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その百十四 捻・歪

 

 紺色の空の中、金色の月が高く上がっている。

 拠点からの出発より2日が経過していた。

 ワタシは約1ヶ月ぶりの王都のタイルに思いを馳せていた。


「……懐かしい気分だな」


 王都に到着、そして散開後ワタシは作戦通り単独での行動をしていた。

 担当は遺体の胴体部分。そして、向かうべき場所は王都の中心に位置している場所であった。


 聖城ホワイトワン

 月下に(そび)える誇らしげな城に、目的の物は保管されているらしい。

 最短距離で向かうにはメインストリートを一直線に行く必要があり、発見される確率も高い。

 ワタシは辺りを見回しながら、移動していた。


 静まり返る建物の群れ。

 街灯が点る街並みはいつかの光景と何ら変わりがなかった。


「……?」


 いや、違和感というほどの変化はあった。

 建物の外、街の中に魔力が感じられないのだ。

 普通なら少なくとも2、3人の気配は感じられるはずである。


「なるほど、隠密とはいかないか」


 間違いなく普通ではない街の様子に身を強ばらせた。

 明らかに何かが起きている。

 王都側はワタシ達の侵入に気づいているのか。


「_______________これ、は!」


 見ると、突如として街が霞み始めた。

 白霧が街をみるみるうちに覆っていく。

 霧は一つ一つが魔力の反応を示し、広がっている

 さしずめ魔力のチャフと言ったところ。

 これでは魔力の感知が出来ない。


 カシュン


「?な……んだこれは」


 乾いた音。

 感じ取った違和感と共に腕を見ると、腕部には紋章が浮かんでいた。

 だが、そこには損傷も痛みも無かった。


『ザガ……ガ……よう……こそおいでくれた。魔王よ』


「この声、ミゼンガか!」


 街のどこかから、ノイズに紛れたミゼンガの声が響く。

 やけに落ち着いた声色だった。


『あの事件から1ヶ月ぶりかな?よく戻って来てくれた』


「まさか、こちらの行動が読めていたのか」


『いいや、いつ来るかは分からなかった。でもこうして迎え撃つ準備は万全なのさ。君が来るのをずっと待っていたからね』


「いいか聞け。王都の人間と戦う気はこちらにはない。そちらには危害を加えるつもりも、全くない」


『知らないな。君に無くても、人間にはあるんだよ』


「争うつもりか……お前ら人間風情が私には勝てないと、その身で体感したいと見えるが」


『クッ、フ、ハーハハッハッ!!怖い怖い。ふふ、古き時代の魔族の王よ。君にいいことを教えてあげよう_______________』


『人は変わらない。だが、時代は変わるんだ』


「これは……ワタシに何をした?」


 ミゼンガの声に呼応して、刻まれた手元の紋章は淡く光り出した。


『それは我ら人間の知恵と技術を全て注ぎ込んだ魔術の一つさ。これがある限り、コチラは君の位置を手に取るように知れる』


「……それだけか?」


『あとこの声もだったかな?もちろんそれ以外にも用途はある。けど、今はそれだけさ……もっと知りたいかい?』


「はぁ……」


 付き合っている暇はない。

 ワタシはミゼンガを無視して、足を進めようとした。


『あーっ、ちょっと待ってくれないか!そんなに前に進んだら_______________』


「……っ!」


 ジ ャ キ ン !!


 霧の中の銀光と走る斬撃。

 突然前方から現れた気配に、思わず後退した。


『ほうら、言っただろう。もう少し話してからの対面だったのになあ……』


「ほう、そちらからの刺客というわけか」


『そういうことさ……まあ、後はよろしく頼むよ』


 ゆっくりと迫る靴音。

 霧の向こうから斬撃を放った主が歩み出たのだった。


『……王都の守護者(ガーディアン)


「了解」


「ミヅキ……!」


 戦士の位(ウォーリア)ミヅキ・レックウがそこに立っていた。

 その手には柄だけの魔導器が握られている。


「よお魔王。久しぶりだな」


「お前が、刺客……?どういうつもりだ」


「つってもな……王からの命令だから、としか言えねぇよ」


 面倒くさそうに頭を搔く仕草からは変わりない彼の姿が窺えた。

 久しぶりの対面に思わず頬が緩んだ。

 ミヅキには色々と話すことがある。


「そうか……よし。ならまずは聞いてくれ。ワタシ達は」


「チッ、るせぇな」


 霧の揺らぎ。

 瞬間、ミヅキの手元から刃が伸びた。


「!!待て、ミヅキ!」


 洗練された態勢から繰り出される袈裟斬りは、瞬く間にワタシの身体に触れようとした。

 刃が肌に達する時、直感的な反応がワタシの体を回避へと動かした。


 ヒュン


 超速度と共に刃は虚無を捉える。


「……ぁあ、避けたかよ。めんどくせぇ」


「っ、待て!まずは話を聞いてくれ!」


「話だぁ?聞いて何になるんだよ。今俺がお前と戦わない理由にでもなるのか」


「なるんだ!まずは、聞いてくれ!あの進化の方舟という組織は_______________」


「あぁ、うるせぇうるせぇうるせぇうるせぇうるせぇうるせぇうるせぇうるせぇうるせぇ」


 ミヅキは何度も呟きながら、イラついたように頭を()(むし)った。

 霧に霞んでよく見えないが、その瞳は死んだ魚のように濁っていた。


「どうせあれだろ?魔族の正体とかよ、セイヴハートの実態とか

、なんか重要なのを掴んできたんだろ?ああもういいんだよそういうのは!もういい!どうでもいいんだよクソ野郎が!」


「ミヅ、キ?」


「強い強い魔王様にはわかんねぇだろうなあ!2人の親友を失って、宿敵だった兄貴にボロボロに負かされた俺の気持ちがよぉ?!」


「……そうだ、マリ!マリが生きているんだ!まだ死んじゃいないんだ!」


「ああっ?!だからなんだってんだよ!!マリが死んだ時の俺のショックが無かったことになるのか?それで死んだローナは帰ってくんのか!」


「それは、どうにもなりはしないが……」


「ああだろうな。もうどうでもいいんだ……もう何もかも、どうでもいい。俺がどうこうした所で、何も変わんねぇよ。お前らでよろしくやってろよ」


 ミヅキはボサボサになった髪のまま、冷たく睨んだ。

 責任感の強い彼の面影すら、もうそこには無かった。


「今の俺は五聖(グローリー)戦士の位(ウォーリア)なんかじゃねぇ……王都を任された守護者(ガーディアン)なんだ」


 ミヅキは懐から小さな箱を取り出し、上へと放り投げた。


「今はただ心を殺して……侵入者を殺す。それが今は一番楽なんでな」


 箱は宙でバラバラに分解されると、次々と形を変え、ミヅキの体へと取り付いていった。

 取り付いた箱達は紫電を散らしながら、それぞれ連結していく。


「鎧袖一触……雷傷(バイツ)


 やがてミヅキの姿は雷に包まれた狼を模した騎士へと変貌した。


「魔王。すまんが王都のために死んでくれ」


 兜の向こうで、自身を嘲笑うかのような笑みが見えた。


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