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第88話 死



「嘘……だろ?」


 帰宅後の2人を待ち受けていたのは、あまりにも悲惨な現実だった。

 部屋に置かれたベッドを囲む大勢の人達。

 その真ん中で今も尚眠っているのは、ローレンスの親友でもあり、この鍛冶場の長 アーロンさんだった。


「アーロンさん!」


 人並みをかき分け、アーロンの元へと走り出す。

 ユズルがアーロンさんの手に触れるなり、まるで待っていたかのようにアーロンさんが目を開いた。


「……無事で………良かった」


「俺は無事でも、アーロンさんは……っ」


「どっちにしろ先の短い……老いぼれだ。……気にするな」


「そんなこと言わないでくださいよ……っ!」


 アーロンさんは震える手で胸ポケットを漁ると、一欠片の鉱石を取り出す。

 それをユズルの手に握らせ、ゆっくりと語り出した。


「それは生命石(ライフ・ストーン)と言って、人の生死を伝える……ゲホゲホッ……石の一欠片だ」


「なぜこれを俺に……」


「それは、ローレンスの生命石なんだ」


 ユズルは目を見開く。

 淡い橙色の鉱石は、今も尚光り輝いている。


「生命石は、その従者が死んだら光を失う。だが、その石は未だに光り続けている……。これが何を意味するのか、わかるか?」


「……ローレンスは、生きている?」


「私はそれを信じている、今も……。だから──」


 アーロンさんが最後の力を振り絞り、ユズルの手を強く握る。

 その目には大粒の涙が浮かんでいた。


「──ローレンスを探し出してくれ。私はもう、あいつには会えねぇけど、こんなに大きくなったんだって……、お前と過ごしたあの鍛冶場はこんなに大きくなったんだって伝えてくれ……。奴は、今も生きている……っ!!!」


「アーロンさ……っ!」


 力強くそういい残し、アーロンさんはユズルの手を握ったまま、息を引き取った。

 怒りで表情が歪む。


「クロセル……俺はお前を許さない……っ!」


 このままじゃダメだ、そう強く思った。


 これまでも何度も悔しく辛い思いをしてきた。奪われ、絶望し、その度自分を正当化し何とかここまでやってきた。


 だがこの先それは一切通用しない。

 感情を捨て、プライドを捨て、全てをかけて戦い抜く。

 その強い意志を持つものだけが生き残れる。

 勝者こそが全てだ。


「ユリカ、行こう」


「はい、ユズルさん」


 拳を強く握り、その場を後にした。




<英雄の凱旋編 エピローグ>


 後日アーロンさんの葬儀が行われ、国中の人達が参列した。

 やはりアーロンさんの影響力は凄かったようで、国外からの来賓も少なくはないようだった。

 国中が悲しみに暮れる中、2人の旅人はその場に背を向け次の目的地へと歩き出していた。


「次の目的地は、妖精の森ですか?」


「そこにも足を運ぶが……その森をぬけた先に用がある」


 地図を指でなぞり、森の先へと目を移す。

 そこには、セイントヘレナ公国と記されていた。


「その国にある"頂の協会"というところを知ってるか?」


「いえ、初耳です」


「頂の協会、そこには教皇がいる。かつて聖王に光魔法を授けたのも、その教皇一族だ」


 恐らくこの世界で最も聖なる場所は、そこだろう。

 そこを目指す理由、それは、


「俺の中に眠る魔人の力を弱体化される。今の俺に、これは制御できる代物じゃない」


 一時的に体内を浄化させ、制御できるレベルまで魔人の力を抑え込む。


「そんなこと、できるんですか?」


「あぁ。教皇の元で働く教団は皆、浄化魔法の使い手と聞く。それ教団の頂点に立つ人間だ、できてもおかしくない」


 今まで周りのペースに呑まれ自身の持つ知識を十分に発揮できていなかったが、ユズルは元教師なのだ。

 こうした知識は知っていた、ただ思い出せるほど余裕がなかっただけで、彼の中には元々、豊富な知識が備わっている。


「今までの俺は勝つことに必死だった。仇を打つだとか、そんなことばかりで考え無しにひたすら前に前にって必死だった」


 どうしても目の前のことにいっぱいいっぱいになってしまい、本来の目的を見失ってしまっていた。

 自分がほかより優れていると過信しすぎていたのかもしれない。

 だがもうそんな考えとはおさらばだ。


「一緒に、抜け出そう。この絶望の檻から」


 自分が突破口を切り開く。


 アーロンさんから譲り受けた生命石を握りしめ、薄暗い森の中へと入っていくのだった。




 同時刻、魔都──。


「何時ぶりだろうか、こんなに揃うのは」


 魔王の御前に、11人の魔人が集結する。

 ここにいるのは、ただの魔人ではない。

 全員が魔王の血を引く王族階級の者たちだ。


「モルディカイの姿がないが……」


「奴は消息不明だ。まぁ生きてはいるだろうが」


 王族階級第6位 モルディカイ。

 彼が消息を断ってから既に、30年以上の時が過ぎていた。


「そろそろ始めようか、ここに集めたのにはちゃんとした理由があるんだ」


 魔王の言葉に、全員が私語を止め顔を向ける。


「そろそろ本格的に動き出そうと思っているんだ」


 前々から王族階級にのみ伝えられていたある計画。

 それを再び魔王が口にする。


「──悪魔を復活させる。もうお遊びは、終わりだ」


 破滅へのタイムリミットが、刻一刻と迫っていた。

 第6章、遂に完結しました!

 ここまで読んでくださった皆さん、本当にありがとうございました!

 毎度恒例の次回予告で締めるとしましょう。

 それではどうぞ!


 


──第7章 予告


 妖精の森へと足を踏み入れた二人。

 しかしそこは別名「微睡みの森」と呼ばれる、旅人を惑わせる迷いの森であった。


 深い霧の奥底で、ユズル達は妖精たちと出会う。


「次に霧が晴れるのは10日後、それまでに妖精(フェアリー)舞踊(ダンス)を教えるわ」


 微睡みの森で、妖精は踊る。



 妖精の森編 開幕──。


 その踊りは、魔人をも魅了する。

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