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第83話 闇の力





魔氷(グラシエル)撃鉄(・ストライク)


「っ、参の型 劫火!」


 凍る闇の刃と炎を纏う光の刃がぶつかり合う。

 腕力だけだとその差は歴然だが、覚醒したシュバルツの力は凄まじいものだった。

 しかし、例外的な強さはクロセルも同じである。


「なっ、手先が凍って……っ」


 手に握る剣は今も燃え続けている。

 だがユズルの手先は徐々に凍り出していた。


「たとえ君の精霊が覚醒したとて、君自身は何も変わっていない。覚醒したのはあくまで私と精霊(きみのけん)だ、君が覚醒しない限り勝ち目はないよ」


 シュバリエルの覚醒に、まるで自分が強くなったかのように錯覚してしまっていたが、ユズル自身は何も変わっていない。


「早く見せてくれよ、君の本気を」


「俺は最初から、本気だ!」


「それが君の本気なら、もう用はないよ」


 さらに力が増しユズルの腕は凍りついていく。

 流石にこれ以上は危険と考え退けるが、


魔氷(グラシエル)青嵐(・ブリザード)


 すかさず次の技が繰り出され、ユズルは必死に剣で身を守る。

 だが、守りきれるのはせいぜい半身が限界だった。


「くっ、また傷口が……っ」


 細かい斬撃がまるで嵐のように襲いかかる。

 その一閃一閃がユズルの肌をかすめ、傷口は背中の傷同様凍りついていた。

 体温と体力が削られ続ける。


(このままだと本当に……っ!)


 戦闘開始からもうじき20分が経つ。

 寒さは増す一方で、洞窟内はまるで冷凍庫のようだった。


(とりあえず物陰に隠れよう……っ)


 視界がぼやける中、見つけた大岩の裏に身を隠す。

 身体に目を落とすと、衣服は所々引き裂かれ無数の傷が身体を蝕んでいた。


(本格的に、魔人化の力を使わなきゃ行けなそうだな……っ)


 魔人化の発動条件、ユズルは少し分かりかけていた。

 それは欲望だ。

 勝ちたいと思うその欲が、魔人の力を引き出す。


 だがそれだけではなかった。

 ユズルはこの旅の途中で二度魔人化が急速に進んだ時があった。

 それはフォーラ村でのベルゼブブ奇襲時と、ウィズダ村での影の魔人との戦闘後だ。

 今まで理由はわかっていなかったが、つい先日ふと気づいたのだ。

 この2つの共通点、それはどちらも"聖剣(シュバルツ)が覚醒した後"だということだった。

 そしてここに来てついに聖剣(シュバルツ)に眠る精霊 シュバリエルと出会い、ユズルの中でひとつの仮説が生まれていた。


 それは聖剣(シュバルツ)の力を使うほど、魔人化が進むのではないか、というものだった。

 言い換えれば、光の力にユズルの中に眠る闇の力が対抗しようとしているのではないか?

 対になる二つの力、それぞれが対抗し合い更なる力が生まれる。

 今ユズルの手に握られている聖剣は既に覚醒している。

 ならば今ユズルがすべきことはただ1つ。

  

 勝ちたいと、心から願うだけ。


「そんな岩陰に隠れても意味ないよ。魔氷(グラシエル)大砲(・キャノン)


 クロセルの放った一撃は大岩を破壊し、衝撃で洞窟内が崩壊しかける。

 辺り一帯が砂埃に包まれ、もはや洞窟の出口すら見えない。

 もしこの一撃が地上に放たれていたら、町がひとつ消し飛んでいただろう。

 それ程の威力だった。


「流石に死んじゃったかな?」


 クロセルは目の前に広がる砂埃の嵐を見つめる。

 洞窟の外に逃げる暇はなかったはず。

 ならばこの一撃で勝負が着いてもおかしくはなかった。


 だがそれは、ユズルが覚醒していなければの話。


「……よく耐えたね」


 砂埃の中、それは姿を現した。

 身体半分が黒く染まり、開かれた瞳からは黒い電が走っている。


 光と闇の共闘。

 それをユズルは一人で体現している。


 かつて英雄と契約し、魔王と戦った精霊が今、魔王によって魔人化している英雄の孫と共に戦っている。

 人生何があるのか分からない。

 アルバ村を出ていなければ、こんな世界を見ることは出来なかった。

 

 あの日から、全ては始まったんだ。


「……そうだよな、これは俺が始めた物語だもんな」


 砂嵐が消え、改めて向かい合う二人。

 お互い覚醒した姿は、先程までとはまるで別人だった。


「悪いけど、俺の物語はこんなところでは終われないんだ」


 こんなに圧倒的な差が見せつけられたあとでも、何故だか勝てる気がしてならないのだ。


「さぁ始めようぜ。俺たちの戦いを」


 ユズルの物語は、まだまだ続く。

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