と警護だ!お前のことはどうでもいいんだよ!」


「む……そうか。なら今現在だけは、職務怠慢というのは間違いか」


「な、なんだよそりゃ……ん?いや、ちょっと待て」


 ミヅキはそう言うと立ち上がり、焦った様子で本棚から書物を取り出した。

 ペラペラと頁をめくり続けたと思うと次は耳栓のような物を取り出し、しきりにそれを弄った。

 額には冷や汗が伝っている。


「おい誰か、警備さん?手が空いている奴は封印の間に行ってくれるか!はあ?迷宮魔術の解除方法が分からない?教本読み返せって!早くしろ!」


「フ、フフハハハ……」


「何笑ってんだ……おい魔族。お前今の、冗談だよな?いや何がとはハッキリ言ってないがな、だよな?」


「フ、500年経っても人間の慌てる様を見るのは楽しい」


「やめ、やめろーー!!()()()()しか言えないようなことを口にするなーー!!」


 頭を抱え、その場に崩れ落ちるミヅキ。

 学校生活。初めは退屈そうなものだと思っていたが存外楽しめそうだ。


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