その十三 慧眼
最後の授業を終え、今は放課後。
学校中を響き渡る鐘の音が終わりを告げている。
次々と生徒が帰宅の準備をして席を立つ中、ワタシは一人顔をしかめていた。
「マリ様、どうなさいました?下校の時間ですよ……やはり果物だけでは足りなかったのでは」
「いや、別にそういうんじゃなくて」
「あれマリちゃん?どうしてそんな不機嫌そうな顔をしているんです?今度こそ一緒に下校しましょうよ!」
「それは、ごめん……今日は一緒に帰れないの」
「えっ」 「えー」
「ほんとごめん。急に用事ができちゃって」
机に頭を付けながら、2人を追い払うように言った。
昼休みにケイナから受け取った紙に記されていたのは校内のとある場所、そこに1人で来いとのことだった。
詳しい要件については一切書かれていない。
それ故にワタシは不安であった。
「そういえば、お昼にケイナ先輩から何か言われてましたね」
「なるほど……ならば私も同行を」
「いいって、私1人で来るよう言われてるから」
「そんなの寂しいです。少しなら待ちますよ」
「何時までかかるのかも分かんないからさ。ほんっとーにごめん!明日絶対一緒に帰るから!」
「そうですか……まぁ、仕方ないでしょう。列車の出発時間を考えるとそこまで長い時間は待てませんから」
「また、マリちゃんと帰れないんですね……」
「まあまあ。いくらでも機会はあるでしょう。リリナさん、一緒に帰りましょうか」
タリムは怖いくらいにこやかな顔をリリナに向けた。
では、と頭を下げると2人は踵を返して教室のドアへと歩いていった。
タリムにしてはすぐに引き下がったものだ。
奴ならもう少し食い下がりそうなものだが。
2人が教室を去ったのを確認してから、ワタシも目的の場所へと向かった。
〜〜〜〜〜〜
第一演習室
それが呼びだされた場所であった。
ただ広く真っ白な空間で壁や床は強力な魔術で補強してある。
相当激しい戦闘も想定されているのかちょっとやそっとの攻撃では傷一つ付かない造りになっている。
だが、ワタシならその気になれば壊せる。
到着した先には男が1人だけ。
それは察知している魔力から、ケイナではないと入る前から分かっていた。
「よお。よくぞ来てくれた」
男は大きく手を広げワタシを歓迎した。
長身にブロンズの短髪、服装は制服である。
「……ケイナ先輩はいないんですか」
「ハハ、すまんが呼んだのは俺だ。ケイナに頼んでおいたんだ。ケイナはここには来ない」
「私に何か用ですか」
「2人きりで話したいことがあるんだ。君、マリ・セイヴハートとね」
男は不敵な笑みを浮かべる。
口角は上がっているが、目だけがまるでワタシを睨むように見ている。
「人違いですよ。私はマリ・イルギエナです」
「そうか。じゃあマリ・セイヴハートのことを知ってるか?セイヴハート家の長女で、5年前に亡くなってる女の子なんだが」
「会ったことはありませんが、聞いたことはあります」
「そうだよな、魔族に襲われて死んだってのは有名な話だし知ってて当然か。王都では一時期、話題が持ち切りだったしな」
「……そうですね」
「でもそれは表向きの話……あと、別に関係ない話なんだけどその子、君と顔がそっくりなんだよ」
「他人の空似です。よく言われてます」
「同じ顔に同じファーストネーム。大分怪しいって自覚出来てるか?……ってまあそれはどうでもいいか」
「……もう帰っていいですか?」
「すまん、前置きが長すぎたみたいだ。俺が聞きたいのはガワじゃなくて中身の方だ」
「中身、というと」
「中身。正体だよ。君のね」
一歩、男はワタシに近づいた。
恐らく何かしらの確信を持って、ワタシの正体を探ろうとしている。
少し面倒だが、まずはここを脱出する必要があるようだ。
ワタシも男と同じように一歩、後ろに踏み出した。
「君の正体、候補としては3つ挙げられるんだが、当たってたら手を挙げてくれないか?」
男は指突き出す毎に一歩踏み出しながら言った。
「1、マリ・セイヴハートが普通に生きてて、ファミリーネーム変えて、普通に学校に通っている」
「2、悪ーい魔族が何かしらの力でマリ・セイヴハートの体、もとい死体を乗っ取って動かしてる」
「3、マリ・セイヴハートの姿を知っている悪ーい魔族が姿を変えて、擬態している」
問いに対して、ワタシは無言で手を挙げた。
「おっ、当たりか?3番?どれだ、どの候補だ?」
「_______________さあ?」
魔力を充填。
男の問いには答えず、地面を抉るほどの威力の魔術を足下に放った。
ドゴォン!!!
爆発音にも似た音と共に土煙が辺りに立ちこめる。
殺す気はない。煙幕での時間稼ぎだが今はそれで十分だ。
すかさず後ろに跳んで脱出を試みた。
が、それは結果として失敗に終わる。
「おいおい。つれないなあ」
ビッー、という音が鳴ると、さっきまで開いていた出入り口が封鎖。
構わない。扉も壁と同様補強されているようだが、ワタシならそれすら破壊できる。
再び魔力を掌に込めた。
「開け_______________!!」
「おい、無視すんなよバケモノ」
ゾクリ、と裂くような殺気が背中を走る。
即座に術の発動を中断。魔力を移動にあて、何かが背に達する前に飛び退いた。
ガギキンッ、と甲高い音が場内に響き渡った。
「質問ぐらい答えていってくれよ。寂しくて死んじゃうだろ」
男はクツクツと笑った。
その右手には片刃の剣。易々と強化された扉を貫いている。
「さっきの問い、どれもハズレです」
「ははっ!律儀に答えてくれんのな。とにかく「その1」ではないってのは確かだよな?」
「さあどうでしょうね」
「はは……助かる。マリ・セイヴハート本人ではない、と」
男は扉から剣を引き抜くと、ワタシに向かって構え直した。
「良かったぜ。今日のお仕事はバケモノ退治だけで終了みたいだ」
ピリついた空気が辺りに漂う。
男を取り囲むソレは憎しみや恨みの類いではない。
もっと無機質で淡々とした何かだった。




