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その百三 魔王

 

「はあ?息子ぉ?!」


 緑に囲まれた広間の中、明かされた事実。

 謎の中年の正体はワタシを封印したジン・セイヴハートの息子だという。


「んな、馬鹿な。私が封印されたのは500年も前だぞ!いつの話だと思ってるんだ!」


「はい。おっしゃる通り、ワシは魔王の封印から十数年後に生まれた者でございます」


「なら、どう見積っても貴様は400歳を超えることになるが」


「はい。400は超えております。ですがワシはどう元を辿っても人間の者となります」


「……おいお前ら。コイツは、常識が通じないヤツということか?そういう認識でいいか?」


「アンタも常識通じないでしょ……てか失礼な発言してるとこ悪いけど、この人アタシらの命の恩人だからね」


「……このお方は頭がおかしいのでいらっしゃるか?」


「いや、そういう意味じゃないわよ」


 ケイナは呆れたように頭を振った。

 どうも納得出来ない。このコーサスと名乗った男は人間の身でありながら400年以上生きているらしい。

 コイツの言葉をそのまま信じるならば、だが。


「まあいい。ではそれが真実であるとして、私達を助ける理由はなんだ?」


「何故?ワシが貴女方を助けるべきだと思ったからであります」


「居たのは魔族の本拠地だぞ。何の見返りもなしに助けるか?普通」


「もちろん見返りは求めるつもりでした。そういう打算も含めて助けるつもりだったのですよ」


 コーサスが指を鳴らすと、ワタシの服から小さな光が飛んでいった。

 目を凝らすと、それは小さな虫だと分かる。


「会った時に付けさせていただいたものです」


「……何のつもりだ」


「これが無ければ駆けつけれませんでしたので……実を言うとマリ嬢、貴女が窮地に陥るのは分かっていたことなのです」


「ふん、らしいな。逃げる手立てもしていた事だし……と、結局どうやってここまで逃げたのだ?」


「連中が使っている技術を利用させてもらいました。瞬間的な移動を可能にする、アレです」


 恐らくポータルのことだ。

 確かにアレを利用できるとなれば、敵地からの離脱も、ここまでの移動もあり得る。


「実はあの異様な技術は、ある1人の魔族によってもたらされた物なのです」


「異様な技術、か……確かに魔族共が扱うにしては進みすぎている」


「ザヲという名の魔族がいたでしょう?ヤツです。ワシの求める見返りは、あの魔族の討伐に協力して欲しいのです」


 ザヲ。

 あの魔族の姿を今ならハッキリと思い出せる。

 きっとヤツこそマリを狂わせた元凶。この動乱の枢軸には違いない。

 加えてあの金髪と赤眼……やはりどこかで見た気がしてならなかった。


「あの魔族のことを知ってる口ぶりだな……全ての黒幕では無いにせよ、お前とは何か因縁があるようだが」


「いえ、あの魔族こそが全ての……あらゆる問題の根源なのです」


 コーサスは一呼吸おいてから、険しい表情で語った。


「_______________ジン・セイヴハート。彼こそがワシの父であり、あのザヲの本当の名です」


「な、に」


 今明かされる、衝撃の真実_______________


「あっ、マインちゃん。ちょっとそこのジャム取ってください」


「あ、はい……」


 その中を、緊張感の無い調子でジャムの瓶が行き交った。


「……おい。お前ら、聞いていたか?」


「マリ様。私達は昨日に全て聞きました」


「よっ……と、マインちゃんありがと」


「2度目でも驚けってのはちょっと無理あるわねー」


 ワタシ1人が驚く中、誰もが興味無さげに食を進めていた。

 コーサスは何か気まずそうにコチラを見ている。

 なるほど反応が薄いわけだ。


「……ふん。コーサス、続けろ。まだ何かあるんだろ?」


「え、ええ。もちろん」


 ワタシが口をとがらせ、ぶっきらぼうに座ると、コーサスはしどろもどろに続けた。


「まずは、魔族のことから話しましょうか」


「ジン・セイヴハートについてはもういいのか?」


「いえ、ヤツと魔族はしっかりと繋がりがあります故に、後で……マリ嬢、貴方は新なる人類というのになったことがありますな?」


「……あるな」


 これまでに2度起こった現象だ。

 負の感情をきっかけに魔力が満たされる感覚。

 ザヲもといジンはこの姿を生物の進化の先、新人類と呼んだ。


「ヤツはこの世の生物全てを、その新人類へと進化させることが目的です」


「大層な目的だな……あの状態になれるのは3人に1人とか聞いたんだが」


「はい。つまりヤツの思惑通りになれば3人に2人……いや、きっとそれ以上の人間が死ぬことになりましょう」


「魔力を受け入れる器と魔力を制御する力の両方が必要、とか言ってたからな」


「そして魔族とは……その目的に近づくためにヤツが作り出した、魔力の扱いに特化した所謂(いわゆる)人造人間なのです」


「魔族が……?今、魔族が、と言ったか?」


「言いました」


「つまり……魔族という種族そのものが、ヤツに作られたものというわけか?」


「はい」


「下手な冗談を言うな。魔族なんぞ私が物心つく前から存在していたぞ?それこそ今までで、500年なんぞ比ではない年月を経ている」


「……はい」


「……つまり、ジン・セイヴハートはそれより前から生きていると?」


 コーサスはただ頷いた。

 その真剣さから嘘ではないとすぐに分かった。

 その瞬間に、あのザヲが途方もなく強大な存在に思えてきた。


「魔族とは、いわゆるあの形白(マリオネット)の大元とも言える生物。大昔にヤツの理想のため作り出された生命体が繁栄したものなのです」


「それはつまり、私もジンに造られた存在に過ぎないということか?」


「……貴方はもっと特殊です。あの魔王の身体はジン自身の肉体を元にして作られた、言わばジン・セイヴハートのクローンなのです」


「……私が?」


「魔王、とは人間が勝手に付けた名。魔族の王だからマオウなのではありません」


 こうして、ワタシは己が何であるか知った。

 ここで、1人の人間の口から、あっさりと告げられた。


「全ての魔族の素体となった存在_______________00(マオー)、それが貴方なのです」


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