第84話 魔人化の術
「魔氷の魔弾」
「弐の型 旋風!」
何発か取りこぼし身体に直撃するが、今のユズルには全くもって効かなかった。
凍りついた部分に力を込め、氷を粉砕する。
「おかしいなぁ、たとえ魔人化してるとはいえ僕の攻撃をくらっても無傷だなんて」
魔人は動揺を見せる。
実はユズルも疑問に思っていた、己の硬さに。
初めて疑問に思ったのは、ベルゼブブ戦の時だった。
(ベルゼブブや影の魔人は俺の攻撃が効いていた。傷だってついたし、なんなら目の前のクロセルって魔人だって……)
ましてやクロセルは王族階級。
その男ですら傷つくのに、なぜユズルはこんなにも強固な防御力を持っているのだろうか?
「そもそも君、なんで魔人化してるの?どう見ても君、人間だよね?まさか僕以外から血を?」
「……魔人化の術をかけられたんだ」
「魔人化の術?そんなもの……いや、まて」
クロセルが自分の口を覆い、顔色を変える。
まるで何か恐ろしいことに気づいたかのように。
「……誰にかけられたのか、分かっているのか?」
「あぁ。実際に会っているからな」
「なっ?!」
反応から見るに、魔人化の術を使えるのは魔王一人のようだ。
魔人化について、だんだん分かってきた。
血によって生き物を魔人に出来るのが、悪魔。
術によって人間を魔人に出来るのが、魔王。
そして血によって人間を魔人にすることが出来るのが、王族階級の魔人。
といったところだろう。
(もしこれが本当なら、魔王を倒しただけじゃ魔人は減らねぇ……っ)
今までずっと魔王以外は魔人を生み出すことが出来ないと思っていた。
だが先程クロセルは「俺の血を分けてやろう」といった。
つまり王族階級以上の魔人は人間を魔人に変えられる。
そもそも王族階級とは、魔王から血を分け与えられた魔人たちの総称であり、魔王から直々に力を与えられた魔人達のことである。
そのくらいの力を有していてもおかしくは無い。
「……いつ、魔王様に会ったんだ?」
クロセルが重い口を開く。
「半年ほど前だ」
「……何故魔王様はその時に、聖剣を破壊しなかったんだ……?」
クロセルが独り言のようにつぶやく。
確かに半年前、瀕死のユズルから聖剣 シュバルツを奪い破壊することは容易であった筈だ。
だがそれは、聖剣があった場合の話。
あの日、ユズルは聖剣を身に付けていなかった。
あの戦いでユズルが使ったのは、フォーラ村の鍛冶師が打ってくれた剣であって聖剣ではない。
(聖剣があの場にあったのならば、今ここに俺の姿はないんだな……)
果たしてそれは"運"という1文字で片付けていいのだろうか?
何はともあれ今は戦いの最中だ。
考え事に耽っている場合ではない。
「知りたいことが多すぎるよ、だから──」
ユズルの目と鼻の先に、巨大な氷の鎚が現れる。
「早くこの戦いを終わりにしよう。魔氷の鉄槌」
「くっ、漆の型──」
避けきれないと判断したユズルは、剣技を繰りだろうとするが……
「っ、いつの間に……っ!」
天井や壁から伸びた氷の柱が、ユズルの身体の自由を奪っていた。
避ける余裕なんて、無かった。
「がっは……っ!」
広範囲の物理攻撃。
全身が氷に張り付き、そのまま洞窟の壁へと叩きつけられる。
その衝撃で崩れかかっていた洞窟が崩壊を始め、クロセルは地上へと抜け出した。
(く……そ………、身体が動かねぇ……)
頭を強く打ってしまい、身体が麻痺してしまったようだ。
手先に視線を落とすと、いつの間にか魔人化が解かれていた。
……どうやら力尽きたようだ。
(こんな、ところで……)
崩壊する洞窟の中で、ユズル意識を失った。
白く輝く、1本の剣を残して──。