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その百十三 会議

 

「……ウェルス?」


 宿屋の地下、拠点の寝室にて。

 口をついて出たその名に自分でも驚いた。

 そういえばウェルスは今どこにいるのか。


「ウェルスさんがどうかしましたか?」


「アイツ、今どこにいるのか知らないか?」


「うーん……知りませんね」


 隣に座ったマインが首を傾げた。

 ウェルスは王都にいた時、図書館に行けばいつでも会えた。

 よく本を勧めてもらっていたものだ。

 ふと、城で合流してからまともに話していない気がしたのだ。


「……まぁ、アイツのことだ。どこからかヒョイと出てくるか」


「魔族の方ですよね……どういう方だったんですか?」


「どういう、か……私にとっては従者だったからな。そこまで気の知れた仲ではなかったが」


 彼と交わした数少ない言葉を思い出す。

 どの言動にも、やはり彼の本質というのは滲み出るものであった。


「待遇とか種族とか関係なく、他者を思える魔族ではあったな。間違いなく」


「優しい方なんですね」


「今度会ったら話してみるといい。きっと仲よくなれるだろう」


 全てが終った先がどんな世になっているか分からない。

 だが、何もかも終わった時が人間や魔族、形白(マリオネット)が共存できる世界であるならそれ以上の望みはないだろう。


「2人ともーっ!出てきてくださーい!」


 クルの呼ぶ声がする。

 先を考える前にまずは現在からだ。

 立ち上がり、広場へと続くドアに手をかけた。


 〜〜〜〜〜〜


「さて、皆さん揃いましたかな」


 コーサスの枯れた声が広場を見渡した。

 皆それぞれの姿勢でコーサスへと耳を傾けている。

 これから話すのは王都で行う作戦の概要だ。


「我々は、後日には王都へと侵入しているわけですが、そもそも我らの目的がなんなのか覚えていらっしゃいますか?」


「魔王の遺体を封印していた術式。これを読み取り、ジン・セイヴハートへの対抗策とするため、でしたか」


「それがジンさんの創った封印式だから対抗策になるかもってだけで、有効かどうかは定かではないんですよね?」


「はい。その通りでございます」


「「……」」


 形白(マリオネット)2人が淡々と答える中、横の2人が気まずそうに目を逸らした。

 ケイナとセリルだ。

 目を泳がせる仕草を見るに理解してなかったようである。


「今は見つかっていませんが、我々は()のジン・セイヴハートに警戒されている状態です」


「加えて、私は王都で指名手配されてるときた。この場にいるメンツも王都で見つかれば捕まりはするだろうな」


 形白(マリオネット)2人やワタシは王都側としては許されない存在だろう。

 発見され次第その場で殺される可能性だってある。

 残りの面々もワタシの協力者と疑われるはずだ。


「ですから王都側に見つからぬよう隠密に、そして進化の方舟に勘づかれぬよう迅速に行う必要があります」


「夜に動くのだろう?影の骨の連中とはどこで合流するんだ?」


「現地で合流、とは聞いていますな」


「ウチは信用できる。行う仕事は確実だよ。心配しなくても、行けば確実に合流できるはずだ」


 セリルが誇らしげに腕を組む。

 流石は元副団長。組織のポリシーには理解があるようだ。

 ちなみにこの女、任務を自ら放棄した上に無断でその組織から抜けている。

 彼女の語る信用とは。


「暗殺団からの人員は3人。人数のことや戦力に関して万が一を考えれば、ワシやマリ嬢以外は2人1組で行動するのが良いかと」


「行く地点は……6ヶ所だったか。遺体の両腕と両足、胴体は分かるとして、あと1ヶ所はどこだ?」


「封印の間、貴女が封印されていた場所ですな」


「……あそこか」


 その光景を想起する。

 遺体の部位で言えば頭を封印していた場所だ。

 言われてみれば、あそこにも封印の技術が秘められている。


「そこはワシが行きましょう。周りにかけられた魔術のことを考えれば、セイヴハートの誰かが行くのが効率的です」


「……残りはどうする?どこか1ヶ所は私が1人で行くが」


「暗殺団の3人いる内の1人とは私が行こう。元団員な分連携が取りやすい」


 セリルが小さく手を挙げた。

 「影の骨」の残り2人で組ませるとすれば、後はマイン達4人のみだ。

 戦力のバランスを考えれば形白(マリオネット)2人を行動させるのが妥当であるが……。


「ク、クルさんと私が行きます!」


 マインが勢いよく立ち上がった。

 珍しく自分から意見を述べた瞬間である。


「マイン?それでは私と姫のペアがそこそこな戦力不足になりますけど」


「誰がそこそこ戦力不足だ」


「え、と、前にクルさんと約束してたんです!ですよねクルさん?」


「へっ?え、あぁ……そう、ですけど……」


「ほらぁ!いいですよね?ですよね、姉さん?」


「約束……?お、おお。まあ、そもそも見つからず遂行できれば戦力など関係ないからな」


「コーサスさんも!」


「マリ嬢の言う通りではありますな」


「よぉし。じゃあ決まりですね」


 納得するとマインはスっと席に着いた。


「姫、フラれたので慰めてください」


「アタシもできるならマイン様と行きたかったわよ。我慢なさい」


 こうして当日の行動は定まった。

 王都での作戦が全てを決めるわけではない。

 だが、その結果が人間と魔族の運命を左右するということは間違いなかった。


 ここにいる誰もが結果の行方を探っている。

 成功への期待も、失敗への不安もある。

 それでも今のワタシ達には行くしかなかった。


「ふむ、これで大体の方針は決まりましたな。遺体のある地点は到着した後に知らせますので_______________」


 厳格なコーサスの声が決行を告げた。


「では、行きましょう」


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