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その百十五 白雷

 

 漂う霧がミヅキの掌に吸い込まれたと思うと、手首から魔力の刃が形成された。

 この霧はワタシの感知を妨害するだけではなく、ミヅキの魔導器の補助もしているようだ。


 その威圧を感じさせる姿を、ワタシは凝視する。


「ミヅキ、お前は_______________」


 その(かん)、無意識に行ったまばたき。

 わずかな間隙、白雷が霧中を辿る。

 魔力の刃は軌跡を描き、的確にワタシの喉元を跳ね飛ばさんと駆け上がった。


 だが、その剣閃は空を切る。

 見覚えのある太刀筋の回避はそう困難ではなかった。


「おい落ち着け!他人の傀儡なんぞお前らしくもない!」


「ちっ、当たんねぇな」


 投げる声には聞く耳持たず。

 ミヅキは攻撃の手を緩めることなく、すぐさま次の攻撃へとシフトした。


 煌めく魔刃の連撃。

 攻め方の癖も、剣の技術も以前戦った時と大した差はない。

 だが。


「剣速が、増している……?」


 一撃毎にスピードが上がっている。

 少しずつだが次撃への繋ぎ目が小さくなっている。

 今は避けられているが、この調子でいけば……。


「どうした?顔色が悪いぜ」


「この速度……その鎧の力か」


「応よ!逃げずに付き合ってくれよ?ようやくあったまって来たところなんだからよお!!」


 なおも剣速は加速し続けた。


 ガ キ ン ガキン!


 金属音がこだまする。

 回避し切れない攻撃は弾くしかなかった。

 そして、そうする頃にはもう刃の瞬きなど目で追えもしなくなっている。


「この速度……!いや、掴んでしまえば!」


 向かってくる刃を掴み、動けないよう完全に握り込んだ。

 これで連撃は止まるはず。


「無駄だよ。無駄無駄ぁ!」


「な_______________っ!!」


 直後、掴んだ刃とは別方向からの斬撃がワタシの肩を掠り切った。

 魔力刃はミヅキの足からも伸びていた。


「どこからでも、何本でもなあ!」


 腕や足から、どころではない。

 あらゆる箇所から伸びた無数の刃がワタシを襲った。

 目にも留まらぬ剣速に加えて、死角のない無数の手数。


「くっ、1度後退して_______________!!」


 思わず地を蹴り後退。

 だが、退いたはずの視界にミヅキは変わらず残り続けている。


「剣士が間合いから逃がすと思うか!!」


 ミヅキは加速した剣速と()()()()()()で、距離を詰めたのだ。

 そして、ワタシはその事象に反応すら出来なかった。


 幾重もの斬撃がワタシを切り裂いた。


「ぐっ、あ!!」


 交差した斬撃がワタシを両袈裟に斬る。

 冷たい感触の数秒後、血の生暖かさが傷口を埋めた。


「は、お前が膝を着くなんて初めて見たよ……いい気味だ」


「はぁ……ふ、私も人間なんぞに膝を曲げさせられるとは思わなかった。最悪の気分だよ」


 見下ろしてくる白銀の狼を、鋭い瞳で睨み返した。


「さてと、じゃああと何回着かせればお前は死ぬかな?」


「……本気でやる気か」


「本気も何も、最初から殺す気でやってるよ」


「そんなことをして、お前の何になる!」


「るせぇよ。なんも言わず死_______________!!ゥ、ガハッ、ァ!」


 突如、ミヅキは振り上げた右手を口元に当て、咳き込み始めた。

 苦しげな声と漂う血の匂いがミヅキの状況を彷彿させる。


 限界を超えた身体速度。

 あの剣速は間違いなく人の域を脱したもの。

 それが魔導器による強化なのだとすれば人間が耐えられるはずがなかった。


「ァ、ハァ……ハァ……くそ」


「!!今すぐその鎧を脱げ。仮に私を倒せたとしても、無事ではすまない」


「俺の命削って、魔王殺せるなら、はぁ、大金星だな」


「ふざけるな!使うにしても、お前の命は他に使えるはずだ!」


「言ったろ。もうどうでもいいんだよ……魔族だの、形白(マリオネット)だの。要するに人間以外が滅べばいいんだろ?」


 ミヅキは危うげな息遣いのまま、ワタシを指さした。


「そのためにはお前みたいのが1番邪魔なんだ……人間なのか、魔族なのか分からない輩がよ」


「……人間も魔族も、元を辿れば一緒だと」


「だからこそ邪魔なんだ……お前の存在は人の覚悟を鈍らせる。人間と魔族の境目を曖昧にする!」


 霧が鎧の中に吸い込まれていく。

 ミヅキは息も整っていないのに、攻撃を再開する気だ。


「俺は……王都の守護者(ガーディアン)、人間の味方だ!人間の為なら何だってする!」


「止めろ!死ぬ気か!」


「俺が、人間を生かすんだ!!」


 刃を纏い、突進してくるミヅキを既で躱した。

 あまりある速度を制御出来ていないのか、突進したミヅキはそのまま壁へと激突した。


「あぁ……調整が、まだ上手くいかねぇな。ははは」


 ミヅキは崩れた瓦礫の中からのそのそと起き上がって来る。

 より一層、血の匂いは濃くなっていた。


「この、わからず屋が……!」


「どうとでも言え。今更テメェを理解するつもりねぇよ」


「マリとローナは魔族との共存を願っていた……お前は違うのか?」


「んな甘ちゃんだから2人は死んだんだ!俺は違う。魔族共を全て撃滅して、人間を生かす」


「っ、自惚れるな!ミヅキ・レックウ!!」


「……あ?」


 俺は2人とは違う。

 その自分を偽った一言にワタシは腹が立った。

 ミヅキはあの二人と同じだと、誰よりも理解したつもりだったからだ。


「マリやローナを守れなかったお前が、全ての人間の運命なんぞ背負えるわけがあるか!!」


「昔とは違う。今の俺には全ての人間を背負えるだけの力が」


「嘘をつくな!」


 薄っぺらな覚悟の言葉など何の意味も持たない。

 今のミヅキはただ死にたいだけだ。

 守りたい者さえ守れなかった、不甲斐ない自分を消してしまいたいだけだ。

 そんなこと、ワタシが許さない。


「お前はいつだって自分の手が届く限りの人々を救おうとしていた。身の丈にあった願いを、ただひたすらに叶えようとしていたではないか!」


「届くさ!魔族の撲滅!この力があるなら届く願いだ!」


「違う!何を手に入れようと、人の本質は変わらない!」


「なら、本当に俺が変わってないかどうか、その目で見てみろよ!!」


 最高速度の剣閃が薄霧の中を駆けた。

 今までの比ではない速度だ。

 確かに、この力があればワタシは仕留められる。


 だがそれは以前のワタシなら、だ。


 小さく念じ、ワタシの中にある内包式(スクロール)を覚醒させた。


「私が、お前を止める_______________臨界(トランセンド)!!」


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